HERO
 
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PRINCESS
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男性の背中は

 
 世界は暗黒神の脅威から脱し、棘に包まれていたトロデーン城にも穏やかな日々が舞い戻った。ミーティアは馬の呪いから解き放たれたとはいえ、こうも毎日のように勉強させられると、旅を続けていた頃が一番良かったと思うようになった。
 旅ではエイトが常に側に居たし、世話もしてくれた。
「はぁ」
 今はといえば、エイトの代わりに侍女がミーティアを囲み、大好きな彼は自分より離れて、近衛隊長の任務を果たして城を守っている。
 同じ城に居るのに、何故こんなにも距離が遠いのかしら。恋に悩むミーティアには、今しがた熱弁を奮っている講師の声にも耳が傾くことはない。早朝から長時間、椅子に座らせられ、講師の演説が終わった頃には、ミーティアはあから様にげんなりしていた。唯一、彼女が講師から聞こえる声は「今日はここまで」という一言。
 するとミーティアの顔は花が咲いたようにパッと明るくなって、部屋を駆け出す。廊下で警護に当たっていた近衛兵を見つけて、踊るような声を出す。
「エイトは何処?」
「近衛隊長でしたら、朝の訓練に顔を出されているのでは?」
 ミーティアは早速、訓練場へと足を運んだ。
 
 
 
 途中、洗濯場を通りかかる。すると体格のいい女中が嬉々として駆けていくミーティアに気付いて、慌てて引き止めた。
「訓練場は姫様が足を運ぶような所ではありませんよ」
「エイトが居るもの」
 男だらけのムサ苦しい所に姫君が行くのはもってのほか。女中は驚きながらも、諭すようにミーティアに言う。
「エイトは男、姫様は女です。彼が居ても、姫様には行けない所だってあるんですよ」
 女中は結婚前の大事な姫には男が群れる場所へは行って欲しくなかった。ミーティアはふくれ面を見せるが、ここは引き下がれない。
「訓練場はいけません。彼が出てくるのを待たれるか、後で彼を呼んだらいかがでしょう」
 今すぐにでも会いたかったミーティアに、後でエイトを呼ぶことなど出来ない。ミーティアは仕方なく訓練場の周りをウロウロすることにした。
 
 
 
 朝の定例訓練が終わっても、熱気のこもった訓練場が冷めるには時間がかかる。エイトは噴き出す汗をシャツの袖で拭いながら呼吸を整えていた。エイトの姿をとらえた兵士が、その隣に腰掛ける。
「今日は暑くて最悪でしたね」
「うん」
 汗でまとわりつくシャツを脱ぎ、ギュッと絞ると、ボタボタとそれは流れて、たちまち土を湿らせる。
「近衛隊長ともなれば、指導するだけで良いのに。皆と汗をかかれて」
 兵士は尊敬の眼差しでエイトを見た。エイトは彼の言葉にはにかみながら、掛けてあるタオルで髪を拭く。
「楽しいからね」
 暗黒神を追っていたときは、訓練などで振るう剣ではなかった。それが今となっては、誰かを倒すといった目的ではなく、ただ単に剣技の向上の為にするのである。今更ではあるが、エイトは平和になったと感じていた。なまった身体を鍛えるには十分ではないが、汗を流して剣に励むのは楽しい。正直、旅をしていた時よりも毎日に刺激がないので、ストレスの発散にもなる。
「隊長、水でも浴びられたらどうです?」
 訓練場の入り口から声がかかった。他の兵士達は既に身体を冷やし、服を着て朝食に向かおうとしている。
「うん。そうしようかな」
 エイトはそう言って井戸に行った。汗でくったりとしたシャツと、先ほど髪を拭いたタオルを洗濯カゴに投げ込む。
 外に出て井戸の桶を取る。日差しが強くて、水に反射する光が眩しい。太陽を見て目を細めると、美しい青空が飛び込んだ。
 冷めやらない身体に、頭から一気に冷たい水をかける。
「うわっ」
 思ったより量が多かった。汗でクシャクシャだった髪はぺったんこになって、肩から胸まで濡れてしまった。
 
 
 
 そんな時である。
 
 
 
 エイトを待っていたミーティアは、彼を見つけてしまった。
 セミヌードのエイト。髪は水を含んで滴り、濡れた肌は光に照らされて眩しい。水の冷たさと勢いとに驚いたその表情は、可愛らしいのに何処か色っぽい。
「エ、エイト」
 ミーティアは、しばし彼の背中に見惚れて口が開けなかった。やっと出た彼の名前は、口から抜けたようにしまりない。
「ミーティア」
 エイトは振り向いて驚いた。何故、彼女がこんな所に? この時間は読書をされるのではなかったか。
「どうしたの?」
 振り返れば、胸が見えた。平たいけれど、厚みのある胸板。
「ご、ごめんなさい!」
 ミーティアは駆け出していた。一直線に自室に戻り、不思議な顔で迎える小間使いを適当にあしらって寝室に向かう。
 顔が火照るように熱い。外に居て冷えてしまっていた手を当てても、頬の熱は冷めない。ミーティアは混乱していた。自分が裸だったのではない、エイトが裸だったのだ。なのにどうして自分が恥ずかしいのか。
 女中の言葉が頭をよぎる。
(エイトは男の子なのよね)
 旅の間はいつもその背を見つめていた。見失わないように、胸を弾ませながら追っていた。小柄な彼ゆえに、今まで意識していなかった男の側面。ミーティアは先ほどのエイトを思い出してしまう。
 自分とは全く異なる体つき。広い背中。太くはないが、確りと鍛えられた腕。ミーティアにはない、がっしりとした幅広い肩。そして胸。きょとんと童顔を見せる彼は、トレードマークのバンダナを取り、いつになく艶があった。
(男と女って、こんなに違うのね……
 ミーティアは改めて驚いた。慌てたのかもしれない。
 
 
 
 落ち着きを取り戻そうと、水を取りに行く。侍女に頼めば良かったのかもしれないが、赤面した顔と取り乱した姿のままでは、誰にも会いたくなかった。
 でも。
「エイト!」
 部屋を出れば、今一番会いたくなかったエイトが待っていた。
「洗濯のおばさんから、君が僕を待ってたって聞いたんだ。何か用があったんじゃないかと思って」
 今は汗も引き、服を着て、涼しい顔で言うエイト。しかしミーティアは逆だった。顔はおろか全身が熱くなっていくのが分かる。再び彼を見ると、服ごしに先ほどの彼の四肢が思い浮かぶ。
……どうしましょう。自分でも不思議な位、ドキドキしてるわ)
 ミーティアはエイトの瞳を見れなかった。下目に彼の足元ばかり見ている。
 何も知らないエイトは、俯いたミーティアを心配そうに覗く。その上目が、無垢な表情とは裏腹に誘っている風に見える。
……?」
「ごめんなさい。用件を忘れてしまいましたわ……
 本当は、彼の姿を一目見たかっただけで、用件などそもそも無かった。ミーティアは咄嗟に嘘をついてしまう。
 何故か慌てている彼女を見て、エイトは不思議に思いながらもそれ以上は聞かなかった。きっと本当に慌てて用事を忘れてしまったのだろうと。
「思い出したら、また呼んで。すぐに来るから」
 普段通りの笑顔を見せて、エイトが言った。その笑顔の何と優しいことか。ミーティアは再び顔を赤らめる。
 エイトは帰っていった。扉が開くのを待っていたという彼は、朝食に間に合うのだろうか。扉を閉めて、激しく脈動して忙しい心臓を深呼吸して休ませようとする。そのままミーティアは暫くぼうっとしていた。
(エイトに気付かれてしまったかしら)
 頬がまだ熱い。
(今までも、エイトは大好きでしたけど、)
 ミーティアは初めて男性としてのエイトを見てしまった。そう、彼はあの肉体で暗黒神を倒し、この城に安らぎを取り戻してくれた。とても素敵な男性。普段はおとなしくて、そんな激しさは見せないけれど。
 彼の言葉を思い出す。「すぐ来るから」と。彼は忙しくて、いつでも呼べる人ではないのに。ミーティアが呼べば、エイトはすぐ来てくれるというのか。
(だめ。ドキドキが止まらないわ……エイト)
 ミーティアの胸は、どんどん甘く切なくなっていく。心臓の鼓動に呼吸がついていけなくなる。
 
 
 
 益々、彼に惹かれていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 思春期の異性自覚はきっとこんな感じ?
オトコの人を「美しい」と感じる瞬間です。
 
 
 
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