HERO
 
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PRINCESS
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使命という枷

 
 近衛隊長になっても、エイトは夜間の警備当番に加わっている。城内の人々は寝静まり、陽と人の暖かさも冷めたトロデーン城は、美しい闇夜に溶け込んでいた。昼の活気ある城も好きだったが、エイトは優しい夜も好きだった。
 ひんやりとした廊下をひとり歩く。
 城を見回っていると、バルコニーへの扉が僅かに開いていた。
……?」
 戸締りは夕方の警備兵が確認した筈だが。不思議に思ってエイトは近づいた。
「エイト」
 月明かりにミーティアが照らされた。驚いているエイトを見て、碧色の瞳が笑みを溜める。
「夜の見回り、大変ですね」
 しなやかな月の光を浴びて、ミーティアの白い肌は煌々と輝き、透き通ったように美しい。背に揺れる黒髪は、水に浸されたかの如く艶っぽい。エイトはしばし彼女の容姿に声が出なかった。
「こんな夜更けにどうしたの?」
……眠れなくて」
 ニコリと口元を上げて微笑むミーティア。清らかで愛らしい姫君は、しかし何処か悲しそうで。不思議にエイトは足を止められ、そこから離れることが出来ない。
「ねぇ、エイト」
「うん?」
「こうして月を見ていると、旅の頃を思い出すわ」
……そうだね」
 真っ直ぐ月を見つめる姫を眺めてから、エイトも月を見ることにした。
 彼女はあと少しでサザンビークに輿入れする。平和とともに齎された盟約の復活と婚儀の朗報に、今や城中が喜んでいた。
 ミーティア本人を除いて。
 国と国に言い交わされた古い約束は、確かに守らねばならない。人にはそれぞれに使命があって、ミーティアも王族として生まれた以上は、トロデーンの歴史と血統を継いでいかなくてはならない。自分が生を受けた時点で果たさねばならない最大の使命が、過去に結ばれたサザンビークとの縁談を達成することだった。
 
 
 
 でも。
 
 
 
 ミーティアは王家の試練で見たチャゴス王子を思い出す。鞭を打ち据えられたあの時を思い出し、身体の奥底から恐怖が襲ってくる。
 怖い。
 悪寒に身を震わせ、ミーティアは細い両腕を身体に締め付けた。
「、寒い?」
 震えるミーティアに気付いて、エイトが上着を掛ける。エイトの温もりが残るそれはミーティアには大きくて、彼女の細い身体をすっぽりと包んだ。
……ありがとう」
 ほんのりと彼の匂いがする。心地よい、優しい匂いだ。
「エイトは優しいのね。暖かいわ……
 ミーティアは微笑んだけれど、エイトはその笑顔がどこか空虚で儚く感じた。不思議に彼女を見つめる。そんなエイトの視線を、ミーティアは長閑な瞳で受け止める。
「ここからの月を眺めるのも、あと少しになりそうね」
 寂しさや不安ばかりが募る。ミーティアはどうしても決心がつかないのだ。
 それはチャゴス王子が人間的に不完全であるからか、否。
 たとえ彼がどんなに立派でも、ミーティアにとっては同じ事だった。彼女の決心を鈍らせているのは、チャゴス王子の問題以上にエイトという男性を愛しているからに他ならない。この想いはどうしたら良いのか。
 
 
 
 
 
『泉に行って少し休もうか』
 エイトは常に馬姿の自分を気遣って、旅の疲れを癒してくれた。父王も己も、呪われた身ではただただ彼に頼るしかなかった。
『太陽の鏡を手に入れました。もう少しの辛抱です』
『よっしゃ! 早速、あの憎きドルマゲスめをしばき倒してくるのじゃ!』
 いつも見つめていた背中。呪いを受けて城を出てからは、彼の背中をずっと追っていた。振り返らずに、真っ直ぐ走るエイト。そんな彼が振り返ってくれればどんなに嬉しいかと、逞しい彼の背中にいつしか恋をしていた。
 旅の最中は密かに自分の姿や立場に叶わぬ恋を嘆いていた。
 
 
 
 
 
 月を見れば、思い出が湧き水のように溢れてくる。
 エイトへの想いさえ、溢れるような。
 心が焦がれて、弾けるような。  
 
 
 
 
 そうして視線を戻せば、目の前に無垢な瞳で見つめているエイトが居る。
 ミーティアの想いはもう留めることが出来ない。
「本当は、」
 ミーティアが口を開いた。
「本当は、エイトが今日の宿直だと知っていたから、ここで待っていました」
 エイトはきょとんとしていた。しかしいくら鈍感な彼でも、ミーティアの瞳を見れば分かる。彼女は自分に恋していると。エイトはどぎまぎした。
「エイト」
「う、うん」
 ミーティアはエイトに気持ちを伝えたことで、心臓が昂ぶり大きく鼓動しているのが分かった。こんなに大きな音だったら、彼に聞こえてしまうかもしれない。
 しかしミーティアが続けて言おうとした時、それを塞ぐようにポツリとエイトが口を開いた。
「僕は、」
 彼は伏し目がちに、戸惑いながら言う。
「サザンビークの人も、トロデーンの国民も、皆が二人の結婚を楽しみにしてる。僕は、……僕個人の感情では動けない」
 最後の方は苦しそうだった。拳を固めて、声を震わせている。
 彼は良心の過失でミーティアを見ることが出来ない。
……そう、ですね……
 ミーティアにも彼と彼の言葉との思いが違うことが分かる。多分そうであって欲しいと願っているからそう感じるのかは分からない。ミーティアは今にも泣き崩れそうに、碧色の大きな瞳を潤ませていた。
「お仕事のお邪魔をして、ごめんなさい。もう……寝ます」
 ミーティアはエイトの顔が見れなかった。逃げるようにバルコニーから出て、小走りに自室へと戻る。
 一方エイトは、横切ったミーティアを留めることも出来ず、その場に立ち尽くしていた。ただ拳をギュッと固めながら。
 
 
 
 
 
 部屋に戻って、ベッドに蹲る。エイトの横を過ぎた時から涙は流れていた。身を縮めると、彼に借りた上着に気付く。ふんわりと、いとおしい彼の匂いがする。
 ミーティアは余計に身が焦がれた。涙が溢れて止まらない。
(貴方の事が好きです。大好きなのです)
 どうして言えなかったのだろう。
 エイトが好きで、離れたくありません。サザンビークに行きたくありません。他の人と結婚なんて絶対に嫌だと、どうして全てを言えなかったのだろう。
……ぅっ」
 ミーティアは我慢していた嗚咽を押し留められなくなった。
 王族という身分を超えて、ただ想い人と結ばれたらどんなに幸せか。貴方という人に貰われたらどんなに幸せか。
「エイト」
 彼は世界の人々をその手で救った。暗黒神という大いなる存在から、ルイネロ親子やパヴァン王のような一人一人の悲しみさえ。  
 
 
 
 
 エイト。どうか私も救って下さい。
 貴方の優しい心で、私の不安を取り除いて下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 彼女は個人と国家の板ばさみ。
そして彼女を愛する自分は、身分に隔てられ。
あぁ、べルばらみたい。(年齢バレるよ)
 
 
 
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