HERO
 
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JESSICA
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ドニの町

 
「ほう、儂の所に来るとは珍しい」
 切り株に腰掛けて休息を取っていたトロデ王は、肩をいからせてこちらへ向かってくるゼシカを眺めて言った。
 そんな言葉で迎えられたゼシカの方は、敢えて他人行儀な言い方で返す。
「もう王様も諦めてくれたと思ってますから」
「まぁ、ここまで来たら連れていくしかなかろう」
 彼女がドルマゲス討伐の旅に加わると言って一行についてきた当初は、トロデ王もこんな若い、しかも由緒正しきアルバート家の令嬢など預かれないと困惑を隠しきれなかったものだが、ドニの町まで来てしまった以上、流石に今から引き返せとは言えない。ここに来るまでの道中、トロデ王は幾度となく「もうここら辺で良いじゃろ」と言ってゼシカの説得にあたっていたが、マイエラ修道院での一件があった以降は、ゼシカを仲間として認めつつある。
「ククールには帰れって言わないのね」
「奴はどうにかなっても申し訳立たぬ者がおらんじゃろ」
 トロデ王がゼシカと話す時は、必ず二言目には母・アローザの話題を持ち出す。ゼシカにはそれが気に食わぬようで、加えて最後には「やはり連れて行く訳にはいかぬ」と言葉を締める。彼女はその展開をなるべく避けるよう、トロデ王との接触は避けていたつもりだった。
 しかし今日は彼女の方から近付いてきたのだから、トロデ王にしてみれば、それは珍しい事だった。
「新参者が受け入れられんのか」
「、そういう訳じゃないけど」
 彼女が切り出さなくともトロデ王には概ね判っていた。
 ゼシカはマイエラ修道院でククールを仲間に加えてから様子がおかしい。彼が一行の旅に加わる前、ここドニの町の酒場で起こした騒動もあってか、彼女はククールに対して非常に厳しい所がある。それは女の扱いに軽い彼の性格にも拠るものでもあるだろうが、トロデ王は原因は別にあると思っていた。
「私も最初からパーティーに居たわけじゃないから、新しい仲間が嫌っていうのは悲しいわ」
「ほう」
「ただ、ククールが入ってからちょっと変わったと思って」
 おそらくゼシカは、ククールが仲間に加わったことでメンバーの雰囲気が変わったことに気付いたのだろう。勿論ゼシカが加わった時も、旅の空気は一変した。男だらけのむさ苦しい旅に、息を飲むほど美人の彼女が飛び込んできた時は、今以上の変わりようだった。このような変化には本人こそ気付かぬものの、初めて受け入れる側に立ったゼシカはまさに今、新しい空気を感じているのかもしれない。
「戦闘はだいぶラクになったと思うじゃろ」
「そうね。戦うことに関しては」
 彼女は軽く頷いて、それから「でも」と言葉を続けた。
「ククールが仲間になってから、ちょっとユルくなったと思わない?」
「緩い?」
「雰囲気が、よ」
「ほう」
 もともと真面目な彼女である。トロデ王の曖昧な相槌を聞けば、ゼシカは少し離れた場所に居るエイト達を眺めて声色を固くした。
「ほら、またヘラヘラ笑ってるじゃない」
 彼女の視線に促され、トロデ王が身を傾ける。ゼシカの身体を隔てた向こうには、樹木の幹に背を預けて休むエイトとククールが居た。
「確かに笑っておるの」
「でしょう」
 木陰で談笑する二人が見ているのは、先の戦闘で小川に転落したヤンガスの洗濯物か。水を滴らせる毛皮とズボン。どうやらククールは風になびくヤンガスのズボンを見て、「乾いたら二人で穿こう」と言っているらしい。
「エイトまで毒されちゃって」
 ゼシカは可愛らしく頬を膨らませ、木漏れ日の下で屈託なく笑うエイトに不満の色をぶつけた。エイトは彼女の視線に気付くことなく、ククールと笑い合っている。
「奴があんなに笑うとは珍しい」
 トロデ王は肩をいからせるゼシカとは対照的に、どこか関心したような面持ちで呟いた。
 城で近衛をしていた頃は、年若いエイトに気心の知れた同僚は居らず、加えて彼の年齢には重い職荷を任せていた所為もあって、年相応に笑うことは殆んどなかった。気苦労の多いエイトを労う年配の仲間達に、彼は何時からか恥かむように微笑っていたのだ。
 その点においてククールは、エイトにとって初めての「友人」になったのかもしれない。年の近い同性の仲間としては、成程ヤンガスやゼシカにはないものがある。軟派な性格のククールは、思いのほか正反対のエイトと巧く噛み合うようだ。
……エイトは変わった」
「儂には嬉しい事じゃがの」
 大口を開けて笑うエイトを見てトロデ王が目を細めた時、ゼシカはそれを制するように語気を強めて言い放つ。
「たるんでるわ!」
 両胸で拳をギュッと握って訴える彼女はやはり憎めない。
 誰よりも正義感の強いセシカは、旅の休憩中でも気合はそのままで、笑い合う二人がどうにも気に食わぬらしい。
「これじゃドルマゲス討伐なんて無理よ!」
「ふーむ」
 トロデ王は是でも否でもない相槌を打つと、視線を戻してゼシカを見た。
 どうやら彼女は先程からきつい視線を送っているのに、自分の気配に気付かぬまま談笑し続ける男二人に気を揉んでいるらしい。
「ふむ」
 嫉妬か、とトロデ王は内心で合点した。
 しかし彼女の今の感情を言い当てたところで、言葉の返り討ちに遭うのは目に見えている。具合を察したトロデ王は沈黙を決め込むことにした。
 すると、
「あれだけ自分に執心していたククールが兄貴に懐いたもんだから、不満なんでげすよ」
「わっ!」
 泥を落としに水浴びへ行ったと思っていたヤンガスが、すぐ近くまで戻ってきていたのである。思わぬ方向から割り入った台詞に、ゼシカは驚いて細身の身体を跳ねさせた。
「ちょっと冗談!」
 しかし、すぐさま否定が突き返される。
 上半身の肌を晒したヤンガスに一喝すら加え、彼女はピシャリと彼を制した。彼女は絞られた腰に両手を置いて豊満な胸を張る。
「ゼシカの嬢ちゃん、そういうのをヤキモチって言うんでがすよ」
「私がヤキモチ? まさか!」
 完全否定の表情で、ゼシカはその大きな瞳を更に大きくしてヤンガスを見た。攻撃的な視線を注がれたヤンガスは、その気迫ある華顔にやや戸惑いながらも、己の感情に気付かない彼女に対して呆れたように一息を深く吐く。誰にでも好かれ、自然と周囲に人の輪を作り上げるエイトの人徳を語ろうとしていたヤンガスの予定は崩れ、気丈な若娘の怒りを受ける羽目になるとは。
 ヤンガスの心情を察したトロデ王は、気の抜けた苦笑を投じて両者の空気に入り込み、ぼそりとエイトを見て言った。
「ちと違うかの」
 否定したのはヤンガスの最初の言動。
 唸るように呟かれたトロデ王の言葉は、深い思慮の末に出たものなのか、聞いたゼシカは彼が自分の味方であると感じて気を良くした。
「そうよ。誰がヤキモチなんて妬くものですか、」
 畳み掛けるように言ったゼシカに、トロデ王は内心で含み笑いをすると、彼女に諭すよう言を続ける。
「ヤキモチかどうかは判らん」
 彼女の複雑な感情が一言で片付けられるものだとは思わない。己の嫉妬にすら気付かぬ生娘に、恋の芽生えを知らせてやるのも面倒な話だ。このような感情は人から教わるものではないだろう。
 トロデ王は、此処で会話にのぼっているとは露知らず笑い合う木陰の男達を揶揄うように一瞥すると、次にゼシカに向かって微笑しながら「ただ、」と付け加えた。
「ゼシカ、お主のその感情がどちらに向いておるのかの」
 ククールか、エイトか。
 トロデ王の長閑な眼差しを受けたゼシカは暫し一考する。彼女の心の内でどれだけの言葉が感情が行き交っただろう。見れば刹那かもしれないが、きっとゼシカの中では幾千幾万の時間が通り過ぎたに違いない。
……
 みるみるうちにゼシカの頬を朱に染まり、トロデ王は恋する乙女の誕生を目の当たりにして柔らかく微笑んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 ゼシカはいいこだから直ぐに気付くんです。
エイトがククに取られてブーたれてた自分に。
 
一方、あれだけ話題にされておきながら気付かない
男二人組の様子はこちら。
オマケ程度に会話だけでお楽しみください。

 
 
 
   ククール : 「ハニーがこっち見て妬いてら」(けらけら)
   エ イ ト : 「……離れたほうがいいかな」(どきどき)
   ククール : 「別にいいんでね? 男はかせてナンボだぜー」
   エ イ ト : 「僕がかれちゃうよ」(ぶるぶる)
   ククール : 「まさか、焼かれるのは俺の方だって」
   エ イ ト : 「なんで。ゼシカは君と居たいんだよ」
   エ イ ト : (まだそんなに親しくないので「君」呼びです。笑。)
   ククール : 「……お前、もしかして」
   エ イ ト : 「?」
   ククール : 「ゼシカがどっちに妬いているのか分かってない?」
   エ イ ト : 「?」
 
 
 

【けつろん】 残念、こっちも気付いていないのでした。
二人が鈍感だったらいいなぁ。
(特にエイトが天然+鈍感で最強だといいなぁ)  
 
 
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