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「眩しい……
 目の前に象られた「神の奇跡」に感極まり、私は不覚にも想いを声に出してしまっていた。
「そうね。ちょっと日差しが強いかしら」
 漏れ出てしまった心の声を聞かれ、私のまさに正面に立つ神々しいまでの感奮を呼び起こす天使は、振り返って無邪気な花顔を注いでくださった。
 アリーナ様。
 輝く太陽にキラキラと光を反射させる白い砂の上、透き通るような美肌を大胆に見せた水着姿の姫様が上目に私を覗かれる。下着姿と言っても間違いではないその御姿は、突き抜ける青空を背景に後光を放っていらした。
(嗚呼、眩しすぎる!)
 眼が眩むほどに美しい。
 私の眼前に広がる絶景は、決してここ「海辺の村」の砂浜と気候によるものだけではない。
「いえ。そうではなく」
 私は姫様のお言葉に冷静を繕って微笑を返した。
 今、こうして降り注ぐ太陽に片手を翳して瞳を細める姫様にこそ、私は直視できない眩さを感じているのだと。(でもちゃっかり凝視していたりする)
 
 
 
 
 
妄想クリフト

 
 
 
 
 
 今でも鮮明に覚えている。いや、姫様との思い出で色褪せるものなどは一つとしてないだろう。
「にっ、にににににに日光浴へ出かけませんかっ!」
 先日、私は生まれて初めて姫様を「デート」なるものにお誘いした。イオナズン級に爆発しそうになる心臓を抑え、命懸けの思いで恋人同士の約束をした。告白までに☆年かかった私には、天空への塔に乗り込んだあの時より勇気の要る瞬間だった。
 企画計画に一週間、発声練習に一週間。引っ込み思案で不器用な私は、それでも本番では言葉を噛んでいた。
「うん、いいよ!」
 私の中では姫様が悩まれた場合の言葉だとか断られた時の対処などを色々と(悶々と)考えていたのだが、なんとも姫様は軽いノリで、僅か5文字で快諾してくださった。
 こうしてなけなしの勇気を振り絞って提案した初デート計画は、1秒もかからずに成功。姫様とて少しは頬を赤らめて「初デート」なるものに緊張と期待を抱いてくださるのではと思っていたものだから、やや空振った気もしないではないが、
(流石は姫様! 動じない!)
 私は何事にも寛大な姫様に改めてクラリときてしまった。(末期症状)
 
 
 
(※現在はげしく妄想中※)
   二人で日光浴。二人で砂浜。二人で海。二人でバカンス。
   二人で。二人きりで。二人きりでっ!!!
 
   これが何を意味しているか、姫様はご存知なのか。
   わ、私は期待して良いのだろうか……
 
 
 
「クリフト?」
……ってはぁっ! 姫様っ!」
 迂闊にも脳内で先日の思い出に浸り過ぎていた。心配そうに顔を窺われる姫様の鼻頭が至近距離まで迫ってきて、驚き慌てて我に返る。
「具合が悪いの?」
「い、いえ」
 大きな瞳を真っ直ぐに向けられ、心の内に渦巻いていた邪まな妄想がちょっとした罪悪感に変わる。
「顔が赤いよ」
 そう仰って姫様は愛らしいお顔とお身体を近づけられた。
「ひ、姫様」
 小さな肩より繋がる細い腕。白いお腹にくびれた腰。瑞々しい太腿に脹脛。普段ならば絶対に拝めないビキニ姿の姫様が私を見つめてくださっている。
 そして何より。
……
 頼りない肩紐に支えられた乳房の谷間に、俯瞰する私の瞳は釘付けられた。
(こ、これを外したらどうなるのだろう……
 首の後ろで蝶結びをされたビキニの紐。髪を上げて露になった姫様の項(うなじ)に佇むそれは、少し引っ張れば直ぐにでも弾けて彼女の膨らみを暴いてしまいそうだ。柔らかそうに熟れた黄金の果実は、今や僅かばかりの布の覆いを纏うのみ。
……生きてて良かった!!!)
 姫様のこんな姿を拝めるとは夢のようだ。
 予めここ周辺のモンスターを(加えて人も)全て排除(惨殺)したきたのは正解だった。このビキニ姿の姫様を見ることが出来るのは私しか居ない。
 二 人 き り なのだから。
 私とて普段でも姫様にはそれは自由な格好をして頂きたいと思っている。(深層願望)しかし年頃の勇者殿の前ではそんな姫様をお見せする訳にはいかないし、マーニャさんに揶揄われては困る。尤も最大の難関はブライ様で、あの方さえいらっしゃらなければ姫様にはもっと刺激的な格好を……っ!
 
 
 
(※脳内オーバードライブ中※)
 
 
 
……って、ぶはぁ!」
「ク、クリフト!?」
 妄想が過ぎた。鼻血が出てしまった。
「凄い勢いで出てるよっ? 大丈夫?」
「は、はい」
 姫様は吃驚されて私の持ってきた「ふくろ」の中からタオルを探し出される。慣れた様子がそれはそれで悲しい。(←両思いの特権)
「クリフト、昨日の見張り当番で疲れているんだわ。ここの日陰で休んでて」
「はい」
 確かに私は寝不足だった。ここ数日は今日という日が楽しみで楽しみで眠れなかったものだから、目の下には濃いクマが出来ている。(ヘタレ)
「どうぞ姫様、私に構わず存分に泳ぎをお楽しみください」
 なんとか顔を引き締めて笑顔で言うと、姫様は「うん!」と大きく頷いて白い波へと走っていかれた。
 
 
 
 波間に佇む麗しの姫君。
 水飛沫に目を細めて戯れる御姿は絵画より飛び出た傾世の美神。
 嗚呼、愛おしの我がアリーナ姫。
 
 
 
 ……という昨日まで思い描いていた妄想は打ち砕かれた。
 姫様はエビルアングラーか突撃魚の如き見事な水泳で海面を縦横無尽に突き進まれていらっしゃる。物凄い光景だ。
……
 いや、こんなに衝撃を受けるのもグラビアアイドルのビーチロケを観すぎた私が悪いのだ。姫様が砂浜で寄せる波に嬉々とした表情を見せるお姿などあろう筈もなく、私は遠洋まで行かれるのではないかとハラハラしながら姫様を見守っている。
 姫様の美しい白肌に塗る為の日焼け止めも、私が塗って差し上げるつもりで持って来たのだが、ずっと海の中で泳がれている姫様には必要ないかもしれない。
 少々、いやかなり残念だ。
「クリフトー!」
 時々姫様はビーチパラソルの下で佇む私に手を振ってくださる。そしてまた潜られる。
「姫様ー、あまり遠くへ行ってはいけませんよー」
「うんー!」
 本当ならば私も水着になって姫様と一緒に泳げば良いのだろうが、実は私は水が苦手だったりする。というか泳げない。(ヘタレ)
 浅瀬で姫様と水を掛け合う光景を夢見たこともあるが、姫様に限って浅瀬に留まってくださるとは思えない。地獄の果てまで行った姫様なのだ。きっと海の底まで私を連れて行かれるに違いない。
(しかし情けない)
 姫様の望む所であれば何処へでも行くと決め、世界樹だろうと天空への塔だろうと登った私が観光地の海に入れないとは。
(あぁ、こんなことでは姫様に嫌われてしまう)
 やっと片思いが実ったのだ。姫様の信頼と好意を無碍には出来ない。エビルプリーストを倒し、この旅を終えてサントハイムに平和を取り戻した暁には、私も姫様に「決心」を伝えようとも決めている。
 これからもずっとずっと姫様をお守りするならば、やはり水泳の練習もせねばなるまい。
(今度、一人で海に来よう)
 そう思って溜息混じりに白い砂を掴むと、なんと私の隣には姫様が横たわっていた。
「ひっ、ひひひ姫様!」
 いつの間に!
 先程まで遠い海の波に泳いでおられたと思っていた姫様は、今は私の傍でうつ伏せに寝転がってらっしゃる。泳ぎ疲れてしまわれたのか、姫様は瞳を閉じて眠っておられるようだ。
「姫様。こんな所でお休みになっては……
 裸同然の御姿では、この潮風にお風邪を召されてしまうだろう。
 私は姫様の傍に手をついて声を掛けた。
「姫様、」
「んン……、」
 私が考え事をしていた間に姫様は大分眠られたらしい。遠く私の声を耳に聞き、深く瞼を閉じた姫様が唸るように声を漏らされた。
「ン、……
……
(かっ、可愛いすぎます……ッッッ!!!)
 柔らかそうな頬を腕に押し当てて眠る姫様。その無邪気な寝顔に眩暈を覚える。
 無防備に背中を見せた姫様の女性らしいラインが私の視線を放さない。寝返りを打って仰向けになった際、造作なく投げ出された細く長い手脚に砂がついた。願わくばこの砂になりたい。
 いや、それ以上に。
(なんだか、こう……、ギューってしたくなります!)
 愛おしすぎて抱き締めたくなる。
 私は思考のうちで己の両腕を身体に巻きつけ、身をくねらせて姫様の悩殺的な魅力に悶えた。柔らかく温かい姫様を抱擁する感触を思い描く今の私は、恍惚の表情を隠しきれていないだろう。
(あぁ、無防備に見せるその寝顔は罪そのもの)
 彼女は地上に降り立った穢れなき天使。ケルビムの園よりお生まれになり、セラフィムの奏でる歌声に満たされて舞い降りられた至上の宝物。そうでなければあの人間離れした腕力……いや、美しさは説明がつかない。
「姫様……
 私は思わず生唾を飲んで姫様に近付いた。
 その、まるでサクランボのように艶やかに色付いた唇に触れたい。薄い呼吸を漏らして僅かに開いた唇に、自分のそれを落としたい。
 姫様が起きてらっしゃる時は決して出来ない口付け。輝くような瞳で私を見つめてくださる時には伝えられない想い。
 盗むような行為に背徳心が過ったが、私は私を抑えることが出来ない。
……
(姫様、)
 私が姫様の唇に触れようとしたその時、
「ぐはっ!」
 姫様がムックリと起き上がられて額がぶつかった。
「あっ! クリフト! ごめん、大丈夫!?」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
 痛い。
 姫様の頭突きも例に漏れず痛烈な破壊力だ。素晴らしい。「痛恨の一撃」とはまさにこれだ。色んな意味で私に衝撃を与えてくださる。
「い、いえ。起きてくださって良かったです」
 しかし覚醒されて良かった。本当に助かった。
 残念な気持ちも勿論あるが、このまま私が姫様の唇に触れてしまっていたならば、私の中の本能が目覚めて「それ以上」をしていたに違いない。
「どうしたの? クリフト」
「あ、いえ」
 純真な無表情に言葉を濁して生返事をする。
 姫様の唇に触れようとした瞬間に感じた心地よい緊張と感情の昂揚。あのまま高鳴る心臓のままに突っ走ってみたい気持ちも残っていたが、姫様の無邪気をだし抜いてはならぬという自制心が働く。
(よし。理性は健在だ)
 私はゴホンと咳払いをして気分を改めた。
「もうお疲れのようですね」
 私は鮮血に染まったタオルと日焼け止め、お弁当や水筒などを「ふくろ」にしまいながら姫様を見る。
「そろそろ皆と合流しましょうか」
「えー!」
 私とて姫様と二人の時間を終了させるのは辛い。物凄く辛い。
 しかし皆に迷惑をかけている手前、且つブライ様に門限を約束させられた手前、私は言わねばならない。
「やだー」
 姫様の残念そうな顔が心苦しいが、それでも理解って欲しいと私は苦笑して言った。
「やだって……私も此処に居たいですよ」
 私だって姫様とイチャイチャラブラブしていたい。姫様は此処で泳いでいたいだけかもしれないが、私はずっと姫様と二人きりで此処に居たいと思っている。
「まだ時間はあるよ?」
「陽が暮れれば益々戻りたくなくなります」
 少し早いが、今が頃合だろう。
 でなければ夕暮れと共に感情が募ってきて、此処を離れるのが余計に切なくなってしまう。
「やだー!」
「わっ、」
 突然、姫様は駄々をこねる子供のように私の胸に飛び込まれた。
「ひ、姫様」
 何回かこのように姫様を胸に抱いた事はあるが、ビキニ姿の姫様を受け止めるのは今回が初めて。姫様の身体の感触をダイレクトに感じた私は、全身の血が逆流しそうな程の衝撃に身を強張らせる。
「帰りたくない」
「で、でも、帰らなくてはなりません」
「いや。クリフト」
 姫様は緊張で固くなった私の身体にしがみ付いて懇願なさる。不毛な問答が何回か続いたが、姫様は私が姫様の甘えや我儘に勝てないのはご存知の筈。それを敢えて揺さぶってこられるのだから参ってしまう。
「まだ、居たいんだもん」
……
 我儘を言う姫様の上目遣いがもっとも私の胸をキュンキュン締めるのだ。これに弱いと知ってはいるが、だからと言って克てるものでもない。
「だ、駄目です」
 私はそっと姫様の腕を解いて距離を置いた。
 離れないとマズいと判っているからだ。このまま姫様の柔らかさと体温を感じていたら、私の想いが溢れてしまう。
……でないと、このまま貴女を返したくなくなる」
 抱いてしまいたくなる。
 姫様の肩に手を置いて、私は不意に言ってしまった。
……あ、)
 今、素に戻っていた。口が滑ったのか、想いが溢れてしまったのか。とにかく私は姫様を「貴女」などと呼び、感情をぶつけてしまった。
「! わ、わ私はなんという事を、」
 我に返った私は慌てて目を泳がせた。先の言葉を聞かれた姫様の顔を見るのが怖い。
「クリフト、」
「あの、えっと、」
 醜い独占欲を見せて姫様を困らせてはならない。どんな申し開きをしようかと、私は混乱のうちに言葉を探していた。
「す、すみません。えっと、あー、えぇ。……とにかく、帰らないと」
「クリフト」
 姫様はおろおろと戸惑う私の胸元を掴んで真剣な眼差しと声で私を抑えられた。
「私だってクリフトを皆の所に返したくないよ」
「姫様、」
 ……今、何と?
「好きよ、クリフト。大好き」
 だから……と姫様は私の耳元で小さく小さく囁かれた。
 
 
 
……
 
 
 
 全身の血が沸騰して身体が熱くなる。ドキドキと鼓動する心臓が煩くて飛び出そうなほど。
 今の言葉。私の耳にそっと吹きかけるように零された言葉は、私の唱える昇天呪文よりも遥かに威力が上だろう。
 加えて、言い終えた今の姫様の表情。
 頬を朱に染めて俯く姿はまさに「恋するオトメ」のそれで、まさか姫様からこんな表情を拝めるとは思ってもみなかった。私の視線に照れて瞳を伏せる姫様は何て可愛らしいのだろう!
「えぇっ! 帰りませんよ!」
 私は一度離した姫様をかき抱いて胸に収めた。
「ク、クリフト」
「返しません!」
 私の腕の中では姫様がやや驚いた表情を見せている。私の突然の抱擁に戸惑ってらっしゃるようだが構わない。すぐ後に見せた穏やかな表情が私を拒んでいる様子はないからだ。
「今日はですね、……きょ、ききき今日こそはですね……、」
 勢いに任せて言おうとした私に、姫様の肌が直に触れる。見れば、私の腕の中では柔らかそうな膨らみがカタチを変えて押し当てられている。
(こ、これは! ……お、お、おっ……
……ってぶはぁ!!!」
 私の鼻腔からは再び生温いモノが出てきた。鉄の味が咥内に広がるが、今は甘美な味に感じる。
「だ……大丈夫?」
「はいっ! 全く問題ありません!」
 傍に置かれたタオルを取ろうと姫様は腕の中で身動きされたが、今は鼻血などどうでも良かった。(こら)私は今、姫様と想いを通じ合えた喜びに魂の咆哮を挙げたい気分なのだ。恋人同士という幸せに満ちた今を感慨深く味わっていたいのだ。
「このクリフト、命枯れるまで突き進むのみであります!」
 
 
 
 
 
 あぁ、姫様。
 今日こそ私と一緒に堕ちてください。
 私が出血多量で死ぬ前に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 リクというか強引に要望を尋問して書かせて貰いました☆
(りんさんゴメンナサイぃぃぃ……
「エロエロヘタレ姫様命神官クリフト」ということで、
かなり阿呆アホな仕上がりです。うーん、あほ!
 
こういう神官は好物なので書いてて凄く楽しめました☆
ありがとうございましたっ♪♪♪
 
 
 
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