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恋のエレメント(成分)
 
 
 
 
 
 薄力粉、上白糖、卵黄、ベーキングパウダー。
 凡そそこに食べられない材料は入れていないというのに、それらを混合して出来た「それ」が食べ物のカタチを成していないのは何故だろう。
……これは何だ」
「ケーキよ、ソロ! 初めて見る?」
「いやケーキは初めてじゃねぇが、これは初めてだ」
 嬉々として顔面に差し出される小皿に乗せた「それ」を鼻先で交わし、勇者ソロは暫し思考を廻らせた。
「何のモンスターだ」
 スライムの亜種か突然変異か。
「ソロさん!」
 ミネアの叱責も半ば聞き流し、ソロが何か不気味なものを見るような目つきでまじまじと観察していると、甘い香りにつられてやってきたのが、このふくよかな武器商人。
「これはこれは。女性陣は皆さん揃って花嫁修業ですかな?」
「あらもう虫が来たのね」
 エプロン姿のミネアを見る事には慣れていたが、厨房に立つことそのものが珍しいと言えるマーニャや、目付け役のブライが見たら直ぐにでも「危ない」と言ってつまみ出されそうなアリーナが見えたのは新鮮だった。
「おいしそうな匂いですなぁ」
 トルネコは見目麗しい彼女達がお菓子作りに勤しむ光景を瞳を細めて眺めると、愛嬌のある小鼻をプクプクと動かして部屋中に広がる甘さを堪能する。勿論彼の一番の好物は愛妻の手料理に違いないが、甘いものに目がないのも事実。
 そうして厨房の戸口よりゆっくりと歩いて来るトルネコを、ソロはテーブルに肘をかけたままの姿勢で迎える。
「トルネコ。お前コレ見て言ってんのか?」
「コレとは? …………のわっち!」
 彼の指差した先、サントハイムの姫君の持つ小皿の物体を視野に捉えたトルネコは、そのあまりの色彩と形状に得も言われぬ形相で言った。
「こ、このようなアイテムは……流石の私も初めて目にするものですが……
「ケーキだよ」
「ケ、ケ、ケケ……ケーキ!!??」
「ちょっとアンタ達、失礼にも程があるでしょ」
 二人の会話に堪りかねたマーニャが柳眉を顰める。エプロンをするにしても肌の露出が多すぎる彼女は、その見事な括れを惜しげなく見せる細腰に手を当てて詰った。
 一方、ニコニコと笑顔を見せるアリーナの目の前で「それ」に釘付けになるトルネコを横目に流し、ソロは彼女の作品を窺い始めていた。
「マーニャの作ったのはちゃんとしてるのか?」
「失礼ね。料理なんて魔法とそんなに変わらないわ」
 成程彼女が得意気に差し出してみせたアップルパイは売りに出すにも恥ずかしくない造詣に香ばしい甘さを漂わせており、これを見たソロも素直に「確かに」と頷いていた。
「折角町の皆さんから頂いた卵ですもの。使わなくちゃ勿体無いわ」
 一方のミネアは二つ目のタルトをオーブンにかけている。
 ようやく町として体裁が整ってきた移民の町・ソロタウンは、以前より生産の基盤に牧場を開拓していたのだが、近頃になって飼い始めた鶏が多くの卵を産むようになってきた。ホフマンの手紙を読んだ一行は殺伐とした冒険に暫し休みを取り、こうして移民の町の発展具合を見にやって来たのである。
 来訪の歓迎として朝一番の卵を受け取ったミネア達は、早速宿屋の厨房を借りて卵をふんだんに使った料理をと励んでいたらしく、午後の昼時を過ぎた今はティータイム用のお菓子作りに入っていた。
「ミネアのそれ喰いてぇ」
「だめ。皆さんが揃ってからです」
 呼んできて頂戴、というマーニャの声と、誰かが向かって来る足音が同時だった。
「あ、クリフト」
「姫様。ケーキ作りですか?」
 移民の町の住民と共に教会の設立と運営に係わっていたクリフトが暫し休憩にと宿屋へ戻ってきたらしい。彼は厨房より響く賑やかな声を聞いてこちらに足を運んだようで、丁度テーブルに腰掛けた主君のアリーナが持つ小皿を見るとにこやかに笑った。
「お前、これがケーキってよく判ったな」
 彼の反応に驚いたのがソロ。
 嘗てクリフトはアリーナのケーキを一度目にしたことがある。その出来具合から「DO NOT EAT」と烙印を押されたそれは、誰の口に入ることもなく王宮の料理人達によって封印が施されたのだが。
「勿論です。以前に作られたものを頂いておりますから」
 王宮付の神父が供養する間際のものを彼は食べていた。
「食ったのか! これを!」
 彼は吃驚の瞳で見つめる勇者の視線を受けながら、今も異物を観察するかのような視線を「それ」へと注いでいるトルネコの隣に腰掛けると、白い小さな皿の上に乗る自信作を大事そうに持っているアリーナへ柔らかい眼差しを送る。
「食べる?」
「食べても宜しいのですか」
「もちろん!」
「「えっ」」
 二人の会話に驚いたのはソロとトルネコだけではない。
「クリフトさん、あの」
「ク、クリフト」
 彼女の渾身作を揶揄する言葉を窘めてはいたものの、実際に食べるとなれば美人姉妹も戸惑うほかなく、笑顔を見せあうアリーナとクリフトに思わず声を割って入れていた。
 しかし躊躇した二人の制止が間に合う筈もなく、
「クリフト。はい、あーん」
 周囲に緊張が走る中、アリーナは小皿に乗る黒塊をフォークで千切って掬うと、クリフトの口に差し出していた。
「ひ、姫様。これは、あの」
 食べると言っても、まさか愛の餌付けとは。
 夢には見てはいたものの、現実での展開は予想だにしなかったクリフトは驚き慌てて口を引き結ぶ。
 にこやかな表情から彼女にそれ以上の他意はないのは判るが、今の行動にそれ以上の意味を抱いているクリフトの方は躊躇うばかり。
「クリフト、あーん」
 彼の狼狽にもアリーナは笑顔のまま、寧ろ彼女の口が大きく開いている。
 クリフトは可愛らしく口を開けて己もまたそのようにするのを待ちわびる姿を眼前に、やや苦笑して口をゆっくりと開くと、主君の望み通り声を発して言った。
「あ、あーん」
 恥じらいと緊張の交じる声。
 躊躇いがちに開けられた唇にアリーナは嬉々としてフォークに突き刺したものを運ぶ。他のメンバーがハラハラとしながら事の顛末を見守る中、ゆっくりとクリフトの口に入ったそれは、まず最初にゴキリという音を部屋に響かせた。
「ク、クリフトさん……
 凡そ食物を噛む音ではなく、心配したトルネコは彼の背を擦ろうと手を伸ばしたが、見ればクリフトの表情は驚くほど穏やかで、その晴れやかな微笑が逆に不安を募らせた。
「どう? クリフト」
………………姫様、」
 クリフトは至悦の表情を浮かべて金属にも似た物体を口の中で噛み締め、ゴリゴリとした鈍い音をさせながら幸せそうに味わう。
「おいひいれふ」(美味しいです)
「でしょー?」
 ウソだ、と沈黙に叫ぶ周囲の4人には全く気付かないのか、彼は更に言葉を続けた。
「嗚呼、幸せの味がします」
 頬が落ちる、とはまさにこの事。
 クリフトのうっとりとした表情はアリーナを頗る満足にさせ、彼女はその黒い物体を再び千切って彼の口に運んでやる。
「あーん」
「あぁンー」
 余程美味なのか幸せなのか、クリフトはやけに色気のある声で口を開くと、己の咥内へと運ばれるそれを堪能した。
「美味しい。本当に美味しいです」
 そうして彼の満面に悦楽を浮かべる様は、「それ」が見た目とは裏腹に極上のものに見えてくるから不思議なもので。
……うまいんか?」
 興味をそそられたソロは思わず手を伸ばしていた。呪われたアイテムを見るかのような視線を注いでいたトルネコも、クリフトの綻んだ笑顔につられて食欲を湧かせる。
「ちょ、ちょっと食べてみても宜しいですかな」
「もちろんー!」
 アリーナが微笑んで小皿を差し出すと、二人はゴクリ、と唾を呑んでそれを口に運んだ。
 
 
 
 
 
 次の瞬間。
 アリーナとクリフトを挟んで2体の死体がテーブルに転がることになる。
 
 
 
 
 
……まったく世話の焼ける、」
 習得したばかりのザオリクを2回も唱えたクリフトは、ソロが目覚めた時に疲労気味の溜息を吐いたのだが、深い黄泉の狭間より呼び起こされた勇者の方は堪らず悪態を返していた。
「てか死なないお前がおかしいだろ。何であれ喰って死なねぇんだ」
「死ぬ筈がありません」
「お前何で出来ているんだよ」
 まるで人間ではないという口調で、ソロは呆れ顔を見せるクリフトに返す槍で畳み掛ける。
「食いモンじゃなかっただろ、あれ」
「いいえ、食べ物です。ケーキでした」
 すっかり仲間の神官の笑顔に騙されたと宿屋のベッドの上で彼を睨めば、その奥のベッドには同じく寝込んだトルネコが映った。彼は未だ胃の調子が悪いらしく、ミネアが看病に当たっているらしい。
「姫様の作った物なら何でもいいって訳か? めでたい奴」
 顔面を蒼白にさせて魔の差した己を自戒するトルネコの様子を見て、ソロは皮肉を言う。
「お前、アリーナが差し出せば石でも食いそうだな」
 もしか毒か。
 ソロは己もまた胃袋が地獄絵図の如く阿鼻叫喚のうちに暴れるのを擦りながら、同じものを食べつつケロリとした表情を向けている男に舌打ちをした。
「姫様は石を食べさせるようなお方ではありません」
 看病人が男の自分であった事もあるのだろう、ソロの不貞腐れた表情を見たクリフトは、御門違いとばかりに彼の怒りの矛先を交わし、努めて淡白な口調で言を紡ぐ。
「薄力粉、上白糖、卵黄、ベーキングパウダー。ケーキは全て食べられるもので出来ていました」
 料理上手のミネアが傍に居たのである。そこにはソロが食感で捉えたような鋼の剣やパデキアの根っこ、うまのふん等は混入する筈もない。
「食べ物です。だから食べられます」
「そりゃそうだが、」
 それは究極だ。
 真顔で言い続けるクリフトにソロは大きな溜息を吐くと、大いに呆れたという顔で苦笑して見せた。
「そしてあの方が一生懸命お作りになったものが美味しくないわけがない」
「あぁもう分かったよ、」
 ソロは話を打ち切るように両手を広げて肩を竦めると、「やってられるか」とシーツを被って横になる。クリフトの盲目に似たのろけに付き合わされるのはいつも自分だと、損な役回りを呪うかのように溜息を吐いたソロは「疲れた」と言ってそのまま滋養を取ることにした。
「次に起きた時には、お前の成分も解るかもな」
「?」
 シーツの奥から聞こえてきた勇者の言葉に首を傾げたクリフトは、その後すぐに聞こえてきた鼾に安心して元の厨房へと戻る。今頃はライアンやブライを加えて午後のひと時を楽しんでいるであろう主君の所へ向かう為だ。
 トルネコの様子を見守るミネアに一言断って部屋を出る。今やすっかり病人の収容室と化した空間の扉を閉めながら、クリフトは「それにしても」とソロの言葉を反芻した。
……私の成分ですって?」
 二人の会話を聴いていたミネアは、扉越しに聞こえたクリフトの疑問符に満ちた台詞に陰ながらクスリと笑みを零していた。
 
 
 
 
 
 そうして彼が本日3度目と、合計にして5回のザオリクを唱えるのは、あと少し。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【あとがき】 本人は至って冷静なつもりですが、
脳内メーカーでいうところ、
クリフトは90%の姫様と10%のザキで出来ています(笑)。
だからこんなにおバカなんです。
 
ケーキも神官も酷い仕上がりになってしまいましたが、
こちらはどうぞ優那さんに。
リクエストありがとうございました☆
 
 
 
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