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DQ8[2]

 
暗黒神ラプソーンを倒してから、数ヶ月。
トローデンの姫であるミーティアとサザンビークの王子チャゴスの結婚が決まり、ミーティアの様子は暗く沈んでいった。
普通結婚となれば、不安もあるだろうが、幸せへの期待もあるものだ。
だから、暗くなる一方ということはない…のだが、今回は…。
ミーティアはチャゴス王子のことを良く知っていた。
エイトも、トロデ王も、共に旅をした、ヤンガス、ククール、ゼシカみんな良く知っていた。
チャゴス王子が最低だということを。
以前ミーティアはエイトの夢の中で、人は変わるかもしれない。
チャゴス王子も変わるかも知れない、といっていたが、エイトは望み薄だと思っている。
人は変わることがあるのは確かだけれど、人が変わるのは大変なことだと思う。
ミーティアにも分かっているのだろう。
だからだんだん沈んでゆく。
そんなミーティアを見るのはエイトにとっては何よりつらいことだった。
エイト自身救世主の一人であり、トローデン王国の近衛隊長としての責務に追われ多忙を極めていたが、自身の忙しさより、ミーティアの悲痛な表情を見るほうがよっぽど辛かった。
こんな状況になってはじめてエイトは自分の気持ちに気づいていた。
身分違いだとか、婚約者がいるとか、自分の出自が分からないとか、自分に言い訳していたのだと。
自分の心が訴えている。
ミーティアが一人の女性として好きなのだと。
やっと分かった。
 
 
 
近衛隊長といっても姫と自由に会えたりはしない。
けれど、一近衛兵のときに比べれば、はるかに会う機会は増える。
そして、会いに行くこともまた、不自然ではない。
エイトははじめて近衛隊長という立場に感謝していた。
 
 
 
「ミーティア姫。」
バルコニーで今も悲壮な表情をしているミーティアをみつけた。
「エイト。」
エイトを見つけたミーティアは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
エイトにとっては一瞬でも笑顔を浮かべてくれることがとても嬉しかった。
けれどそれは本当に一瞬のことで、特に最近はすぐに悲壮な表情に戻ってしまう。
「ミーティア姫、本当に良いのですか?」
なにがとは言わないが、お互いに分かっていた。
「………。」
「姫が望むのでしたら私は…。」
「ダメです。その先は話してはいけません。エイト。私は王族なのです。そして、王族としての使命を果たします。自分で決めたことなのです。」
「では私は、一個人として、想い人に気持ちを伝えたいと思います。」
「……っ。」
ミーティアが息をのむのが分かる。
恐れ?期待?確信?予感?
さまざまな感情が入り混じり、消えて行き、最後には今にも泣き出しそうな顔だけがのこった。
「私はミーティア姫のことが…」
「ダメです。その先を聞いてしまったらミーティアは…ミーティアは…。」
そう言って耳をふさぎしゃがみこんでしまった。
エイトは大きなため息をつくと、空を見上げた。
もとより、エイトはミーティアを苦しめたかったわけではない。
もし、ミーティアが望むのならば、一緒に逃げようと思った。
実は追っ手のかからない場所に心当たりもある。
だがやはりミーティアは王族なのだ。
感情によって、責任を放棄することはない。
そしてエイトはもう一つ、夢の言葉を確かめたかった。
旅の途中、ミーティアがまだ馬姫だった頃、
『結婚相手がエイトだったら良かったのに』
けれど、エイトは気づいていた。
ミーティアへの想いを口にしようとして、自分の気持ちを再確認してわかった。
ミーティアがどう思っていようと、自分はミーティアのことをあきらめられない、と。
だから、ミーティアが落ち着くのを待って
「ごめん、ミーティア。でも俺はあきらめ悪いから。暗黒神を倒してしまうくらい、あきらめ悪いから。」
それだけ言うと、バルコニーを出た。
 
残されたミーティアは泣いていた。
本当は嬉しかった。
エイトが好きだった。
ラプソーンの呪いにかかる前から。
けれど、王族として、好きではない、というか好きになれそうにない相手に嫁ぐことを覚悟しているときに、エイトの言葉はきつかった。
本当は何もかも捨てて、エイトの手を取りたかった。
それでも、それはできなかった。
心が痛い、その感情のままミーティアは部屋に帰るとそのまま泣きながら眠った。
起きたときエイトの言葉は今はきついけれど、いつかきっと自分を支えてくれる。
そう思えた。
 
 
 
そのころエイトは思った。
“想いを伝えることができれば、あきらめることもできるのではないか”
なんて、愚かなことだったと。
『ミーティアをあきらめるなんてできない。』
それはなにをどうしても変わることはないのだ。
だから考える。
どうすればいいのか。
 
 
 
 
 
 
そして一つ思いついたことがあった。
ミーティアの決意を覆さず、ミーティアを悲しませない方法を。
 
準備は余裕を持って
準備は怠りなく
準備はあらゆる場面を想定して
敵をだますには味方から
エイトはいつものように注意深く、かつ大胆に準備をした。
 
そして結婚式の前日。
近衛隊長であるエイトはミーティアの警護を任命される。
ラプソーンを倒した仲間たちと共に、ザヴェッラ大聖堂をめざす。
「兄貴、こんどは気楽に、世界中を旅しませんか?」
とヤンガス。
「お前も兵士なんか辞めちまって、気楽に暮らせばいいのに。」
とは聖堂騎士団に復帰しなかったククールの言。
「エイトってばリブル村で待ってたのにちっとも遊びに来ないのってひどくない?」
とはゼシカの言。
なんと三人とも気楽に暮らしている。
宮仕えはエイトただ一人。
(世界を救った救世主たちがこれでいいのだろうか?)
なんにしろ、この4人は世界最強と同義なわけで。
そんな人間が、その力に見合った責任を果たし終わったとはいえ、気ままに暮らしている。
しかし、考えてみればその力を使おうとすれば、世界に混乱を招く可能性もある。
むしろこのままの方がいいのかもしれない。
なんにしろ、世界最強の護衛といえるだろう。
 
当然のことながら、無事にザヴェッラ大聖堂に着いた。
ザヴェッラ大聖堂に着くと、待ち構えていたかのようにチャゴスが現れた。
貴族か大金持ちなら結婚式に招待したが、平民は大聖堂に入れない。
といやみを残して去って言った。
その言葉にチャゴスが変わっていないのが分かった。
その場にいた皆が憤慨している中二人を見送るように頭を下げていたエイトが薄く微笑んでいたのに気づいたものはいなかった。
 
その夜。
「いいのかエイト。近衛隊長として、姫を護るってのは、幸せを護るっていうのもあるのじゃないか?」
ククールはエイトの背中を押そうとする。
だが、肝心のエイトは、
「間際まできてから、じたばたしてもはじまらないよ。あとはなるようになるさ。」
と取り合おうとしない。
その様子に、ククールだけじゃなく、ヤンガスも、ゼシカも首を傾けた。
 
 
そして次の日の朝。
ヤンガス、ククール、ゼシカの三人が目を覚ますと、すでにエイトはいなかった。
 
 
 
 
結局、エイトは見つからないまま、3人は大聖堂の前までやってきていた。
「どうするでガス。兄貴はいないでガスが、このまま結婚式に突入するでガスか?」
ヤンガスは物事の決定をしようとしない。
それはあの旅のときから変わらない態度だ。
ヤンガスが、エイトのことを兄貴と呼ぶのは助けられたからではなく(だけではなく)決定をエイトに委ねていたためかもしれない。
「どうするもこうするもないだろ。」
エイトがいないんじゃな…。
そう言って悔しそうにうつむくククール。
「あたしは姫を助けに行く。一緒に旅をした仲間だもの。」
ゼシカのその言葉にヤンガスもククールもはっとする。
そうだ。
エイトは近衛隊長としての責任があるから、逆に動きにくいのかもしれない。
けれど、自由な立場の者が自由意志で仲間を救いに行くのを誰が止められるだろうか?
いや力ないものの無謀な試みであれば、途中で止められてしまうだろうが、暗黒神ラプソーンさえ倒した彼らを誰が止められるというのだろう?
「そうだ、エイトなんか関係ない。俺は俺の意思でミーティア姫を助けにゆくぞ。」
「あっしは兄貴を信じてるでガス。」
「手助けは必要かも知れないし。」
そういってうなずきあい、大聖堂の扉に向かって駆け出そうとしたとき、一人のサザンビークの兵士が近づいてきた。
「ヤンガス様、ククール様、ゼシカ様ですね。こちらへどうぞ。もう式がはじまってしまいますよ?」
?????
?????
?????
三人とも狐につままれた表情だ。
「どういうことだ?昨日チャゴス王子は俺たち平民は式に招待しないようなことを言っていたぜ。」
代表するようにククールが尋ねる。
「クラビウス王のご命令です。大聖堂の前に世界を救った勇者3人がいるはずだから、丁重にご案内しろと。」
確かにクラビウス王は道理の分かる人間だと思っていた。
それは3人とも良く分かっている。
なら…。
「エイトのことは何か聞いてない?」
「いえ伺っておりません。」
ゼシカはこの答えを聞いて、エイトが何かしていると確信した。
クラビウス王はエイトが自分たちと別行動を取ることを知っているのだから。
 
 
三人が式場に入ったとき、式場にチャゴスの姿はなかった。
三人が式場に入り程なくして、花嫁が入場してきた。
ミーティア姫は真っ白なウェディングドレスに身を包み、生来のその清らかな美しさを際立たせていたが、その表情は暗く、俯くように歩く姿はこれから結婚式を挙げる新婦の姿とはとても思えないものだった。
花嫁が到着すると、クラビウス王が話し始める。
「わが国のチャゴスとトローデンのミーティア姫の婚約についてはここにご列席の皆様もよくご存知のことと思う。だが、トローデン国の世継ぎはミーティア姫しかおらず、我がサザンビークの王位継承者もチャゴス一人と思っていた。トローデン国も、我がサザンビークも過去の約束を守ろうとチャゴス王子とミーティア姫の結婚を進めてきたのだが、このままでは、トローデン国は世継ぎを失ってしまう。私はこのままで良いのかずっと考えていた。」
ここで一息つくと、脇の扉から正装したエイトが出てきた。
そしてクラビウス王はまた話し始める。
「実は先日、我が兄エルトリオの遺児が見つかったのだ。知っているものも多いと思うが、暗黒神ラプソーンを倒した勇者の一人であるエイト、エイトこそ我が兄エルトリオの一人息子。急遽ではあるが、トローデンのミーティア姫とは約定に従いこのエイトが結婚する。」
この言葉を聴いて、ククールとゼシカは昨日のエイトの不可解な行動をやっと理解していた。
間際になってじたばたしても始まらない。後はなるようになる。
「あれはこういうことだったのね。」
「何のことでガス?」
ゼシカの言葉に良く分かっていないヤンガスが問いかける。
「つまり、あいつは昨日宿屋で横になっていたときにはこうする準備は全部終わっていたってことだ。姫様のことがどうでも良かったんじゃない。俺たちは昨日になってから、どうにかしようといい始めたが、あいつはきっとずっと前から、姫様のために準備してもうやるべきことは終わったあとだったんだ。」
ヤンガスもククールの解説でやっと理解できたようだ。
さすがは兄貴でガスをしきりに繰り返している。
 
クラビウス王の言葉は続く。
「トローデン国の祖先も、我がサザンビークの祖先も、意に沿わぬ結婚を強要するためにあのような約定をしたのではない。約束は過去のものであり、約束に縛られる必要はないだろう。もちろんミーティア姫もエイトもこの結婚が気が進まぬなら取りやめよう。だがこの二人ならば、お互い幼馴染でもありお互いを想いあっている。きっと我らの先祖の約束はこの二人のためにあったのだと私は信じている。」
「エイト。」
クラビウス王の言葉が終わる前に、ミーティアはエイトに抱きついていた。
「ミーティア。」
エイトもミーティアを優しく抱きとめた。
「エイト、私、私………。」
エイトは泣きじゃくるミーティアをやさしく抱きしめながら、ゆっくりと語りだす。
「ずっと…、ずっとミーティアのことが好きだった。私と結婚してください。」
「はい、よろこんで。」
エイトの言葉に迷いなく答えるミーティア。
エイトはミーティアの手をとると薬指にアルゴンリングをはめた。
「父と母の形見です。」
「………っ。」
形見ときいて何か言いかけたミーティアを制して
「ミーティアに受け取ってほしい。詳しいことは後でゆっくり話すけど、きっと喜んでくれる。父も母も結婚を反対され引き離された。だから僕が愛するものへと送りたい。」
そして二人はゆっくりと近づき口づけする。
 
 
クラビウスは思う。
実は王族は立場という呪いを受けているのではないか。
しかし、何事も変えていける。
この二人が証明している、そしてこれからも…。
チャゴスのこともあきらめてはいけない、きっと変えていける。
きっとこれが第一歩。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【 感 謝 】 結婚式当日、ギリギリで行動を起こす本編とは異なって
行動的というか計画的な、意志の強い8主にドキドキです!
両家の盟約に対する考え方や王家(王族)という身分の解釈、
そしてダメ息子に前向きな視野のあるクラビウス王、
か っ こ い い で す ! ! !
 
素敵な小説のご投稿、誠にありがとうございましたっ☆
 
 
 
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