城全体がキラキラと輝き出して、棘の呪いは解けました。
棘にからめとられていた城の者たちが庭に集まり、帰還した王と姫、旅の仲間たちを迎えます。
トロデーン城を覆い尽くしていた不幸は取り除かれたのです。「宴の用意を」というトロデ王の一声で、城は息を吹き返しました。
煤けた厨房に炎が戻りました。料理長が腕によりをかけたご馳走の匂いが城中を満たします。
さぁ、宴の始まりです。
宴を取り仕切る王。その指示で料理が山のように運ばれてきます。
久方のワインに頬を染める姫。
トーポにチーズをちぎって与える勇者に親しげに話し掛ける兵士。
目の前のご馳走を次々と平らげる食いしん坊のヤンガス。
集まる子供たちにメラを見せるゼシカ。
またもや美人を見つけ口説こうとするククール。
このあとゼシカのメラが彼に飛んできます。
楽しい宴。
晴れやかな青空がどこまでも突き抜けて、輝く太陽が優しい光を注いでいます。
平和を喜び称える歓声は、夜になっても冷めませんでした。
HAPPY☆LUKKY☆ENDING FOR YOU!!
(はじめてクリアのEDを回想しながら読んで欲しい、お遊び小説です☆)
それから数ヵ月後。
いつも通りの平和なトロデーン城にも、小さな変化が起ころうとしていました。
エイトは兵舎で手持ちぶさたに本を読んでいる所、ヤンガスに声を掛けられました。彼はエイトが近衛隊長に任命されたと聞き、その初仕事を手伝いに来たようでした。近衛隊長の初仕事とは、トロデーンとサザンビークの両王家に結ばれた婚儀のため、ミーティア姫を式場であるサヴェッラ大聖堂に護衛し、送ることです。
ヤンガスは親しげに話し掛け、相変わらずの丸っこい体を揺すらせて、大臣の託を伝えました。
(ヤンガスは相変わらずブラブラしてるのかな。ゲルダさんとは宜しくやってんのかな)
しかしヤンガスはその事については何も言ってくれませんでした。ゲルダさんに借りたままの「怒りの鉄球」を背に、彼は出て行きました。
エイトは出発の準備が出来たらしい庭まで、姫を連れてこなくてはなりません。
(…実は姫部屋、知らないんだよね。何処なんだろう)
兵舎を出ると、廊下で女の子を口説いているククールに出会いました。
(あぁまたト☆ンクスみたいな顔で口説いてるよ)
彼は聖堂騎士団を抜け、今は自由の身になったと言います。ククールもまたエイトの仕事を手伝いに来たようです。
ククールは突然言いました。
「ところでお前。この結婚に納得してんのかね?もしイヤだったら、止めちまえば良いのによ」
ククールは今回の結婚に納得していない様子です。お前も自由になれば?というククールと別れ、エイトは階段を上りました。
城の者と会話もそこそこに3階に来ると、丁度ゼシカと顔を合わせます。彼女はエイトの姿をとらえると、嬉しそうに駆けて来ました。
(普通の姿に戻っている…)
守備力がないにも拘わらず、まほうのビキニで最終戦に挑ませたエイトは、少しガックリでした。彼女はどうやら気に入ってくれなかったようです。
彼女は兄の墓や独り身の母の事もあって、リーザス村に居たそうです。ここ数ヶ月、エイトが村を訪ねてこなかったことを軽くなじりました。
(君がバニースーツで僕を待っててくれたなら、即ルーラで行ったのに)
いつも通りの服ですました顔を見せるゼシカを見つめながら、エイトは思いました。
庭で待っているからと、彼女は階段を下りて行きました。
エイトはミーティア姫の部屋にたどり着きます。扉の前で警護にあたっていた兵は、姫が最近ピアノで演奏する曲は悲しい曲ばかりだと心配しています。
(まぁ、姫は僕に惚れてるからね…)
夢の中にまで現れるほどです。エイトには自信がありました。姫は脈有りだと。
エイトが部屋に入った時も、ミーティア姫はピアノを弾いていました。彼女はサザンビークにもピアノはあるのかと呟きました。
(…確かなかったような。だから行かない方がいいよ)
どうやらミーティア姫は、自分を迎えに来るのをエイトにして欲しいと大臣に頼んだそうです。
(それってやっぱり…)
エイトは絶対、ミーティア姫は僕の事が好きなのだと思いました。暗黒神を倒しに行く前に、ゼシカにも告白じみた事を言われたのを思い出し、「僕ってモテるかも」と嬉しくなります。
ピアノから立つと、ミーティア姫は続けてエイトに言いました。
「少し早いけど、エイトにもきちんとお別れを言わなくてはね」
ミーティア姫の口調は、今までにはない静かなものでした。
「今まで尽くしてくれてありがとう。トロデーンで過ごした日々はミーティアにとって一生の宝です。サザンビークへ嫁ぐことで、ミーティアも王族としての職務を果たします。だから貴方も…」
姫は暫く黙りこんだようでした。
「…この先もどうかお父様に仕え、トロデーンの為に今まで通り尽くしてください」
落ち着いた、というよりは、諦めたような。そこには、ふしぎな泉で見せるような愛らしい笑顔のミーティア姫はありませんでした。
「では行きましょうか。あまり皆を待たせては悪いものね」
エイトが扉を開けます。重い足取りで部屋を出るミーティア姫。彼女がこの部屋に戻ることは、もうありません。
庭に向かう途中、2階から見える玉座に目をやります。ミーティア姫が立ち止まったので、どうしたのかとエイトが顔を覗きこみました。不思議そうに見つめるエイトは、彼女の複雑な心を理解してくれそうにありません。ミーティア姫は暗い面持ちでその場をあとにしました。
2階から外へ出ると、皆が待っていました。ミーティア姫の乗る馬車も待っています。
階上からそれを眺めて、ミーティア姫は再びエイトを見ました。すがるような眼差しは、言葉にならない彼女の想いを精一杯あらわしていましたが、エイトには届いていないようでした。そんな彼にあえて冷たく背中を見せて、ミーティア姫は階段を下りていきます。
大臣が待っていました。ミーティア姫は振り返らずに馬車に乗ります。悲しげな新婦を乗せた馬車は、サヴェッラ大聖堂へと向かいました。
ミーティア姫は船に乗ってからも表情は変わりませんでした。エイトが様子を見に来ても、突っぱねたように視線を送るだけでした。
サヴェッラ大聖堂に到着すると、エイト達が今回の結婚式には出られないことが分かりました。トロデーン大臣がエイトに言い放ちます。
「お前たちはここで宿をとって、明日にでも…」
(てか…大臣って、いばらの呪いがかかったとき、何処にいましたっけ?)
しれっとそう思いましたが、エイトは何も言いませんでした。ククールだけが正直に「…んだとコラ」という顔をしています。
何よりショックを受けたのはミーティア姫です。優しいミーティア姫は、エイト達に結婚式の席が用意されていないのはおかしいと訴えました。
(ミーティア、もう一声!)
エイトが心の中で彼女を後押しした、その時。
戸惑いを隠しきれないミーティア姫に、更に追い討ちをかけるようチャゴス王子が到着しました。
「これはこれは、はじめまして。サザンビーク王子、チャゴスでございます」
(来たか!ブタ野郎!)
危うく姫の前で抜刀しそうになりましたが、エイトは黙って彼を見ました。
相変わらずのぽっこりしたお腹を突き出し、彼は舐めるような目つきでミーティア姫を見つめました。
(視姦!許せん…!)
「ギガ…」
呪文が出掛かったところで、チャゴス王子が口を開きました。
「おお!あなたがミーティア姫ですね。なんとも美しい。この一瞬で僕の中にある数々の美女との思い出が色あせてしまった。貴方のような方を我が妻に迎えられて、このチャゴス、世界一の幸せ者です」
男としての株を上げようとの魂胆でしょうが、女性としてはその容姿に加えて最も嫌うセリフです。旅の仲間は、誰一人としてこの王子に「数々の美女たちとの思い出」があるとは思っていません。あったとしても、それがいか程のものでしょうか。
(そういうセリフは、俺並みの顔になってから言えっての)
エイトは、隣でそんな顔をしているククールを見ました。
チャゴス王子が、その一行に気がつきます。
王者の儀式で一緒だったエイト一行に見つかり、ヤンガスの言葉にヒヤヒヤしながらもチャゴス王子はミーティア姫が居る手前、強気に出ました。彼は身分を盾にとりエイト一行を愚弄します。
「かわいい姫が僕の妻になる、その神聖な儀式に、お前たち平民ぶぜいを招待するわけにはいかないからな」
チャゴス王子の勝ち誇ったような顔の後ろでミーティア姫は困惑していました。共に旅した心優しい仲間たちを、身分という秤にかけて侮蔑するチャゴス王子。仮にも貴方は王者の儀式で世話になったというのに?彼女の中でどんどんチャゴス王子に対する嫌悪感が募っていきました。
「王者の儀式からだいぶだったが、あの様子じゃ相変わらず性根は腐ったままだな」
(その通り!)
エイトは心の中で相槌を打ちます。
以前より権威や身分に反発を覚えていたククールが、今日のチャゴス王子に対してありったけの悪口を言っていました。酒が入っているのも拍車をかけたのか、机を叩き、彼は激しく叱咤します。
「でも明日になれば、姫様はあいつと結婚か…」
ククールが最も不快に思っていることはチャゴス王子自身でもありましたが、そんな彼に嫁いでいかなくてはならないミーティア姫の事もありました。
何も出来なかったダメ王子が、昔交わした約束があるというだけですんなりと美しい姫を手に入れて良いものか?逆に、古い約束の為に明らかに不幸な道を歩んでいくミーティア姫は、どうにもならないのだろうか?そう考えるククールは、この点ではエイトより正義感ある常識人のようです。
「…なぁ、エイト」
ククールは、荒れる自分を見守るように座っていたエイトを見ます。
「ホントに良いのか?オレは姫の幸せを守るのも、近衛隊長の仕事だと思うんだがな」
今日は近衛隊長になって初めての仕事をこなしてきましたばかりです。困ったような顔を見せるエイトは苦しそうです。
(…チャゴスを暗殺しろと?)←いやそこまでは。
時間だけが冷酷に経ち、次の朝を迎えました。いよいよ結婚式です。
目覚めれば、仲間は全員起きていました。
ヤンガスは先に見に行くと言って出ていきました。宿から出れば、ゼシカとククールがエイトの目覚めを今か今かと待っていました。
二人に「おはよう」と声を掛けると、大聖堂の鐘が響きわたります。式は始まっているのでしょうか。次々と人が長い階段を上っていきます。大聖堂を見上げるエイトに、ククールは耳打ちしました。
「あんだけ人が多けりゃよ、ドサクサに紛れて何かやらかしても大丈夫なんじゃねーかな」
(…それは、つまり僕に「やらかせ」って事だよね)
ククールは真剣です。
「昨日、オレが言ったこと覚えてるか?姫の幸せを守るのも、近衛隊長の仕事だって。あと、オレ達は仲間だ。お前が何かするつもりなら、力を貸すぜ」
(それ、皆でやらかすって事だよね)
彼の言葉を背に、エイトは階段を上って大聖堂前まで行きました。聖堂騎士団によって厳重に警邏された一体は、ものものしい雰囲気に包まれています。
「兄貴!」
ヤンガスはエイトに気付くと、半ば強引に最前列へと運びました。押し合う人波を掻き分けて前に立つと、一人の聖堂騎士団員が見張っていました。
「アッシはとっくに覚悟がついてるでがす。とにかく乗り込むなら今しかねえでげすよ」
ヤンガスの言葉にエイトも覚悟を決めました。一人、階段に踏み入れて、見張りの男と向かい合います。
「待て!それ以上近づいてはならん!両王家の結婚式がすむまで、おとなしく待っておれ」
(いやです)
彼の忠告はもう聞けません。エイトは更に足を進めました。
「まさか、おぬし、腕づくでも中に入ると言うのかな?」
(ええ、そうですとも!)
エイトはコクリと頷きました。もはや暗黒神を倒した勇者に敵うものなど誰もいません。暗黒神の居ない今、地上で最も強いのはエイトなのですから。
聞いて男が眦を吊り上げます。
「なんだと!?」
男の手が剣の柄にかかったと思った瞬間、ヤンガスが飛び出していました。彼は渾身の一突きを男の腹に見舞うと、男の体は足まで浮いて、そのままズルリと倒れました。辺りからどよどよっと観衆の声が低くあがりました。ヤンガスが振り向いてニヤリと笑います。
「ここはアッシに任せて行ってくだせえ!」
(流石は僕の舎弟。オトコを見せたね!)
エイトはそう思って力強く頷きました。
大聖堂の中では、チャゴス王子が花嫁の到着にしびれをきらして待っていました。短い足をパタパタとさせて、焦れる姿は憎しみを通り越して滑稽です。
クリア2回目で気付きましたが、参列者にはアスカンタ城のパヴァン王や、リブルアーチの呪術師ハワードさんの姿も見えます。結婚式の誓いを取り仕切るのは、まさに底辺からの出世を果たしたニノ法王でした。
重い扉が開きました。
鼻を伸ばしたチャゴス王子が、期待に胸を膨らませて振り向きました。そこには可憐なミーティア姫ではなく、エイトの姿がありました。参列者もまた彼を見てどよめきを隠せません。
「何のつもりだ貴様!僕の結婚式を台無しにするつもりか!
ええい、くそ!衛兵!今すぐそいつを摘まみ出せ!」
大聖堂はただならぬ雰囲気に包まれました。衛兵がエイトを囲みます。
(お?やんのか?)
久しぶりに暴れてもいいとエイトは思いました。衛兵に囲まれながら、エイトは暗黒神にトドメをさした己のギガスラッシュをもう一度かましたいと思いました。
そこに新たな聖堂騎士団員が使者として入ってきます。
彼は静かにクラビウス王のもとへ歩き、跪いて報告しました。クラビウス王が驚いた顔をしています。
「は…花嫁が…、ミーティア姫が逃げたそうだ」
「なっ、なんですと!?」
(よくやった!僕のミーティア!)
チャゴス王子も、ニノ法王も驚きました。チャゴス王子は、ミーティア姫が逃げたのはエイトが手引きしたせいだとして、彼を捕らえるよう命令しました。
エイトはじりじりと数人の聖堂騎士団員に囲まれました。ミーティア姫もトロデ王もここには居ません。
(じゃ、此処は用なしか)
彼は大聖堂から逃げました。
外にでると、辺りはなお騒然としています。ククールがエイトの姿に気付き、慌てて言いました。
「下でトロデ王とミーティア姫様が、兵士どもに囲まれているぞ!」
逃げようとした所を発見されたのでしょう。
「ここはオレ達に任せろ。エイトは姫様とトロデ王を頼む」
分かった、と大聖堂の階段を下りようとしましたが、ヤンガスとゼシカにも声をかけたくなりました。道草好きのエイトの悪い癖です。
「兄貴は心おきなく二人を助けにいってくだせえ!兵士どもは絶対に通さねぇでげすから!」
ヤンガスが言いました。
「ここはいいから、エイトは姫様を助けに行ってあげて!」
人間相手に呪文はどうかと思いましたが、ゼシカが唱えたのがマダンテではないことを確認し、エイトは安心して殿をまかせました。
エイトと同じく足場の悪いレティスの背に乗り暗黒神を倒した仲間達です。彼らもまた、その鬼人の如き強さは地上に類を見ません。そう、この時点で衛兵にとっては彼らがラスボスなのです。
階段を駆け下り、トロデ王を見つけます。トロデ王は何処で拾ってきたのか、それとも彼の装備品なのか、木の枝で衛兵と戦っていました。
(トロデ王!今の太刀捌、お見事!)
エイトがぼーっとしてそれを見ていると、トロデ王が言いました。
「おお!エイト。いい所に来おったわい。お前なら来てくれると信じていたぞ!」
(未来の息子ですから!)
そんな心の中は隠して、トロデ王の話を聞きます。
「今すぐミーティアを連れて、此処から逃げてくれ!やはりチャゴス王子なんぞに、かわいいミーティアをやれんわい」
「もはや国のメンツなぞ、どうでもいいわい。だからお前はミーティアを連れて逃げてくれ!」
(…もしや駆け落ちの公認?)
トロデ王のチャゴス王子に対する本音が聞けたことと、結婚式を拒否する意図を聞いたことで、俄然エイトはやる気になってきました。結婚式で花嫁を強奪するなんて、なんて典型的!そしてそれを自分がするとは!
そう思いながら、エイトは扉の前に待つミーティア姫を見ました。
「王家のかわした古い約束に従って、おとなしく結婚するのが運命なのだと諦めていました。それが王家に生まれた者の定めなのだと、ミーティアはそう思っていました」
純白のウェディングドレスに身を包んだミーティアは、とても綺麗でした。ゼシカが装備品で格好を色々と変えましたが、ミーティア姫もまた変わるのだと知って、嬉しくなりました。
(是非、姫にもバニースーツを…)
この期に及んで邪な考えを持つエイトには気付かず、思いつめたようにミーティア姫は訴えます。
「でも…」
大きな瞳が切実にエイトを捉えます。
「嫌なものは嫌です!あんな王子と結婚するくらいなら、お馬さんのままの方が良かったくらい!やっぱり自分の気持ちは騙せませんわ!」
(…言い切った!)
しかし、出来れば「貴方が好きだから王子とは結婚したくない」と言って欲しかったので、
「さぁエイト!この手を取って一緒に逃げて!ミーティアを此処から連れ出して!」
というお願いには、「いいえ」と答えてしまいました。
それまで全ての選択場面で、一度は必ず拒否してきたエイトの悪い癖です。
「そんな…ひどい…」
(…僕は酷い男なんです)
俯くミーティア姫にそう諭そうとした時、ある方向から激しい叱咤オーラを感じました。そう、トロデ王です。エイトはそのあまりの恐ろしさにビックリしました。
(…冗談ですよ、えぇ、勿論)
ミーティア姫はもう一度エイトにお願いしました。
「さぁエイト!この手を取って一緒に逃げて!ミーティアを此処から連れ出して!」
これを再び断り、トロデ王の呪いじみた視線を喰らい続ける無限ループもいいと思いましたが、エイトはコクリと頷きました。
真っ白の手袋をはめたミーティア姫の細い手を取ります。嬉しそうに姫は微笑んで、エイトに連れられます。
大聖堂の喧騒から逃げ出し、穏やかな道を駆け抜けます。辺りには芳しい花々が二人を囲み、見つめあいながら駆けていく二人を祝福しています。
大聖堂の鐘が鳴り響きました。もう遠くまで走ってきたエイト達には小さく聞こえましたが、心地よいその音色が心に染み入ります。
ふと前方には、見慣れた馬車が。
「…お父様!いつの間に?」
ヒョコっとトロデ王が、御者台から顔を出し、ウインクしました。
(それはヤンガスの役だったのに!)
エイトはミーティア姫の言葉に心のツッコミを入れました。そう、ヤンガスがいない時は、これから王への対応は彼女が担当してくれそうです。
促されるままエイトとミーティア姫は馬車に乗りました。
馬車は故郷トロデーン城へと戻っていきます。
大聖堂の高台からその姿を見ていた旅の仲間は衛兵を軽く殲滅し、にこやかに馬車が去るのを見送っていました。
トロデーン城の物見台より、見張り兵がひとつの馬車がやってくるのに気付きました。本来ならば盛大な結婚式を終え娘を送り出したトロデ王が大臣と共に帰ってくる筈でしたが、なんと馬車をおりたのはミーティア姫とエイト。
「思えば長い旅路であった…」
古い約束よりも、大切なのは、今こうして生きていること。トロデ王はしんみりと言いました。
「ミーティアの相手はミーティア自身が見つけるといいじゃろう。しかし、結婚式を逃げ出すような娘を、今後もらってくれる男がいるかどうか…」
(大丈夫です!僕がいますから!)
立候補しようとしたエイトを、ミーティアが見つめています。馬車をおりるのに触れた手はそのままに繋がっていて。
もう言わなくても分かります。これからのことは二人がなんとかしていくのです。
エイトは繋がった手を大事に包みました。
(…僕が、彼女を幸せにしますから!)
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