§0:Gleam
出会いは鮮烈だった。始まりはただの気まぐれ 半ば諦めに近い気持ちがあの瞬間、一転してしまった。 どす黒く染まった錬成陣、一見してナニを錬成したのかわかった。 そしてあの少年を見た瞬間、私の心は決まっていた。 エドワード・エルリック、11歳。 痛々しい姿でうつむいた金髪の少年は何もかもに絶望した表情で車椅子の上に在った。 胸倉を掴み挙げた瞬間に見えた彼の瞳は曇りきっていた。 一言も口をきかない……あるいはきけないのか、されるがまま揺さぶられる姿に腹立だしさが体から溢れそうだった。 たとえそれが失敗だったとしても、並みの錬金術師では一生かけてもできないだろう錬成を成し遂げた少年の全てを投げ出した態度が気に食わなかった。 持てるものをみすみす捨てようとしているその態度が妬ましい。 始まりはただの気まぐれだった。 出世の取っ掛かりの一つになれば、それで良いと。 次に驚愕と怒り。 そして、純粋な欲望。 知らないことを知りたいと思う事を知的好奇心というならば、私のそれは知的好奇心を超えた欲望だ。 曇った錆色の瞳を睨みつけているうちに本来の目的を思い出す。 『国家錬金術師』への勧誘。 体裁の良いそれを思い出した瞬間、自分の中で嵐のように渦巻いていたものがスッと消えていくのがわかった。 そこで初めて鎧に反響する少年の声に気づく……的外れにただ謝罪の言葉を繰り返すそれにどこか安堵し、ゆっくりと掴んでいた少年の服を放した。 口元には営業用の笑みさえ浮かべて家の主を振り返る。 「失礼しました、ロックベルさん。私は東方司令部所属ロイ・マスタング中佐……この度はエドワード・エルリック及びアルフォンス・エルリックに話があって参りました。少々、宜しいでしょうか。」 そう。 始まりは、ただの気まぐれだったのだ。 12/Feb/2004 |