遥か彼方―――空の上


人々は願う。


衰えたらいつか………、と。


人々は想う。


きっとそこは楽園だ、と





エデンと呼ばれるその街には


歴史を変えた一人の天使が住んでいた――――。

















始まりの合図














空に浮かぶ天使達の街―――ルミネと呼ばれる処で幾人かの天使達は平和に暮らしている。

敵対する者達のいない、白い羽根を持つ自分達だけのこの街で笑い合い
その姿だけを見ているとまるで地上で童話として云われているままだ。

しかしそんな暖かい空気の流れている場所でも渦巻いた感情はあるものだ。


「セレナ」


青い光の帯びている銀の髪を持つ青年は芝生に寝転んでいる一人の少女の名前を呼んだ。


「……ヴィントだ」
「文句でもあるのか?」
「いえいえ、ありませんよー。おはよう」


セレナは寝ていた身体を起こし大きく伸びをした。
太陽が昇っているというのに未だに眠たそうなその仕草にヴィントは思わず苦笑を漏らした。

セレナという少女の風貌は至って普通だ。
茶色のふわふわとした髪に金にちかい明るめの茶の瞳。
人懐っこい顔や表情で周りの友達からも親しまれている幸せな少女だ。


ただし―――


「最悪ですわ」
「折角の休みですのに」
「こんなところに何しにきているのかしら、忌まわしい」


この世界で禁忌とされている灰色の羽根を持って生まれてしまったため
いつもどこかで邪険にされてしまっているのだ。

特に自分を上流だと思っている者達の対応は普通の天使にとっても凄まじいものだ。


「早くワタクシ達の目の前から消えてくれないかしら」


いかにも上流風な服を身に纏っている一人の女が悪びれもなく言葉を発した。

その瞬間だった。

ヴィントは鋭く、そして氷のように冷たい視線をその者達に向けた。
元が美形と称される顔つきのため、彼のその表情は恐ろしいものだった。
それを証拠に先ほどまで優越感たっぷりにそして余裕をもって笑っていた女達が怯えた顔をしている。


「ヴィント」
「――――――」
「大丈夫だから。」


セレナはヴィントのその表情を見ても特に驚いた顔をせず落ち着いた声で彼を制した。

にこにこといつも通りの笑顔を見せながら“行こう?”と
その場から少し離れた街の中心部にある噴水の方に顔を向けた。

そして二人はその方向へと歩いていった。








「…………………」


そしてまだ怯えている女達の近くにある柱の方から
先ほどまで灰色の羽根をもつ少女がいた場所をみている一人の青年がいた。

その姿はルミネの街を歩く天使達の同じ格好をしているがどこか独特の雰囲気を持っている。


「……見つけたぞ」


彼の近くを歩いていた人でさえ聞こえない呟きを零した青年はフッとその場から離れ姿を消した。


そんな風変わりな青年に気づかないまま天使達の時はいつも通りに過ぎて行った――――

















* * *















「ちょっとー!何でそんなに怒ってるのー!」
「………怒ってない」
「(怒ってんじゃん!)」


噴水の前のベンチへと辿り着いたセレナとヴィントは30分ほど同じやり取りを繰り返していた。
“怒ってる!”“怒ってない”の繰り返しばかりの二人を最初面白そうに眺めていた子供達も
いつの間にかその場から姿を消してどこか近くで友人達と遊んでいる。


「大体お前は―――」
「ストップ!説教は勘弁だよ」


長年の付き合いからかヴィントが続きの言葉を紡ぐ前にセレナはストップをかけた。
言葉が不発に終わったせいか、ヴィントは再び不機嫌そうに眉を寄せた。
そんな彼の表情にセレナは小さく溜息を漏らした。


(分かってる。ヴィントが何か言いたいか。分かってるんだ、本当は)

まだ小声で不満を漏らしているヴィントの姿を視界に入れた。

(そしてあたしのことを考えて言ってくれてるってことも)


今までにもセレナに対し何度か嫌味を言う者はいた。
その言葉の中には彼女自身どこかで傷ついた言葉もあった。

何度か言われ続けているうちにセレナ自身が
“禁忌の羽根”にコンプレックスを持つようになった。
そしてどこか諦めてしまったときがあったのだ。

しかし昔一度、嫌味を言われているセレナの近くにいたにヴィントがセレナに言葉をかけたのだ。


“お前自身何も悪いことなんてしてないんだろ”

“自分を蔑むんじゃない!”


大声で言われたその言葉は当時からずっとセレナの心に響いていた。
それがキッカケでヴィントと仲良くなった、という嬉しい記憶でもある。


「ヴィントが怒ったからあたしはいーのよ」
「………は?」


実際今回セレナは特に怒りを感じてはいなかった。


「ところでさ、今回の用件は何?」
「分かってたのか」
「まーね!レンおじさま?」
「あぁ」


ヴィントは小さく苦笑した。

ヴィントの父親―――レンはこのルミネの街でそれなりに権力を持っている。
そしてセレナは昔からレンにお世話になっていた。

お世話という名の監視ということを承知で。


「聖堂へ来るように、だそうだ」


聖堂とはルミネの街の権力者達が集まって会議などをする場所だ。
権力の持つ者しか入れない、少しばかり謙遜されている建物。

もちろんそこは権力者=上流社会を生きている者達の集まりのようなもので
建物の中での灰色の羽根を持つセレナへの風当たりは心地良いものとは
お世辞にもいえないようなものだろう。


「分かった」


ヴィントは“大丈夫か?”と口を開きかけたがそれを止めた。


「大丈夫だよ」


自分が言うより先にセレナに言われてしまったからだ。


「俺も一緒に、だそうだ」
「へー」
「………何だその気のない返事は…」
「やーん!ヴィントも一緒だ何て嬉しいなぁー!」
「アホ」


セレナの頭をクシャッ……と撫でながらヴィントは小さく笑った。

当たり前のように笑い合って
当たり前のような日常を過ごして
そして当たり前のように傍にいる存在



「よーし!なら行きますかー!」



当たり前のことが幸せで。


そんな日々が続けばいいのにって願うのに


それすらも叶わないなんて思いもしなかった。












<←>   <→>










PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル