アレクが立ち止まり視線を向けている先には、数人の男と栗毛の小さな少女が居た。




怒声は、自分らの居る少し離れた場所にも、喧騒に混じって耳に届いてくる。



何を言っているかは、この距離からは聞き取れないが…
雰囲気からして喧嘩と容易に飲み込めた。






そして、その少女はアレクにとって、この大きな町の友人の一人だった




突然立ち止まったアレクに怪訝そうに声を掛けるトモヤに、返事をする事も無く視線を向けたまま硬直している。













三人











「おい…?―――おいっ!!?」


トモヤの、怒鳴り声に近い声に、立ち止まったままだったアレクは一瞬、硬直を解いた。
その様子を見て、トモヤが口を開くが――



「どうした?何かあったのか?」
「何しでかしたのあの子はっ!!?」



尋ねれば、再びアレクは何処か慌てた様子で、トモヤに声を上げる。
表情に驚きを隠せないトモヤは、やはりアレクを見ているだけだった
当のアレクは、そう叫んで両手で髪をくしゃくしゃと掻いていたが…





「貴方はちょっと待ってて!!何やってるのあの子はっ!!!ちょっとクリクリっ!!?」



「何だ…?…って、お前も待てっ!!!?」



アレクは、クリクリと呼んだ少女に向かってそう叫ぶと、脇目も触れずに少女の元へ駆け出して行った。


勿論、トモヤの声も耳に入っている様子は無い。
ただ、何処か表情を強張らせながら、少しばかり距離のある少女の元へと掛けていくのだった……

























「さっきから煩いですよー!足踏んだのは謝ってるじゃないですかー!!」

少女は、自分を囲む様に立つ男達に、ふんと頬を膨らましていた。
先程本当に謝っていたのか?と言う様子だが…

少女の名は、クリル・メルトラス。
先程、アレクがその光景を見て硬直させていた張本人だ。

此処は、近所のおじいちゃん達の家に近い所。
帰ろうとした直後に、こうして街中で堂々と歩いている男達の足を踏んでしまった様だ。




「うるせぇ!!ガキ!!謝って済むと思うのか!?」

一人の男がクリルに向かってそう言うと、周りの男達もケラケラ笑ってそれに続く。




ピキ




「しかもチビだしな。早くお母さんの所へ帰ったらどうだ?」





ピキ





「それともお兄さん達が怖くて帰れないかなー?小さい子にはやっぱり怖すぎちゃったかなー?」













ぷちっ










ガキだのチビだの、数人の男達に言われて俯きながらふるふると肩を震わせていたが…
クリルの頭から、ついに何かが切れた音がした。







「チビでもガキでもないーーーっ!!!」








クリルは、叫ぶと両の手を前にかざして何かを唱え始めた。


クリルの体の周りには風が纏わり始める…






「いっけぇぇぇぇぇっ!!」






ケラケラ笑っていた男たちは、クリルが魔法を使う様子を見て勿論笑いは止まっていたが…
腰が抜けたのか、彼女の力を馬鹿にしているのか、逃げようとする様子は無かった。




そして、クリルは喧嘩を売られた男達に、思い切り風の呪文を放そうと……


しようとした筈だった。




「ちょっと待ちなさいっ!!!」



「あー!アーちゃんっ!?」



クリルの驚く声も耳にいれようとせずに
野次馬を掻き分けてやっと少女の元へついたアレクが…







ドカッ




「うきゃぁぁっ!!?」



思い切りクリルの頭を叩いていた






クリル・メルトラス。取り押さえ完了。













一方、トモヤの方は。


「…って、俺はどうしろって言うんだよ!!??」


暫しの間、呆然とアレクの走り去った後を見つめていたが…
我に返ると、自分より少しばかり離れた距離にいるアレクとクリルにそう叫んで
自分も喧騒の中心へと駆け込むのだった…。









「まだ飯食ってねぇだろうがーーー!!!」




……場違いな叫びは、あえて周りの町人達も聞こうとしなかったとか。
















†+†+†+†









「痛いよ〜…」

殴られた部分を両手で抑えながらクリルが呟いた。


「何言ってるの!当たり前!街中で魔法出しちゃ駄目でしょう!!」


「ってか、俺を置いて行くか!?普通!?俺この街知らねぇんだぞ!?」


続いて、アレクやトモヤが怒鳴り声を上げる。
…やはり、クリルは頭を擦っているだけのようだが。





あの騒動の後、流石にその場には留まりたくなかったのか、
自分らの元へと来たトモヤをつれて、人通りの少ない所に逃げるようにそそくさと歩いて来たのだった。


そして、人通りの少なくなってきた街中の公園へ腰を降ろす事になった。



「あ、そう言えばこの変な格好の人誰ですかー?アーちゃん?」



ようやく痛みが収まってきたのか、クリルがきょとんとトモヤを見ている
尋ねられた二人も、クリルの言葉にやっと先程の事を思い出したのか、少しばかり声を上げてアレクが口を開く。


「あぁ、この人はあたしが召還してしまったようなのよ…トモヤ・ミカミ。異国の人間ね。」


やはり、クリルもその説明には驚いた顔をしてトモヤをまじまじと見つめている。


「トモヤ…トモヤ………トモちゃんですねっ!!」





「……は?」





満面の笑顔のクリルに対して、いきなりの言葉に二人は間抜けた声を出す。




「トモヤ、は言いにくいですからー…やっぱりトモちゃんだよー」






あだ名かよ






「女みたいなあだ名つけんなっ!!!」





ボカッ





「いったいーー!?」


再びクリルが両手で頭を抑えている。
どうやらトモヤに殴られたようだ…;



「だって、アレクがアーちゃんだからトモヤはトモちゃんー!」


頭を抑えながら叫んでいるクリルに、アレクも少しばかり考える


「そうねぇ、だったらあたしはトモかな?流石にちゃんは言いにくいしね。」


「……せめてトモちゃんはやめろ!!」

アレクも似た様な事を言っているからか、トモヤが慌てて叫んでいる





「むぅ………それじゃぁ、とももん!!」



グッ


マジで言う気か?(汗)




「もう…好きにしてくれ………」




先程痛いと叫んでいた姿は何処へ行ったのやら。
きゃっきゃっとはしゃぐクリルの様子を見て、トモヤが少しばかり涙を流して呟いていた。














その後も暫くの間会話は続いたのだが…
既に、日も落ちかけているからか、軽く背中を反らして背伸びをした後楽しそうに笑顔を浮べてクリルが二人を見た。




「それじゃ、明日から情報収集してみよっかー!」


「そうね、今日はもう夕方だし。」


「ちょっと待てよ!?お前らもやる気か!?」


クリルとアレクが、驚いている様子のトモヤに当たり前と言わんばかりにうん、と頷いている。


「当たり前でしょう?あたしのせいもあるんだしね。」

「面白そうだから私もやりますよー」




笑顔で即答する二人に対して、トモヤも諦めたのかふっと笑みを零す。


「……だったら、頼むわ。」
















「それじゃあ、明日またこの公園で。道は分かる?」

夕焼けに包まれていく街で、アレクの声が響く。


「あぁ、分かるけど……」

喧嘩の混乱の最中、慌ててこの場所に来たが。
少し考え込むと道を思い出したのかトモヤが頷いて答える。


「それじゃあ、又明日ですねー!」

夕焼けに包まれている二人に、元気に手を振ってクリルが笑っている


「えぇ、それじゃまた明日」
アレクも同じ様に手を振ると、二人とも公園を後にする






トモヤは、独り公園に残り何を思ったのか俯いたままだった…







…………





「何処に泊まれって言うんだよーーー!!!?」





夕焼けが美しい町の中、トモヤの叫びは虚しく響いた……


…勿論、その叫びを聞いた二人が慌てて公園に戻ってきたのだが……









三人の役者は揃った。

後は、物語を紡いで行くのみ。










<戻>






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