これは大昔の話 そして今に繋がれていく話 過去と現在 昔、一人の少女が異世界から呼ばれた。少女を呼んだのは一人の青年。 二人は少女が元の世界へと還るための方法を探していた。 そして一つの方法が見つかる。 いつもは自然が綺麗な森。 だがその奥には得体の知れないモノがあり近寄る者はいないと言われている恐ろしい場所。 その――オニキスの森――という場所に一つの宝石があるという。 人々を魅了する程の輝きを持つ綺麗な宝石。 それは口では言い表せないぐらい美しい、と人々は言う。 その宝石を用ることが出来れば少女は元の世界に還れるのだ。 しかし森へと入っていた少女と青年の姿はもう街で見かけることはなかった―――。 「これが昔からこの街に伝わる話ですわ」 ヘルンは一通り話をすると長い綺麗な髪をふわりとかきあげた。 「知らなかった……」 「オイ」 アレクの言葉にトモヤは思わず突っ込みを入れた。 彼の顔にはこう書かれていた。 W何でこの街に伝わる話なのに知らねえんだよ!” アレクはトモヤの訴えたいことを知っているのか否かは定かでは無いが、その訴えを普通に無視し、ヘルンに問いかけた。 「ならその石を探せばいいのね?」 「ええ、そうですわ」 「よし、なら善は急げよ。行きましょう」 そう言って立ち上がったアレク、それに続くように立ち上がったトモヤは近くでカズキと話をしているクリルのところへと向かった。クリルとカズキの場所はアレク達が話をしている場所からは少し離れていたのだ。 「ってクリル……」 「す……すいません……!!あの…クリルさん陽射しが暖かいからって……」 クリルはヘルンが話をし始めた頃、カズキの膝で寝ていたのだ。 彼女の言葉を聞いてたカズキの話では話を聞かなくても良い訳はこうらしい。 W後でとももん……はちょっと頼れないのでアーちゃんに話してもらうことにしますねー” 「………………………」 「ト…トモヤさん…?」 トモヤはその言葉を聞いた途端、暫し固まり、そしてクリルの傍へと行くと“オラ、起きろ!!”と言いながら彼女の耳を引っ張った。カズキはその行動を見て驚いた表情を見せた後、どうしたらいいのかと少しだけオロオロとうろたえている。 「………卵は半熟でお願いします…」 「寝るなーーーーーーーー!!!」 クリルの寝ぼけた言葉にトモヤが必死に大声で叫んだ途端、彼の頬の横を火が通りぬけた。 唖然としているトモヤがゆっくりと後ろを振りむくとそこには怒りのオーラを振りまくアレクが立っていた。 「煩い」 「ハイ……」 トモヤが小さく返事したのを聞くとツカツカとクリルが寝ているほうへと歩み寄り―――カズキはヘルンが避難させていた―――耳元でこう囁いた。 「今日の夕食抜きよ」 「ヤダ!!!絶対イヤー!!」 そんな言葉にガバッと起き上がった少女を見てその場にいた3人――トモヤとカズキとヘルン――は固まった。 そしてそんな3人を尻目に今日何度目かのアレクの説教が再び始まろうとしていた。 「まったく。緊張感の無い人たちですわね」 そんなヘルンの言葉にカズキはただ苦笑するしかなかった。 「オニキスの森な……」 珍しく真面目な表情を見せるトモヤの姿を目に写し、アレクはホッとしたように息をついた。今までは話を進めたくてもなかなか当の本人が真面目にならなかったのである。それはそれで危機感が無い奴だ、とアレクは思っていた。 「なんか臭そうな森だな」 「は……?」 「ほれ、よく考えてみろよ?名前、オニオンに似てんだろ?!」 「…………………」 アレクは心の底から真剣に思った。 “こいつに真面目を期待したあたしが馬鹿だった” 「あはははー、それ面白いですね、とももん」 「だろ?!汚臭に注意って看板誰か作ってくれねーかな」 「トモヤさんが作ってみるのはどうですか?」 「それはイヤだ」 「なんでー?」 「なんでですか?」 「俺にボランティア精神など無い。重労働反対だ」 当初の目的の話からどんどんと変わっていく一部の人――クリル、トモヤ、カズキ――の姿に溜息を漏らす者が一名 「(カズキまであの二人のペースに……)」 自分と同じく唯一の常識人だと思っていたアレクはショックを隠しきれていなかった。 そしてそんな一行に遠くから呆れた視線を向けるヘルンの姿もあった。その視線の中にはアレクへと向けるちょっとした同情の視線もある。 「まるで二人の子供と保護者ですわね」 「うっ……」 ヘルンの言葉はアレクに改心の一撃をくらった。 「オニキスとオニオンを一緒にするなんて無知って恐ろしいですわね」 「へ……ヘルンさん……!」 「オニキスの森の由来はその石がオニキスで出来てるからそう呼ばれるようになったんですのよ?」 「「「オニキス??」」」 「ハッ!オニキスも知らないんですの?庶民は可哀想ですわね」 オーホホホ、と出会ったときに聞こえてきた高笑いに三人の心は初めて一致した。 「「「(このクソアマ……!!)」」」 カズキはチラチラっとトモヤ達の方をみながらヘルンの言葉を気にしているようだが彼にはヘルンをとめる術がなかった。ただ精一杯できることは力なく“失礼ですよ……!”と小さく言うことぐらいだった。しかしもちろんそんな言葉をヘルンは聞くことなく話をすすめていった。 「オニキスは宝石の名前ですわ」 「まあ、あまり知られてませんから庶民は名前も聞いたことないのは仕方ないですわね」 「わたくしみたいに宝石を小さいころみているものにとっちゃ基本中の基本ですけど」 得意げに口元を吊り上げながら勝ち誇った顔をみせるヘルンの姿にアレクは嫌そうな表情をみせた。その顔には“自慢お断り”とでも訴えているような苦々しい顔だった。 「宝石……な」 「とももん……?」 「いや、ちょっとな……」 少々真面目な顔なトモヤ。そしてそれにつられたかのようにクリルも真面目な顔をして言葉を紡いだ。 「とももん…」 「ん?」 「真面目な顔、死ぬほど似合ってないです」 「………………………………………………………」 「地に沈め、クリル」 「ごご…ごめんなさーい!!痛い痛い!!!」 シリアスな雰囲気の空気は一瞬にしてぶち壊された。 「で、どうするの?」 「決まってるだろ」 「もちろん行きましょうー!!」 三人は顔をみあわせると軽く笑った。その様子はまるで古来からの友人のように気があっていた。そして―――― 「とももんは宝石とったら売るんですよね?」 この後クリルは二人の手によって少し地獄をみたという。 * * * 時は遡り、一人の少女と青年がオニキスの森で哀しい別れをしていた。 「君は……早く石を………!」 端正な顔立ちをした青年は顔に傷を作りながら少女の方へと精一杯声をあげていた。ほんの目の前にある石のほうへと青年は視線を向けていた。 「無理だわ!!出来ない!!」 黒く光る石を目の前に、少女は青年のほうへとかけよろうとしていた。 「駄目だ!!」 「……………!!」 「何のためにここまで来たんだ!」 「…………………」 「今までの努力を無駄にするな!!」 「だって……ッ!!」 少女がみた青年は酷く悲しそうな顔をしながら黒く光る石へと視線を向けていた。 「頼むから……石を……」 「あ……」 「最期の頼みだ……!」 「………分かった」 少女の双方の瞳からは涙が零れ落ちていた。 「絶対……絶対またここに来るから……」 「……………………」 「それまで…それまでに死んじゃったら許さない……!!!」 「あぁ」 「絶対生きてて!」 そうして石を手に取った少女は光に包まれる。 「―――――――ッ!!」 * * * 「ッ……!!」 「カズキ!」 「……ごめん……」 片手で頭を抑えているカズキに周りは不思議そうな顔をみせた。しかしヘルンだけは別段驚いた様子はなくカズキを見ていた。 「いいけど……カズキ」 「?」 「そんなに俺のことが好きなのか……」 「え…?」 「でもな、俺、悪いけど男に押し倒される趣味はねーんだわ」 「!!!!」 今の状況は、トモヤがカズキに押し倒されているようにみえる状態だった。 カズキが一瞬倒れそうになるのをトモヤが支えようとし、うまく支えることが出来ず二人で倒れてしまったのだ。 「ご……ごごごご…ごめんなさい!!」 「いや、オールオッケー」 「び…びっくりしました……」 「無理しちゃだめですよー、カズキさん」 にこにこっとマイペースに笑いながらクリルはカズキの頭を撫でた。 そしてその様子を横目にアレクは立ち上がった。 「さて、行きますか。善は急げよ」 「そうですわね」 アレクは自分の中で考えていた声とは違う高さの声に眉を軽く顰めながらその人物――ヘルンの方へと顔を向けた。 「どういうこと?」 「あなた達だけだと頼りないのでわたくし達が仕方なーーく、お手伝いしてあげますわ」 「ノーセンキューよ」 「あら、遠慮はいらなくてよ?」 「いらないっつってんでしょ」 アレクとヘルンの会話をみていた三人は遠くへと避難していた。避難しようとしていた人物は実際は二人だが、何も分かってなく“?”を浮かべているカズキも無理矢理遠くへと避難させていたのだ。 三人が避難した理由は一つである。アレクのこめかみに軽く青筋が立っていたのだ。 「マジで切れる5秒前、だな……」 小さく呟いたトモヤの言葉にクリルも彼の隣で頷いていた。 「無謀な冒険でもするつもりですの?」 「それとこれは話は別よ!」 「あなたマゾでしたのね……」 「なんでそうなるのか小一時間ほど問い詰めたいわ」 「だってそうじゃなくって?変な男とチビなお子様を連れて歩くなんて……」 「変な男とチビでも時々、千年に一度ぐらいは役に立つかもしれないでしょ!」 どんどん声のボリュームが大きくなっている二人の言葉は遠くに避難しているトモヤ達のところまで響いていた。 “否定しろよ…”と力なく突っ込んだ後、チラリと横のクリルの様子を見たトモヤはそのことを後で深く後悔することになった。 「アーちゃん。ヘルンさん」 「「何よ(何ですの)?!」」 「これ以上チビって言ったら焼きますよ?」 「「………………………」」 「返事は?」 「「ハイ……」」 クリル最強説が今この瞬間誕生した。 「まあ、とにかく。これは俺達の問題だから」 直接クリルの氷の微笑みの被害者になっていないトモヤとカズキはその場の冷たい空気からいち早く立ち直り二人で話をすすめていた。 「はい。分かってます」 「情報サンキューな!」 「いえ、どうぞ気をつけてくださいね」 にこりと笑ったカズキの言葉にトモヤは“あぁ”と軽く笑いながら返事を返すと、未だに固まっているアレクと氷の微笑みを二人に見せているクリルの元へと歩み、頭を一発ほど叩いた。 「痛いわね!」 「いつまでも固まってんな。行くぞ」 「そうしましょー!」 「分かったわよ。なら行きましょうか」 「あぁ」 「えいえいおーですね」 固まっているヘルンとそれを一生懸命起こそうとしているカズキに三人は手をふり、先ほどの情報を元にオニキスの森の方へと向かった。 「チーム名はたまねぎ、にしようぜ!」 「そんなもんいらないでしょ」 「えー、体臭にしましょうよー」 「「絶対却下」」 「(ガーン)二人とも酷いです〜」 その場に残ることになったカズキは三人が歩いていった方向から聞こえてくる会話に多少の不安を覚えていた。 そして――― 「太陽みたいな人達……」 ――――また会えた 小さく小さく彼は頭の中に浮かんできた言葉を知らずのうちに呟いていた。 <戻> |