またどこかへ流れるかな、と独り言ちた桜内の言葉を耳聡く聞いていた山根は、潜めた声で笑った。
「まるで青臭い少年のようですわね、柄にもない」
「……そうかもしれないな」
「あら、素直」
どうしたの、と桜内の顔を覗き込んで、山根が問う。何もない、と桜内は笑って、目前の山根の顔から視線を逸らす。逸らした先には、殺風景な診察室が目に入るだけだ。
まだ馴染み深いとは言いづらいが、それでもこの場所が日常に組み込まれる時はきっと、すぐに訪れる。死んだ人間の最期の姿を忘れるよりは早くに。
記憶するということは、忘却よりも容易い事なのだから。



「どこかへ行こうか、一緒に」
桜内は診察室を眺めていた視線を山根に戻して、そう提案した。山根は一度息を呑んだが、すぐにいつもと同じ顔で笑う。
「ふふ、そんな事が出来れば素敵ね。小高い丘に家でも建てて、二人で住みましょうか?」
どうせ無理でしょうけど、そう言って山根は笑みを深くした。どういうことだと桜内は問う。
「あなたはここから出られないわ、きっと。離れたいと思うよりも離れがたいと思う気持ちの方が強いんでしょうから」
少しだけ悲しそうに山根はそう言って、桜内に背を向けた。
ここは叶が死んだ建物だと、桜内はそんなことをふと思い出した。あんたは逃げてきたんだろう、そう言った声も。
(また逃げるのか?)
「だけど本当にあなたにそんなことが出来るのだったら、その時は私も付いていくわよ」
山根は背中のままで呟いた。お前は男に惚れるのは止めたんじゃなかったのかと桜内が苦笑して見せると、山根は振り返って、そうねと唇だけで微笑んだ。


小話と言うか何と言うかな。
ただドクはN市というか叶さんにほだされてしまっていれば良いと言う話。





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