奇跡を見せてあげる、なんて君が言うもんだから、僕は何が起こるんだろうと少しだけドキドキした。君といる僕はずっとドキドキしっぱなしなんだけどね。……君は気付いているかもしれないね。勘が鋭い人だから。
僕は僕は君に惹かれる意味が分からないんだ。ニュクスの終わりを告げる宣告者だから、君の中にデスが封じ込まれていたから、そのせいで惹かれるのか。それともただ純粋に、望月綾時として、一人の人間である君に惹かれているのか。男とかはこの際、関係なしに。
僕はきっと、後者だと思う。だって後者でなければ、僕は消えてしまいたいよ!だって、こんなことで迷ってる僕のことを、君は好きだと言って口付けをくれたから、だから僕は君の事を一人の人間として好きでありたい。好きでいて、良いんだよね?
クリスマスの終わったポロニアンモールは、だけどまだ光り輝いていた。過ぎる年の瀬を送るために。来る年の朝を迎えるために。そんな電飾の、下品な明かりさえも美しくて、僕は少しだけ泣きたくなる。
ここには、希望しか、ない。
僕には絶望以外の道を、許されていない。
君が僕を連れてきたのは、驚くほどに人気のない長鳴神社だった。きっと年明けには、ここには屋台、ってものがあって、たくさんの人がいるのだろう。良いなあ、なんて自然に思う自分が、僕は好きだった。そんな感情を僕が抱けるのは、君のおかげだからね。
ベンチに二人で並んで座る。僕は吐いた息が白く変わっていくのを見つめながら、隣に座る君を伺っていた。奇跡って何だろう、そわそわする。
「ねえ、ところで、奇跡って何?」
薄暗くなってきた空を見つめていた君は、その言葉にびくりと思いっきり体を強張らせた。脱力して、深々とため息。僕の方に向けられた顔は、弱みを握られたかのような、どこか情けない顔だった。え、何、僕何か変なこと言ったっけ?
「いや……」
いつもポケットに入れている手をひざの上辺りでせわしなく動かしながら、君は口ごもりながら何かを言おうとして、もう一度深く息を吐いた。そして急に立ち上がると、滑り台に向かって叫ぶ。
「あーもう!何でこんな恥ずかしいことしようと思ったのか自分が分からないんだよ!」
「いや、何のこと?」
僕が困惑しながらそう言うと、君がこちらを振り返って、流れるような綺麗な動作でデコピンを食らわせてきた。う、痛い。
「お前、何か絶望以外ないみたいな顔、してただろ。自分には未来がないって、だから希望なんてないって、そんな顔」
君の言葉に、僕は驚く。どうしてそんなに僕のことを分かるんだって、そう思って、何だか泣きたくなった。おでこが痛いせいじゃないよ。君が僕を心配してくれているってことが、嬉しいんだ。
「だから未来を持てれば希望も持ってくれるだろうと思って、その、」
コートのポケットに手を突っ込んで、君は僕に手を出すように促す。なんだろうと思って両手をお皿のようにしてひざの上にやると、そこに小さな包みが乗せられた。
「?」
「ゆ、ゆびわ……。あのな、女の子相手でも僕はこんな小っ恥ずかしいことはしたことないんだからな!」
照れているのか、君の顔が何となく赤かった。僕は包みを丁寧に開けようとして、だけど気持ちが逸っているのか指がうまく動かなかった。やっとのことで開いた中には、小さな箱、の中に、さらに小さな細いシルバーのリング。
「わ、」
「小指のだからな。……前さ、だべってる時に指のサイズの話とか、しただろ。それ思い出して買ったから、多分サイズはあってる……」
決まり悪そうにそっぽを向く君の横顔を見つめて、僕は指輪をはめてみた。綺麗だ、と思ったところで、涙腺が馬鹿になってしまったように、涙があふれてきた。
「何これ、プロポーズ?」
「う、何だ、お前は僕と一緒にずっといるんだぞっていう約束だ」
君は気恥ずかしそうに苦笑して、僕の涙を指で拭うと「馬鹿だなあ、何泣いてるんだ」と優しく笑った。泣いているのは嬉しいからに決まってるじゃない、と僕は言おうとして、嗚咽に阻まれて言葉が出なかった。
こんな偽りだらけの希望なんて僕は欲していない。後に来る絶望を深めるだけだから、どうせなら夢なんて見させないで欲しいのに。
それでも、確かに。
「僕、少し、希望を持っちゃった……あはは、絶対、そんな、こと……ないって……思って」
嗚咽交じりに僕が言うと、君は笑った。その瞳が悲しそうに曇っていることに、僕は今更、気付く。君も分かっているんだね、と僕はひっそりと心の中だけで呟いた。これはかりそめだって。
「だから、奇跡を見せてやるって言ったんだよ」
子供を宥めるような声でそう言うと、君は僕の隣に座って、肩に額を押し付けてきた。君も泣いてるの、と僕は問おうとして、止めておく。代わりに指輪を見つめて、馬鹿はどっちなんだろうなあと思った。
ぷろぽーず笑
綾時はこんなことされても少しも嬉しくないと思う 主人公を少し憎むと思う 主人公も辛いと思う
でもちょっとくらい喜んでくれるかな、どっちも