黄色いマフラーは相変わらず長くて、僕は目の端でぱたぱたと風に吹かれているそれを捉えていた。だけど思考の全てはそれを首に巻いている綾時に向いている。柄にもなく自分が緊張している事実に頷く僕は、声を出そうとした舌がうまく動かないことにも気付いていた。
両手を広げて、綾時はまるで歌を響かせるステージ上のオペラ歌手みたいに瞳を閉じて、微かな笑みを唇に浮かべている。それはもしかすると祈りなのかもしれない。世界に訪れる死を宣告する者として。やがて来る全ての終わり。それは希望だと、今この時に泣いている子を慰めようとする、そういう祈りなのかもしれない。
……全て、僕の勝手な想像だけど。
「ねえ、君」
呼びかけられていつの間にか足元に向いていた視線を綾時へと向けると、彼はぱっちりと瞳を開いていた。あえかな笑みを浮かべる。その細い体とあいまって、風に吹かれればどこかへ消えてしまいそうな感じがした。
「君は僕を殺せる?」
「……したくないけど、やろうと思えば、殺せるだろう」
「そっ、か」
綾時は満足そうに頷いて、数歩、僕に近づいてきた。あと一歩踏み出せば足先が触れるだろうか、というくらいの近い距離で止まると、綾時は少し高い視線から僕の顔をじっと見て、ふと声のトーンを落とす。
「ついでに、僕もきっと君を殺すことは出来るよ。しないけど。……ああ、そういえば。ね、知ってる?」
「何を?」
僕は綾時の言葉の前半はとりあえず聞かなかったことにして(だってこいつが人を殺せるはずなんてないだろう)、後半部分の問いかけに首を傾げる。綾時は楽しげに笑って、それがね、とまるでクラスの誰かが誰かと付き合っているんだよ、とでも言いたげな楽しそうな口調で続けた。
「連続殺人を犯す人が最初に殺すのは、多くが母親なんだよ」
白く細い指が僕の肩を予想外に強い力で掴む。一瞬、綾時の瞳が恐ろしいほどに冷たくて、僕は少し驚いた。だけどすぐに綾時はいつものような女の子によく受ける甘い笑顔に戻っていて、僕の肩に置いた手も下ろした。
「まあ、冗談なんだけどね」
「楽しくない冗談だな……」
というかお前にとって、僕が母親なのかよ。僕はそう突っ込もうとして、そういえばそうなるのかもしれないなと思い直すと、とりあえずため息を吐いておいた。
連続殺人云々は何かで昔見たような気がしつつ、ただの妄想だったような気も、しま す
なんか綾時は主人公のことちょっと殺したがってると良いかもしれないという幻想