そろそろ女の子たちが厚着になってきて、寒いねと言いながらそれでも短いスカートのままで頑張る時期だ。彼女らは本当に大変だろうなあと僕は思う。ズボンでも冬はものすごく寒いのに。
そんなことを、なぜか綾時と二人きりになった帰り道に言ってみた。すると奴はそうだねえと朗らかに笑って、
「まあ、良いんじゃない?」
「いや別に良いとか悪いとかそういう話ではなくてな?」
「うーん?だけど彼女たちがそうでありたいと思うんなら、別に良いんじゃないの?」
「……あんまり食いつかないんだな」
順平だったら、女子生徒全員のスカートがひざ下だったら男子のやる気が何パーセント下がって、とか何とか言い出しそうだけど。
綾時は「いやあ」と言いながらぱたぱたと手を振って、「だって僕、別にスカートだけ見て女の子に声かけるわけじゃないし」。あー、そういうことかよ。
「それよりも僕は今、君がとても寒そうなことが気になるよ」
「ん?」
今日は昨日タルタロスで頑張りすぎて疲れていたのか、朝起きるのが少し遅くなった。そのせいでマフラーを忘れて確かに首筋が寒いのだけれど、だけどまあ、心配されるほどではない。
「別に大丈夫だけど」
「えー、さむそーだよ」
ていうか見てるこっちが寒いよ!と情けなさい顔をした綾時は何かを思いついたのかにっこりと笑って、自分の首からマフラーをとると、僕の首に巻いてきた。暖かい。
「僕の無駄に長いマフラーを貸してあげよう!」
「……無駄に長いって、自覚してたんだな」
「んー、まあね。座って立とうと思ったときに踏ん付けちゃったりするもん」
「それはお前が間抜けなだけじゃないか……?」
ていうかこれじゃお前が寒いだろ、と僕が言うと、綾時は「良いよ」と手をひらひらと胸の辺りでふって、首筋に手をやった。
「スースーするねえ、やっぱりマフラーがないと」
「いや寒いんだろ、別に僕は大丈夫だって」
「大丈夫大丈夫、子供は風の子ー!」
「……いやそれ意味分かんないぞ」
僕が唸ると、綾時はえへへと照れたように笑う。
「暖かいでしょ?」
「え?まあ、それは、……うん」
「君が嬉しいと僕も嬉しいよ」
そう言って首を傾げてみせる綾時が、あんまり綺麗に笑うから、好意は受け取らないと損だよな、と僕は思った。なのでありがとう、と恥ずかしいから小さい声で言いながら頭を下げると、「どういたしましてー」と綾時もぺこんと頭を下げた。
男二人で何やってるんだよ、と笑いがこみ上げてきたので、声を出して笑う。だが、それは、
「僕の体温が残ってて暖かいでしょー」
という綾時の冗談じみた声で思わず止まってしまった。
……別に、そんなことで頭が真っ白になったなんて、そんなことは、
「いやいやいや」
僕は頭を両手で抱えて、呻いた。綾時が不思議そうに見つめてくるのに見つめ返して、心中で非常に混乱していた。
(いやいやそんなはずはないだろだってこいつ男だしさっきのも冗談だしていうか体温って……いやまあ確かにって僕!)
とりあえずはがくれはキャンセルな。
百戦錬磨の僕が男にときめくはずないだろうわああああでも正直ときめい た…ぜ って感じな主