軽い音を立てて床の上へ落ちるシャープペンシルは、手の届かない場所へと行ってしまった。
(ああ、)
なぜかとても残念な、そんな気持ちになる。それから立ち上がらなくちゃ、と思って、だけど足が中々動かなかった。小さく首を動かして、辺りを見る。
今はきっと授業中で、それでも普段なら駄弁っている人が何人かはいて、先生も無駄な話をしていることもあるというのに、なぜか今日はそんなことが一つもなかった。みんな机に向かっていて、先生は黒板に向かっていて、何かを一心不乱に書いている。
何かがおかしいような気がして、窓の外を見る。空は青かった。教室へともう一度視線を戻して、気付く。ここは、全てが真っ白だった。たくさんの人がいるのに、多くの色があるのに、それでも全てが色あせている。
得体の知れない恐ろしさが襲ってきた。
目を醒ました時の気分が最悪だった理由を考えて、何だかろくなことになりそうもなかったので思考を放棄する。顔を洗う際に見えた、鏡に映った自分は何だかとてもひどい顔をしていた。
そのせいだろう、教室にたどり着いた途端、もうすでにそこにいた綾時が眉をひそめて「わ、どうしたの?」と心配そうに聞いてくる。来栖はそれに何でもないよと答えつつ、自分の机に鞄を置いて、綾時の机へと歩み寄って座った。
「座るのはどうかな……」
「良いだろ」
綾時の苦笑気味の言葉に平然と返し、教室内を見渡す。綾時と来栖の他は、片手で数えられる程度の生徒しかいなかった。
「……人、いないな」
「んー?」
来栖の言葉を聞いてやっと気付いたかのように綾時は教室内を見渡し、間の抜けた声を出した。
「あ、本当だ」
「気付いてなかったのか?……」
呆れたように自分を見る視線に気付いたのか、綾時は咎めるように来栖を見る。だがすぐに心配そうに眉を曇らせ、椅子から立ち上がった。そして中腰になって来栖と視線を合わせると、その頭に手をやって、撫でる。
「……」
「……」
撫でられるがままになりつつ、来栖は何とはなしに泣きたくなるような気分を覚えて、だが、
(僕のキャラじゃないな、)
苦笑すると、綾時の額にデコピンをした。