チドリは美鶴の計らいで、今年から月光館学園の高等部に入ることになった。おかげで順平は春休みの最中、初めて休みが早く終わらないかと思っていたのだ。
 そんなことがあったせいで、今日から高校三年生となるにもかかわらず、順平は新しい担任の話を聞き終えた途端に、一年の教室へと走っていた。そこでちょうどチドリに鉢合わせして、思わず小さなガッツポーズを作る。
「入学おめでとー!チドリ!」
「ちょっと……、うるさい」
「ごめんごめん!チドリと会えるんだったらガッコも楽しいかなって思うとさーテンションあがっちゃってさー」
「……な、」
 にこにこと満面の笑みで言う順平に、チドリは微かに頬を赤く染めて、小さく俯いた。長い髪がそれにあわせて流れるのを見つめた順平は、急に何かに気付いたかのような顔になって「あ」と呟く。
「?何よ」
 顔を上げ、怪訝そうに小首を傾げるチドリに、順平は苦笑する。チドリの苗字って吉野だっけ、と自信なさ気に言うと、頭に手をやった。言い訳をするように、
「いや、チドリ、って呼ぶの馴れ馴れしかったか?見知らぬ男から名前で呼び捨てってのは、あんまり楽しいもんじゃねーだろ?」
 そう言うと、チドリは俯いて、ぽつりと呟いた。
「……私は、」
「え?」
 順平が頭にやっていた手を下ろして、呆けたような、言葉にならないただの声を落とすと、チドリは勢いよく顔を上げた。どこか睨むような目つきで順平を見る。
「私にとっては見知らぬ人でも、あなたは私を知ってるんでしょ。私もあなたのこと、知ってたんでしょ」
「……チドリ、」
 目を丸くした順平が名前を呼ぶと、チドリは微笑した。
「なら、あなたはあなたの知ってる私に対するように接してくれれば良いから」
「……!あ、ああ!」
 チドリに微笑みかけられ少し顔を赤くしながら、順平はしっかりと頷いた。
「おかしな順平ね」
 嬉しそうな、だがどこか泣きそうな顔をした順平を不思議そうに見上げて、チドリは楽しげに、小さく笑い声を上げた。


チドリは順平より二歳くらい年下が良いけど、実際のところ何歳なのかなー

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