この場にハルヒがいないというプラスと朝比奈さんや長門がいないというマイナスを計算するとそれでもまだプラスなんだろうな。だけど貴重な高校生の放課後を男子二人でオセロを挟んで向かい合って過ごすってのもかなりあれだと思うが。
古泉は相変わらずオセロがものすごく弱くて、オレは何でこいつは学習しないんだろうかと内心少し呆れていたりした。お前、違うだろ。そこ置いたら確かに何個か色変わるけど、それからオレが端っこ取っちまうぞ。
オレはオレから見て右上の端っこに自分の色を向けたオセロの駒を置いた。古泉はあぁ、と残念そうな声を上げて、苦笑する。
その顔を見て、オレはふとずっと気になっていたことを口にした。
「なあ、古泉」
「はい?」
パチパチという駒を裏返す音を聞きながら。
「お前、オレのこと嫌いだろ」
「……ええ、それがどうかしましたか?」
古泉は一瞬虚を衝かれたかのように呆けた顔をして、すぐにいつもの爽やかスマイルを浮かべた。オレは駒を裏返し終えて、伸びをする。
「お前の番だぞ」
「あ、はい」
負けが決定してしまいましたねえとかぼやきつつ駒をどこに置こうか迷っているのだろう指がふらふらと盤上をさまようのを見ながら、オレは頬杖をついて古泉の無意味に整った顔をじっと見る。まあ別に嫌われてるんだろうな、とは思っていたし別に片思い相手とかに嫌われてるって言われりゃそりゃ傷つくけど、残念ながらオレは古泉に恋なんてしていないのだった。だからただ不思議だった。なんで、
「なら何で、お前はこんな風にオレとオセロなんてしてるんだ?」
パチ。駒が置かれる。パチパチ、と二つの駒の色を変えて、古泉は「いやあ」なんて言いながら微妙に困ったような顔になった。
「涼宮さんが、険悪な雰囲気なんて望んでいませんからね」
「ああ、そういう」
「ええ。SOS団というこの集団は、なんだかんだと言いつつ本気で疎ましがる者がいない、と」
そんなことを考えているんじゃありませんかね、とどこか投げやりに言うと、古泉は指を組んでため息を吐いた。お前も色々大変なんだな、と思ったので言うと、君ほどではありませんよと肩を竦める。
「しかし今回もまた見事に負けたな、お前」
オレはそんな古泉から視線を逸らして、オセロの盤を見た。
「全くです」
そんな風に言いながら笑うのも、多分演技なんだろうな。オレはぼけーとそんなことを考えて、両方の手を机の上に勢いよくつくと立ち上がった。ついでに古泉の髪をぐしゃぐしゃと撫でる、というかただ単にぐしゃぐしゃにしているだけのような、まあとりあえずなんだ、撫でる。
そんなオレの急な行動に驚いたのか目を円くしている古泉の顔を見て、おお珍しいなと思った。ていうか普通驚くよな、と思い直して、隣の椅子に置いてあったカバンを取る。
「オレ、帰るわ」
「え?あ、はい。さようなら」
「じゃあなー」
オレは振り向かずに手だけ上げると部室から出て行って、扉を閉める瞬間だけ室内の様子をちらっと伺った。そうそれはさながら凄腕のスパイのように、ってわけにはいかなかったがまあ怪しいこともないしあの様子だったらばれてないだろ。古泉は何か頭に手を置いてぼーっとしてるみたいだったしな。
キョンのこと嫌いな古泉とかふと思い立って え、なにそれときめく…!という話でした