Surrender to the enemy. -投降-



AAに捕虜として拘束されても、ディアッカには脱出できる自信があった。
ZAFTではあらゆる想定での訓練を積んできたし、
ナチュラルごときにコーディネーターの自分を拘束できるはずがないと思ったからだ。
だが捕まってすぐに起こった、自分が招いた事態に毒気を抜かれた。

様子を見て動こうと思っていたのについ、いつもの軽口を叩いて
戦闘で恋人を亡くした少女の神経を逆なで殺されかけたのだ。
そして別の少女からコーディネーターに対する憎しみと共に銃を向けられた。
だがその憎しみから助けたのはナイフで襲ってきた彼女だった。

そこからディアッカの戦争に対する価値観が一変していく。

戦争で生まれた憎しみを間近に見たショックもあったがそれよりも不思議だったのが
ナチュラルである彼女の矛盾した行動。
その後の謝罪も自分に接する態度も理解できなかった。

真意がなんとなくわかってきたのは 捕虜の食事運びの度に交わされる僅かな会話から。
彼女を取り巻く環境と軍に従わざる負えない状況。
しかし選らんだのは自らだと 言葉少なめながら強い意志を示す。

「コーディネーターが憎いんなら腹いせに殺せばいい」
ちょっとした話の弾みにでた、いつもの皮肉に
彼女は眉を顰めうつむいた。
「トールは戦争に殺されたの。あなたのせいじゃない」
重い口調で言葉を選んでゆっくりと話す。
「コーディネーターの友達が私達を助けようと同胞に銃を向けて苦しんでいるのを
 トールはいつも気遣っていた。」
搾り出すように言葉を重ねる。
「だから…コーディネーターがトールのカタキとは思えないのよ」

彼女の瞳が揺らいでいる。

オーヴは中立国だからコーディネーターが混在しているのは知っていた。
偵察中に見た平和な美しい国。人種の隔たりもなく人々は幸せに暮らしていた。
戦火に巻き込まれ、彼女は自ら選んだとはいえ友達を、大切な人を失って泣く。

それはコーディネーターだとナチュラルだと分ける事のない親しい者を失う純粋な痛み。

ストライクに乗っていたのが同胞のコーディネーターだと知っても、
何故、地球軍に味方するのかと一概に責められなかった。
事情を知って共感さえ覚える。
巻き込まれたとはいえ友達が乗ってるこの艦を沈めたくなかったのだろう。
差別もなくナチュラルと共に生活してきたオーヴのコーディネーター。
彼女のような友人達に囲まれて自分だけがあのGに乗れるとしたら…

コーディネーターは優秀な人種だと事あるごとにいわれてきた。
彼にとってそれは当たり前の常識だった。
だが自分が殺してきたナチュラルも自分達と変わらないのだと、ここにきて知った。
知ってみれば同じ人間なのだ。
ただコーディネーターは少しばかり頑丈で器用で頭の回転が速いだけだ。
同じように悲しみ、同じように悩む。

(ではなぜ戦うのだろう?)
軍で戦っている時には考えもしなかった問いかけに彼は苦笑した。
(こんな事考えるなんて ガラじゃない)

軍にいたままならこんな事考えるのさえ馬鹿馬鹿しいと振り払っていただろう。
彼が置かれていた環境は自分の大儀を正当化させそれに陶酔する奴らばかりだった。

自分もそうだったのだ。
下等なナチュラルを、刃向かう奴らを蹴散らす事が正義だった。

(だけど…)
散々ナチュラルを惨殺してきたザフトのエリートの自分が
とてつもなく間違ってたように思える。
敵だから殺す。当たり前だった事が知ってしまう事で迷いを落とす。
もし軍に戻れても
大切な人が殺されてもコーディネーターがカタキだと、
憎む事ができないと言う彼女が乗ったこの足つきの艦を撃墜する為に
自分は銃を持つ事が出来るのだろうか…

彼女が出て行く時、聞き取れないような小さい声で呟いた。

「同じ人間同士なぜ殺しあわなければいけないの」

肩を微かに震わせ出て行く彼女に 胸が締め付けられた。



end.
(H15.9.23)


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