Hurt -疵-side-D
-2-
（酷い抱き方した…）
顔を両手で覆って自分を叱るように軽く叩く。
ベットに寝ている彼女を見た。
腰が微かに震えているように見えた。
彼女に意識はない。
先ほどまで獣のような彼に散々嬲られ堕ちていったのだ。
彼は後悔していた。
彼女にこんなことをするつもりはなかった。
先の戦闘はディアッカにとってこれほどダメージを与えるものだとは
自分でも考えていなかった。
軍の最前線のエリート部隊にいた彼にとって
仲間の死は身近な日常だった。
死を悼む気持ちはあるがすぐ切り替えていかなければ次は自分の番なのだ。
私情をはさんで生き残れるほど戦場は甘くない。
自分が何の為に戦うのか。
ＺＡＦＴの為、プラントの為。
信じていた時の方が楽だった。
迷いもなく彼は銃の引き金をひき、ナチュラルを殺していた。
捕虜になりナチュラルが自分達と変わらない人間であると知ってしまってから
その手に染み付いた血に嫌悪するようになった。
ＺＡＦＴのナチュラル排斥に疑問がわいた。
（知らない方が幸せだったかもしれない。）
オーヴで地球軍と交戦し、宇宙に上がり、エターナルが合流して追ってがきたことによって
ようやく自分が立ち向かう相手に
かつての同胞がいる事がどんなにつらく切ないかわかった。
キラとアスランが幼馴染と知って
彼らが戦っていた時のアスランの苦悩がよくわかる。
頭の中でわかっても実際に引き金を引く手に迷いがでる。
「…イザーク」
心にわだかまる理由の主の名前をディアッカは呟いた。
端整な概観からは想像できない癇癪持ちの元同僚は
正反対の彼と何故か気があった。
お互いの親が評議会委員という事もあり子供時代からつきあいのあった彼とは
アカデミーでも軍隊の配属部隊でも一緒とくされ縁に近い。
そのイザークと先の戦闘で銃を向けあった。
ディアッカにしたらイザークと戦いたくなくても
実際の戦場でそんな事はいってられないのだ。
現実に直面してあらためて彼は葛藤した。
もちろんＡＡに残る事を選んだ気持ちに偽りはない。
ナチュラル排斥を謳ったプラントの主張に疑念があるからこそ
戻ってナチュラルを殺す為に戦う事はできないと思ったのだ。
だが彼の考えは宙に浮いた。
行き場のない思いが渦まいて彼を引き込む。
何と戦うなんてそんな覚悟はできてなかった。
ただＡＡを、彼女が死んでしまうのがイヤだと思っただけで。
戦争さえ終わらせられればプラントにいずれ戻れると思っていた。
（終わる日がくるのだろうか？）
戦闘中に再会した仲間との決別、自分が乗っていたヴェザリウスが沈み、
落ちていく艦に敬意を表しても、こみ上げる虚しさを抑える事ができなかった。
ＡＡに戻ってバスターを整備して、一通りの仕事をこなすだけで精一杯だった。
誰も自分に触れてほしくなかった。
そしてどうにでもなれと凶暴な自分が頭をもたげ
押さえきれそうにないと思ったその時
彼女が自分の元に来て、全て受け入れると言ったのだ。
彼に強がる余裕はなかった。
自分の中で膨れあがる怒りと悲しみに押しつぶされそうだった。
縋りついて全部吐き出してしまった。
彼女が壊れてしまうまで抱いた。
意識を落として人形になってしまっても
気が済むまで何度も突き上げた。
そうして何度目かの熱を吐き出しようやく我にかえった。
彼女が早々に意識を放り出してくれたのはかえってよかったかもしれない
執拗に攻める彼はまさに禽獣だった。
そのまま眠り続けて目を覚まさないといい。
そして全て忘れてくれればいいと思った。
陵辱に近い仕打ちをして彼女は自分を許さないかもしれない。
ディアッカはミネラルウォーターを取り出すと乾いた口につけ一気に飲み干した。
溜息をつき彼女の為に作った海の映像をぼんやり眺める
彼女の瞳の色と同じ水の色。
それは唯一心に残る男の瞳の色と同じだった。
銃を向けたイザークの苦渋の顔が浮かぶ
「……ん…」規則正しく聞こえていた彼女の呼吸に声がまじった。
ディアッカはベットに腰掛、ミリアリアの肩から落ちたタオルケットを掛け直す。
「…ディアッカ…？」
細い声で彼女が彼を呼んだ。
「…悪い…おこした？」
「…ん…何時？」
時計を見て時間を答えた。彼女が部屋に来てからもう数時間たっていた。
「ぇっもう行かなきゃ」
それを聞いて彼女は身体を起こそうとしたが顔をゆがめた。
「？どした？」
「…力…入らない…」
パタっと力つきたように倒れた。
「どうしよ、おきれない。」
本当に困ったといった様子で彼女は言った。
それがとてもかわいらしく、彼は彼女の肩にキスをして
「ごめん。酷い抱き方…した。」
彼は心からあやまった。
「…いいの。私がそうしたかったから…あやまらないで」
ミリアリアはそうして除きこむ彼の頬に両手をあて
「いつものディアッカに戻ってよかった。」
と柔らかい微笑みをみせた。
「おかえり。」
ディアッカは奥底からこみ上げる暖かいものに胸が熱くなった。
「…ただいま…」
今まで誰にも感じた事のない不思議な想いだった。
彼女の暖かいブルーの瞳を愛しいと思った。
イザークとは温度の違う暖かい色
「ココに帰ってこれてよかった。」
彼は頬をつつむ彼女の手を握り締めキスをした。
end.
(H15.9.26)
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