自覚



「くせ」は情事にもあるものだとミリアリアは思った。
キスをするときの唇肉を甘噛みしてキスをする舌の絡め方。
胸を弄り飾りを含む時の感触。突き入れて自分を追い詰めるときの角度。

  どれも死んでしまった大好きなあの人とは違う。
  違う人間なのだから当たり前なのだけど。
  抱かれて上り詰めて真っ白になったあと、目の前にあるアメジストの鏡に
  自分が映りそれが当たり前になっている事が不思議だった。

  大好きなあの人を失って空っぽの心にいつのまにか居ついた不思議な奴。
  それを認めたくなくてずっと気がつかない振りをしていた。
  それでいいとあいつも言ってくれたから。

地球軍が最終総攻撃をかけると水面下で情報が錯綜する日々。
多分2,3日中には始まると噂されて艦内でも緊張が高まっていた。
そんな夜。
いつ崩れてもおかしくないあやうい均衡を保っていた2人の天秤を

彼は揺らした。


いつものように肌を合わせくちづける。
自分の中に入ってくる彼を彼女は当然のごとく受け入れ
お互いの意識を摩擦して快楽を貪ろうとする中、
彼は不意に動きを止め言い出した。

「ミリアリア…」
艶のある低い色気のある声で耳元に囁く。
「お前って麻薬」
「…なに…よ…それ…」
下肢に集まる熱にもっていかれそうな意識を留めてかろうじて彼女が問う。
彼は律動を緩く再開しながら続ける。
「抱いても抱いても離れると欲しくなる。中毒になってる」
固い彼自身が一瞬深くえぐるように挿し入れられて彼女は背を反らす。
「…ぁっ」
「そのうち気が狂うんじゃないかと思う時がある」
彼女の脚を抱えなおし角度を変えて突き上げる。
「んっんんっ」
零れる声を指を噛む事で抑える彼女に彼は快楽を与え続けながら言い放った。
「あいつもそうだった?」
激しく抽挿しながら掠れた声で彼は彼女の胸を掴む。
「この身体に溺れてた?」
全身の血が下肢に集まって意識が飛んでしまいそうになるのを
彼女はキツク噛む指の痛みに縋る。

彼は一際深く突き上げ、動きを止めた。
繋がったまま背に腕を回し彼女を抱き上げ座らせ
顔を近づける。
「ミリアリア」
耳朶を甘く噛む唇は残酷な言葉を吐く。
「あいつはお前を護ろうとして死んだの?」
彼女はきつく目を閉じた。紫水晶の鏡に自分がうつるのをみないように。
「…や…め…て」
繋がった下肢は熱をもったまま心だけが凍りついていくようだった。
彼女の目尻から零れる涙を彼は舌で拭い取る。
背にまわる腕に力がこもり彼女は抱きしめられた。
そして少しこわばらせた声が彼女の耳に届く。
「それとも…お前が死ぬのを見たくなくて先に死んだのかな」
思わず目を見開くと悲しい色をしたアメジストが見える。
いつもの皮肉屋の顔ではなく、へたれ顔でもなく
端整な美しい顔は無表情なのに、
悲しみだけがすこしさがり気味の目元から読み取れた。
「な…んで…そんなこと…言う…の?」
彼女が震える細い声で聞く。
彼はふっと口の端をあげていつもの皮肉屋の顔に戻る。
「ごめん。なんかおかしい俺。」
彼は動きを再開した。
彼女はこころの中でほっとしたのもつかの間
愉悦の渦に引き込まれる。
「…ぁっ」
いつになく激しい律動に彼女は簡単に追い詰められる。
抱きかかえた華奢な身体をベットに下ろし
彼は自身の快楽を追い求めて彼女を突き上げる。
脚を腕にかかえたままシーツを掴み彼女の胸のかざりを口に含み
きつく吸い上げ舌で転がし。
突き上げるポイントを彼女の一番感じる角度に変えて彼女を捉える。
「――んっ」
官能の波が彼女を飲み込むのを分身で感じながら
反り返る背を抑え付けるように彼は覆い被さった。
逃げる腰を抑え付けて深く強く抽挿を続ける。 「…ぁあっ」
彼女は快楽に耐え切れず喉の奥から悲鳴を漏らす。
声を抑える為に指を噛む彼女の頬に唇を落としながら
肩に食い込む爪に彼は酔う。

激しい律動はそのままに彼女の耳元で掠れた低い声が囁かれた。

「俺より先に死ぬなよ」

熱い息が目を閉じた彼女の肌にかかる。
「あいつのところに行くな」

彼女の中で彼が固く熱くなるのを感じた。そう思った瞬間彼女も
真っ白に意識がはじける。

「俺の前から――いなくなるな」

より深く中をえぐるように熱楔を打ち込まれ彼の脈を彼女は受け止める。
合わさる胸でお互いの荒い呼吸を整えながら
彼女は取り戻した意識の片隅で思った。
(そのまま…同じ言葉…かえす)


地球軍がボアスに核を打ち込む前夜。
ミリアリアは
自分の中に死んだ恋人と同等に位置する存在がある事を
自覚した。




end.


(H15.12.17)



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