Afterward -その後-


-14-


翌日歓送会がひっそりというには大掛かりに行われた。

ミリアリアはAAの中で自分の部屋にいた。
点滴を1日2回医務室にうちに来る事を条件に部屋に戻してもらって
彼女はベットに座っている。
熱は少し下がったがまだ外を歩ける程ではないという軍医の言葉に密かに感謝した。

このままディアッカに会わずに出港できればいいとミリアリアは思う。
決心はついてるが最後に彼の顔をみればまた揺らいでしまうと思った。

彼女は歓送会前に会いにきてくれたラクスに丁寧にコンサートにいけない事をわびた。
それに関しては本当に残念だった。
カガリが録音してきてやると言ってくれたので
(楽しみに待っていよう。)ミリアリアは大人しくベットに寝てタオルをひきあげた。 
歓送会はラクスのコンサートをいれて3時間程だ。
開始時間から2時間はもうたっているだろう。
あと1時間もすれば皆が帰ってくる。

(1人になると色々考えちゃうな)
薬のおかげでミリアリアは先ほどまでよく眠っていた。
今はすっきりしてかえって眠ることは難しいように思う。
熱はそう高くないと自分でもわかるが歩くとフラフラする。
外にでてもし誰かに見つかったらサイやカガリにすぐ伝わって
怒られてしまうだろう。

軍医が最近眩暈を煩雑におこすミリアリアを心配して
一度ちゃんと検査を受けるように言ったのを思い出した。
今更プラント内で検査を受けてもしょうがないので
地球に戻ったら…そう考えて
(地球に戻る)
彼女は心に小さく穴が開いている事に気がつく。

歓送会とコンサートとそして打ち上げがおわれば一晩おいて
明日の朝『アークエンジェル』と『くさなぎ』は予定通り地球に向けて出港する。
なつかしい地球に還る。

(もう少しの辛抱)
目を瞑れば別れる時のディアッカの顔が浮かんだ。
唇をきつく結んで眉を少し顰めた悲しい表情

ついこの間まで一緒に戦っていたのに。
おとといまで手を繋いで寄り添っていたのに
あの優しい腕を自分から離すことはないと思っていた。

戦争は終わった
彼はプラントで。自分は地球でこれからそれぞれの人生を過ごす。
彼を自分のわがままにつきあわせたくなかった。
(待つと言ってくれたけどいつになるかわからないなんて勝手すぎる。)

考え出せば次から次へと彼との事が走馬灯のように浮かんでは消える。

ベットの傍らにあるホログラム装置を彼女は見る。
宇宙に上がって彼女が混乱していた時ディアッカがくれた。
先の戦闘でどこかうちつけたのか 立体映像部分は壊れて今はただの時計だ。


――オーヴの海の色はミリアリアの瞳の色みたいに暖かい
そう彼がいってくれた事を思い出して愛おしくピラミッド型のプラスチックをなでた。

ミリアリアはディアッカの笑った顔を思いだしたいと願った。
拗ねて甘えた顔 からかうよう片目を凝らす顔 苦笑する顔
相手を見下して冷ややかに笑う顔でもいい

――笑った顔を思い出して――

喉が詰まって肺にうまく空気が送れなくなる。
胸が押しつぶされるようで苦しい。
時計の文字がにじんでぼけてみえた。

(また水の底から水面をみているみたい。)
シーツに水の粒が零れ落ちる。
(涙なんて枯れてしまったと思ったのに)


「また泣いてんの」
ふいに艶のある声が耳に入る。
空耳だとミリアリアは思った。

だけど振り返れば
薄い笑いを浮かべてディアッカが立っていた。

赤い軍服姿の彼は腕を組んで壁に寄りかかってこちらを見ていた。
口の端をあげて皮肉っぽくディアッカは言う。

「馬鹿で役立たずなナチュラルの彼氏でも死んだか?」
その言い回しにさすがにミリアリアはディアッカを睨んだ。

「俺たち出会い最悪だったよな」
彼は彼女の側に近寄って座った。
「熱出したんだって?」
ディアッカがおでこに手をあてようとするとミリアリアはその手をはねつけた。

「おおこわ」
両手をあげて降参のポーズをとる。
「過労の熱だろうって聞いたけど」
  おちゃらけて馬鹿にした言い方。
「睡眠障害と軽い栄養失調にもなってるって?お前馬鹿?」
出会った頃のディアッカはいつもこんな感じだった。
「…馬鹿で悪かったわね」

ハスに構えて口の端を上げたうわっつらな笑顔が急に真面目な顔になった。
「馬鹿で役立たずな…コーディネーターの俺を振るからだよ」
涙で濡れる頬を褐色の大きな手が覆う。
熱のある頬にヒンヤリとした手が温度を吸い取って気持ちよかった。

が彼女はその手も黙って振り払う。
(流されちゃ駄目)唇をきつく噛んだ。

その様子を見てディアッカは軽く溜息をつく。
彼はミリアリアの手を持って広げポケットから何かを出して乗せた。
掌に乗る小ささだが逆ピラミッド型のそれは
前に彼が彼女に送った立体映像装置に似ていた。

「女はプレゼントに弱いってね」
彼はその小さな機械についた回転型の突起を回してスイッチを入れた。
ほんのりと映像がその機械の上に漂う。
立ち上がって部屋の照明を落とした。
淡い光は大きな空間を作っていてミリアリアは思わず光の空間をよけて身をひいた。
「最初に作った時は下心なんてあんまなかったけど
 今回のはたっぷりこめて作りました」
ふざけるように言うと彼女のすぐ横に座った。 ディアッカは今度はミリアリアの肩を抱きこむように腕を回し
彼女の小さい手ごと機械を包み込んだ。

あまりに自然な動作だったのでミリアリアが気がつく時には艶のある声をだす唇は
彼女の耳元にあった。
吐き出す息が耳朶にかかりぞくぞくとする。
「俺の力作 見てて」
妙に色っぽい声で彼は言った。

そしてダイヤルのメモリをあげる。
映像は前とおなじ淡い青の海の中。

そこに――光に発色した白い生き物がゆらりと水の中を横切った。
骨が透け翼をつけた鯨のように見える。
透ける骨の形状をミリアリアは見たことがある。
ディアッカに連れられた最地下階奥の薄暗い照明に浮かび上がる化石

――エヴィデンス01――

だが映像の生き物は本当に生きているかのように見える。
透ける骨格はくじら石そのままに肉を持ちその翼をひろげ水中を滑空していく。
地球の海に息づいているかのように。

ミリアリアは息を詰めた。
リアルCGの映像は水中を滑空する透ける白い翼鯨をそこに存在するかのように浮き続ける。

(魔法にかかってしまう)
青白い光に照らされて彼の瞳も光るように発色して見えた。

「気に入った?」
彼女の耳を甘噛みして彼は囁く。
「会社の超極秘資料をもとにCG化したんだ。さすがに1日かかった。
 木星に地球みたいな海が昔あったのなら こんな風に泳いでたと思う」
艶のある声は掠れて最後は吐息だけが言葉をつたえた。

背後から回された腕は彼女をすっぽりと包み体温の違いを妙に伝えた。
(そうだ熱があるんだ…私)
身体を包むひんやりとした固い生地の感触が心地よい。

耳の後ろから柔らかい彼の唇が彼女の頬に這う。
熱を発するベルベットに滑らかな動きで這わせ
彼は彼女の唇に軽く触れる。
眩暈に似た浮遊感が彼女を襲う。
奥底に潜んでいた気持ちが揺るがない決意だったはずの彼女の壁を
砂のように崩れ落とした。

彼女は拒む事ができなかった。

力は抜け放心したように目を瞑る。

支えていた彼女の手と機械を彼女の膝において
彼は頬と頭を大きな手で覆い深く くちづける。

温度の違う柔らかい舌が彼女の舌を捉え嬲るように絡みつく。
甘い吐息が知らずに零れる。

ねっとりと静かに、だが心は深くえぐられて
全てをさらけだしてしまうように。

長いくちづけは眠っていた真実を揺り起こす。
熱でまわらない頭がようやくキーを見つける。
――好き

瞳から流れでる水は彼女の心だ。
押し留めようとしてもあとからあとから沸き出でて。

ようやく唇を解き彼は頬を両手で覆ったまま
額をつき合わせた。

「ミリアリア」
目をあわせられず瞑ったまま艶やかな声に耳をそばだてる。

「俺はあきらめないから」

彼の発した言葉を頭の中で1文字づつ追って繰り返す。
熱に浮かされた思考はその意味を把握できない。
瞳をゆっくりをあけた。

紫水晶の光を放つ瞳が彼女を捉える。

「ミリアリアの言う通り約束はしないよ。
 これからどうなるかわからないのは本当の事だからね」

彼は微笑んで話す。

「でも信じてる。また絶対会える。じゃなきゃ出会った意味がない」

放つ光で愛でるように。

「神様なんて信じてなかったけど。俺たちが出会ったのは運命なんだ。
 お前がAAに乗ってたのも俺がAAで捕虜になったのも
 俺達が会う為に神様が仕組んだんだ」

(なんて気障な事 言うんだろう) 彼女は頭の奥でぼんやり思う。

(でも彼が言うと)
言葉は突き通す光のように彼女の中心に差込み染み入るように広がる。

「きっとまた会える。その時はもう離さない。覚悟しろよ」
彼の中には勝算があった。
どんな手を使っても。
狙った獲物は必ず手に入れる。
悪戯をたくらむ子供のような顔をして。

「今度会った時は受け取って」
そういうと機械をまた手元に持ち小さなボタンを爪で押した。
白い翼鯨と別の画像が水中を漂う

紫色の石がのるリング――

それは否と言っても従わせる彼の常套手段で彼女に断る権限はいつもないのだ。
彼のそんな強引さが彼女は好きだったのだと思い返す。
妙に魅了する彼を彼女はいつも受け入れていた。

(きっと本当に会える。)
確信に似た未来が彼女の前にひろがる。

自分は捉えられた。もう逃げる事はやめよう。
彼を想う気持ちを消す事はもう無理だ。
彼女の涙は止まらずまわりがぼやけてよく見えない。

彼は唇で彼女の涙を吸い取った。
次々と零れ落ちる雫を1つ1つ舌で掬い取り
それでも溢れる涙に少し困った顔をして
「泣くなよ」といった。

「返事は?」
もう一度頬を覆い瞳をあわせる。
少しへこたれた表情で甘えるように。
「YESと言って」

「   」

彼女は声が出せなかった
唇だけがその形をつくる。

――YES




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(H15.11.1)

すみません未完です。
元の自分夢設定が膨らみすぎて収集つかなくて
この話はいずれケリをつけたいとは思ってますが
少々時間がかかるので気長にお待ちいただけると嬉しいです





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