God bless you.-神のご加護を-
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息を整え身体を離すと放心したようにカガリが潤む目でアスランを見た。
その様子にいつもより少し激しくしてしまったと彼は後悔する。
アスランが申し訳なさそうにカガリに聞く。
「ごめん少しきつかった?」
「…ちょっと。でも嬉しかった。アスラン、いつも私を気遣って
セーブしてる気がしてたから。もっと思い切りしてくれていいのにって」
(人の気もしらないで言ってくれるよ)カガリの言葉にアスランは心の中で思う。
いつも凶暴になりそうな自分を抑える事がどんなに大変か彼女はわかっていない。
欲求のまま抱いたらそれこそどうなるか自分でも自信がないのだ。
女性相手にそこまで箍が外れそうになることなど彼は一度もなかったのに。
(そう思ってくれるのは嬉しいけどね)
苦笑しながらカガリの唇にそっと自分の唇を重ねる。
触れるだけの短いキス。
幸福に満たされる事後の余韻。
カガリがプルッと震えてくしゃみをした。
「くしゅん!」続けて2回「くしゅん!くしゅん!」
かわいらしいくしゃみに彼は微笑み言った。
「Bless you.」
カガリが笑う。「Thank you.」
「本当にGod bless youだよ」
アスランは守り石をミラーからはずしてカガリの首にかけた。
「これからはカガリが身につけて」
「大丈夫だよお前が守ってくれるんだろ?」
「出きるだけの事はするけど。何があるかわからない。相手は気が狂った連中なんだし」
「…うん」
「風邪ひく。着ろよ」
「…うん。」そういって身を起こすと「ぁっ」小さく声をあげる。
「どした?」
「ん――なんか流れる感じがして…」下腹部を押さえるカガリ。
自分が放ったものが原因とアスランが気恥ずかしさに俯く。
「そっか…拭かなきゃ…」
言っている事が卑猥に思えてよけい顔を赤くする。
「ん…」
カガリもつられて赤くなった。
そうはいってもこのままでいるわけにはいかない。
身体をだるそうにおこすカガリに激しすぎたと反省をするアスランは
「ちょっと横になってろ」と押し戻し、先ほどカガリにわたしていたタオルで刺激しないようにそっとふき取る。
敏感になった部分をさわられてカガリは声をあげそうになるのを
ふりはらうようにアスランの手を押さえてカガリが少し身をおこす。
「いいよ、適当で。出来た方がいいし」
さらっと言って下着をつけだした。
「へ?」素っ頓狂な声をアスランがあげる。
「妊娠してもいいと思ってる。」
こともなげにカガリは言った。
「だってそしたら引き離されないだろ?」
意味を理解して短絡的な考えに半ばあきれながらアスランは
「そんな簡単に…」と詰まって思い出す。
「おいちょっとまて。今日は平気だっていってなかったか?」
しまったといった顔をするカガリにアスランは深く溜息をつく。
口をとがらせてカガリは弁解する。
「平気じゃないっていったらお前しないじゃないか」
「あたりまえだ」眉を顰めるアスランに
カガリは上目使いに拗ねたように聞く。
「アスランは私がアスランの子を宿したらいやなのか?」
「そういう問題じゃない。カガリは今どういう立場にあるかわかってるのか?
今そんなことになったら平和大使の仕事はどうするんだ」
「なんとかなる。子供は未来を繋ぐ絆になる。
私がお前の子供を宿せばよりナチュラルとコーディネーターは近づくようになる。」
カガリは無謀な理想論を得意げに振りかざす。
(どこからその自信はくるんだ…)アスランはまたも深く大きく溜息をついた。
小言をいわれると思いきや黙り込むアスランにカガリがあせって言い訳を
重ねる。
「お前の子供なら私は産んでもいいと思ってる。アスランと一緒にいたいから。
そうなればいいなって思うんだ。」
「できたからって一緒にいられるとは限らないぞ」
「子供は宝だ。オーヴの連中が引き離すなんて非人道的な事するわけないだろ?
それにあいつだって。プラントから当分離れられないとかいってたくせに
できたら速攻むかえにきやがった。」
カガリが言ってる人物をアスランも知ってるので苦笑した。
元同僚で暗号メール開発の手伝いを強要してきた彼の事だ。
軍に入るのを反対していた彼の家は地球とプラントを股にかけた大企業だ。
跡継ぎに逃げられては困ると厳重に見張りがつけられ
地球に一緒に行きたいのに行けないとAAから降り立ての頃彼はこぼしていた。
MIAになって心配されていた跡継ぎが停戦で戻ってきたのだ。
親としては拘束したいと思うのはしょうがないだろう。
その拘束がどれだけすさまじいものかアスランは知らなかったのだが。
その彼はナチュラルの少女と恋仲で、自由にならない遠距離恋愛に鬱屈とした情報の提供を(つまり彼女の近況を知らせろと)
カガリに求めてきていたりしたが
その彼女が妊娠しているとわかるや否や即日彼女を迎えに来て連れ去っていった。
だが背景を知ってるアスランはあまり手放しで喜んでやれない。
表向きは跡継ぎができた事で彼が拘束をとかれ花嫁を迎えに来た事になっているが
実際はそんな甘いものではない。
彼もアスランも子が出来にくい第2世代だ。
プラントでは自然交配の妊娠は第2世代では一桁代の確立まで落ち込むほどだった。
ほとんどが人工授精。それもうまく出産まで育つ確立がこれまた低くなっている。
何が原因か究明はまだされていないが恐らく遺伝子操作の歪みだと
公表はされていないがプラントのコーディネーターなら誰もが知っていることだった。
その第2世代である元同僚の場合。事はもっと深刻だった。
人づてに聞く噂で知ったことなのだがほとんど子を成すことは難しいとされていたらしい。
特殊な遺伝子操作をしている彼の家系は彼で血が途絶えるとまで言われていたのだ。
その彼がナチュラルの少女に自然交配で妊娠させるという奇跡がおこった。
そして水面下で色々な思惑と陰謀が交錯することになる。
研究材料として彼女を手にいれようとする動きがあったのだとのちに教えられた。
彼女を護る為彼は極秘裏に彼女を連れて行った。
どこにいるのか親しい友人はもちろん彼女の親でさえ知らない。
父親が専門分野の権威ということもあり恐らくプラントのどこかだろうとは
推測できるが。
元同僚の妊娠はアスランに避妊に対する認識もあらためさせた。
絶対無いといわれていた彼が子供を為したのだ。アスランももしもを考えて
気を使うようになった。
今の時点で自分がカガリを妊娠させる可能性は少ないとは思う。
アスランが懸念するのはそのあとだ。
妊娠したからといって母胎内で順調に育つ確立も第2世代同士では異常に低い。
健康に正常出産までいきつくのは奇跡に近いほどだ。
愛する女神が自分の子を宿す事は将来的にはむしろ望む事なのだが
万が一できたとして今度は母胎内で正常に育つかわからない。
そうなった場合。カガリの身体にかなりの負担をかけることはあきらかだ。
「カガリ…第2世代は母胎内での異常が起きやすいんだ。
軽々しくそんな事かんがえちゃ…」
「大丈夫だ。私はナチュラルだし。お前によく似た男の子を絶対産んでやる」
真面目な顔をして確信したように言うカガリにアスランは絶句した。
「女の子の方がいいか?」真剣に尚も、のたまうカガリにアスランは苦笑しながら
抱きしめてた。
できにくく育ちにくい未来を閉ざされたプラントのコーディネーター達。
だからこそナチュラルとの共存を成功させなければならない。
自分たちがその礎になれるのなら喜んでなろう。
「カガリが成人したらプロポーズするよ。それまで子供は我慢しろ。」
アスランの言葉に今度はカガリが絶句する。
「プップロポーズって」夜目にも耳まで急激に真っ赤になるのが見て取れて
アスランは嬉しそうにカガリの頬にキスをした。
(子供を産むって言う方がよっぽど恥ずかしいけどなあ)
カガリの頬が火照るように赤い。つられて赤くなるアスランが
誤魔化すように身体を離して言った。
「とにかく調印まであと1ヶ月。自重しなくちゃ」
「アスラン」潤む目で不安そうにカガリがアスランを見る。
「そんな顔するなよ。一緒にいられるよう交渉するから。」
「それで駄目って言われたらどうする?」
「んーとりあえず1度帰って準備するよ」
「準備?」
「さらって逃げる」
「ほんと?!」
カガリが嬉しそうに抱きついてくる。
「ほらまず着ろって」
まずはカガリのお目付け役と保護者である首長を熱意で説得しなければならない。
問題は山積みだ。
カガリが作業服を着て先ほどかけられた守り石を手に取りアスランに差し出す。
「アスラン誓って」
「え?」
「絶対一緒にいるって。駄目だったらさらって逃げるってのも。
それと…さっきの…ことも…」
俯きながら顔を赤らめてアスランの手を自分の手にのせる。
赤い石は2人の手の間でなめらかな暖かさを伝える。
アスランは石ごとカガリの手を握る。
「カガリの側から離れない事をハウメアの神に誓います。」
そして照れくさそうにカガリを引き寄せて耳元で囁いた。
「ハウメアの神のご加護を。未来の花嫁に。」
外の雨は相変わらずの横殴りの嵐。
その雨があがれば太陽が大地に恵みの光を惜しみなく降り注ぐ。
永遠ともいえる暗闇もいつかは開けていく。
愛しい女神を乗せた車のアクセルをアスランは踏み込んだ。
end.
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ちょっと夢設定なので異次元アスカガということで。
長々読んでくださってありがとうございました!(H15.12.29)
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