「これより、この者が王への忠誠を誓い新たに臣下となる儀を執り行う」
見届け人の一人が厳かに宣言する。
儀式の間には、若き王と、王の前に跪いた俺と、そこから少し離れて三人の見届け人がいた。
跪いて頭を垂れた俺の頭上で、王が凛とした声を響かせる。
「騎士を志す者よ。面をあげるがいい」
顔を上げると、王が自らの羽織った緋のマントの前を開いていた。中には、平らかな白い胸と儀式用の黒い衣装が覗く。
強調するように胸の部分だけがあらわになったその衣装は、形状のせいでまるで豪奢なコルセットにも似ている。豪奢であるがゆえに、余計にその肌と両の乳首とを無防備に見せていた。
「今ここで、そなたの忠誠を示せ」
王に促されるままその胸に顔を寄せると、清潔そうな色の薄い乳頭がピンと立ち上がっているのが分かった。威厳ある堂々とした姿を見せてはいるが、彼もこの儀式に緊張をしているのだろうか。俺も身が引き締まる思いで息を吸う。
「偉大なる王に、人が神に向けるが如き畏敬と、赤子が母親に向けるが如き信頼を併せ持つ、深い忠誠を捧げます」
向かって右、心臓のある側の王の乳首にそっと口づけた。薄い皮膚の下で、トクトクと脈打つ鼓動が唇に伝わる。
今日から正式にこの方をお守りさせていただくのだ。改めて実感が湧く。
俺は決められた通り、王の乳首をゆっくり吸い上げた。
「……っ」
王が眉をひくりと震わせる。
もしかして痛かったのだろうかと、今度はいたわるように優しく舐め上げた。
王の乳首は固くしこり、俺の舌に弾力で反応する。それを少し面白く感じた俺は、舌と唇で交互に吸い付いた。
「あ……はぁ……っ」
王の呼吸が熱を帯びる。
そっとその顔を盗み見ると、表情はあくまで王としての威厳を保とうとしていたが、その瞳にはとろりとした色香があった。
王にも見届け人にも何も言われないため段々と不安になっていたが、咎める様子がないところを見ると手順を間違えてはいないらしい。
俺は安堵して、再び王の乳首を吸い上げることに集中した。
「……ばか、は、反対もだ」
囁かれ、はっとする。
見上げると、頬を紅潮させた王が何かを堪えるように唇を歪ませていた。
慌てて、しゃぶりついていた乳首から口を離す。その拍子にぷちゅ、とだらしのない音をたててしまい、血の気が引いた。
「気にするな」
王の掠れた声に、更に恐縮する。
今度はヘマをしまいと、もう片方の乳首に強く吸い付いた。
「ふぅっ……!」
「! し、失礼しました!」
強すぎたのか、王が吐息を漏らす。
「いや……構わない。お前の舌が熱くて、少し驚いただけだ」
気付けば王の胸は段々と鼓動が速くなっていた。俺は早く儀式を終わらせたほうがよいのだろうと考え、続きをすると伝えるために小さく頷いた。
さっきよりは慣れてきたのか、吸い付くのにも幾らか余裕が出てきた。今度は吸うだけでなく、丁寧に舐めあげ、時折唇で軽く食む。
王のなめらかな肌の感触は荒っぽい場所で育った俺にはまるで馴染のないものだったが、それがひどく心地よく、いくら吸っても飽きるどころか余計に離れ難くなるものだった。
「……っ、……んぅっ!」
王が身体を震わせると、めくってあったはずのマントがばさりと俺の上に覆いかぶさった。
「へ、陛下、これは」
「構うな。続けろ……」
王の指が俺の頬を軽く撫でた。それに従い、唇と舌の動きを続ける。
緩急をつけるとそれに合わせて王の胸が波打ち、身体の熱を更に高めた。すでに王はマントの下で、俺の頭を自らの胸に押し付けるように強く抱いている。
マントの中は王から立ち昇る香木のような薫りと熱気で満ちており、俺の頭の奥はすっかり痺れて何も考えられなくなってしまっていた。
「――よし、もういいぞ」
そう声をかけられた時も、咄嗟には反応ができなかった。数度瞬きをして、それから名残を惜しむかのように渋々唇を離す。
――まるで、赤子が母親の胸から離れるのを嫌がるかのように。
「これで、今からこの者は私の騎士だ」
俺の唾液でてらてらと光る両の胸を晒しながら、王は見届人たちへ向けて朗々と宣言した。
その顔が上気しているのは、王として臣下を得た高揚感だけなのだろうか?
しかしすでに儀式は終わり、確認をするすべもない。
俺はやり場のない昂ぶりを腹に抱えたまま、深く礼をして後ろへ下がった。
見届人たちが王の元へと向かう。俺の事はすでに顧みられず、先程の儀式が嘘のような距離を感じていた。
儀式の間を立ち去る視界の端で、王が自らの胸の先端を指で撫でるのが見えた。俺の唾液を擦り取ると、その指を口元へと運び――
俺は思わず王の顔を見た。
その視線に気付いていたらしい王はこちらを一瞥し、目を細めてにやりと笑う。そしてそのまま、ぺろりと指を舐めて見せた。
息を飲む。呼吸がうまく出来ず、動悸が速くなる。
気が付くと、王の姿は見届人たちに連れて行かれてすでに見えなくなっていた。
「おい、そこの新人騎士」
儀式の間の前で呆然と突っ立っていると、見届人だったうちの一人の中年男が俺に声をかけてきた。
「は、はい!」
「儀式の意味が分かったろ?」
「……はい」
儀式の前から俺は王に忠誠を誓う気だった。だが今は、その時よりもはるかに強く王の事ばかりを考えてしまっている。
「それにお前は運が良い。……いやあ、悪いとも言えるかな」
男が苦笑して頭を掻く。
「何のことですか」
「陛下に気に入られたってことさ。これからたっぷり搾り取られるぞ」
「え……」
励ますように背中を叩かれるが、意味が分からない。正しくは、分からないと言うより自分の出した答えが信じられないと言った方が正しい。
――こうして、俺は王に忠誠を誓う騎士となった。