清麿の住む世界をもっと知るために、勉強している日本の文化や歴史。
そこで憶えた言葉がある。
私は日本にいる清麿に、いつも心の中で語りかける。
「あっ…」
恋人の指が、恋人をいつも受け入れる場所に沈んでいく。
今に始まったことじゃないのにずっとずっと慣れないのは、こんなにも感じてしまうのは、
この人と本気で恋愛している証拠の一つだと信じている。
今日、この行為をする事になったのは、相変わらず私からの催促である。
夏で、ノースリーブを着込んでいた清麿の肩を見て、無性に服を脱がせたくなった。
好きな本を勧めながら読んでいた清麿は、私がそんなやましい考えをしていたなんて、全く予期していなかったろう。
恐いくらい純粋な彼だ。
私は清麿の肩に軽く噛り付く。滑らかな肌。 それが、始まりだった。
「っ、わ、どうしたっ?」
清麿は当然ビックリしていた。
「清麿…裸になって」
「えっ?」
「清麿の裸が見たい」
清麿が頬を染めて硬直しているうちに、私は清麿の股間まで自らの手を導かせた。
そっと撫でながら吐息のように耳元で囁く。
「とっても…愛しているわ…」
「っあ…シェ…っ。どうし…」
手の速度を速めていく。圧力を強めていく。
清麿は何かを掴んでないと耐えられないのか、両腕で強く私を抱き締めて、熱っぽくなる声を殺しつつ問うてくる。
彼の体温が上がっていった。強い強い腕の中。
それが私の手も私自身も、おかしくさせる。
「清麿がどんどんたくましくなるから…だから、いけない…。ね…他の女の子にこの身体…見せないでね…」
「シェ…?…あっ」
布越しで、清麿は手の中で熱を放った。身体の成長は早くても、性感はまだ幼くて…初々しいと思う。
清麿が腕を緩めると、私は身体を離して服を脱いだ。
着ていたのは白いワンピース一枚のみだったので、もうこれで下着姿である。
いつもお互いに脱がし合うのだが、今日は、下着までも自分で脱いだ。
生まれたての姿を堂々と晒す。清麿の息を飲む音が聴こえた。
清麿は立ち上がってカーテンを閉めると、黒いノースリーブを脱ぎ捨てた。
私が後ろから裸の上半身を抱き締めると、清麿は抱き上げてくれて、ゆっくりベッドに下ろしてくれて
「汗だらけで気持ち悪くても、ごめん」
そう言って口付けてくれて、今日のセックスが始まった。
私がいつもより大胆なのがうつったのか、清麿の愛撫も切羽詰ったかのように、激しかった。
今日はそんな暑いほうではいが、クーラーも扇風機もついておらず、窓もドアも密封しているので
さすがにどうしようもないくらい暑い。
発汗量も半端ではない。身体中から噴き出るようだった。が、それが余計に二人を興奮させていて…動きを止めようとは決してしなかった。 ようやく繋がる時だって。
「あっ、ん…っ」
「は、シェリ…ッ」
「あ、ああっ…ー…!」
ゆっくりと、清麿の熱く膨張したそれが私の中に挿入されていく。
室温と体温のこの上ない熱さが脳を混乱させていて、その上にこの圧力。
叫ばずにはいられない。
「あ…っ」
「…っ、入った…よ…」
清麿が笑う。私は声を止める。
全部収まって…すると少し落ち着いた身体は、また熱さを求めて
「清麿…っ」
窮屈そうな彼を愛しく想いながら、深く口付けて動きの再開を催促した。
「ああー…っ!」
ベッドのスプリングの音。汗が入って微かな映像しか映らない視界。
枕に絡まる髪。うだる暑さと、明るい真昼間の夏の射光。
全てが媚薬のような魔力を持っているようだ。結合場所の気持ち悪い粘着力さえ快楽になる。
「きよまろ、ぉ…!」
「しぇ、り…っ」
汗で滑って上手く抱き締められない。代わりに清麿の頬を挟んで、キスをする。
舌を突き出して絡めて、閉じ込めるようにキスをする。滴る唾液。
初めて清麿の部屋に来たときに覚えた、大人のキス。
今思えば、あの時も抱かれたいと、思っていた。そしてそれとなく清麿に告白した。
だけど清麿の心の準備が出来ていなかったから…だからいつか、決心がついたら、
そうしたら俺に抱かれて下さいと、そう言われて二人で約束をした。
代わりにとディープキスをして、ただひたすら抱き締め合って、ベットで数時間昼寝をしたその日。
セックスじゃなかったけど、恋人と初めて眠った、私にとっても清麿にとっても、美しい思い出の一つだ。
清麿が隣にいる…それ以上に気持ちのいい眠りなど今までになかった…。
「あ…!もう、だめ…っ」
「シェリー…!」
限界が二人に向かってくる。私は足を清麿の腰に絡めた。
「ああ…!」
「く…っ」
汗が飛び散り、ベッドに染みた。
「夕方なのに、まだ明るいわね」
午後六時。ベランダで二人、蝉の音を聴く。
眠って起きて、シャワーを浴びたばかりだった。
「うん…」
「どうしたの?」
表情が沈んでいる清麿に問うた。すると、
「今日…八時の便で、イタリアに行くんだろ?もうすぐだから」
なんて可愛く悲しむ。
「清麿…」
愛しくて、肩に頭を寝かせ、清麿の腕を抱いた。
「すぐ帰ってくるわよ。だから、待っててね」
「涼しくなったら…か?」
今は夏。帰ってくるのは秋か、そう言っている。
最近では減っていく魔物に比例するように、数ヶ月に一度しか逢えない二人である。
そうだ…きっと次に逢えるのは、うだる暑さが消え、蝉の音が聴こえない、夕方になると暗くなる、秋かもしれない。
狂うように暑い中のセックスは、あれは今年できっと最後だ。
「清麿…そんなこと言わないで」
「シェリー…」
「手紙いっぱい書くわ。電話もいっぱい掛けるわ。だから、」
気持ちは私も一緒だから
「これ以上、切なくさせないで…」
腕を強く抱き締める。清麿は答える代わりに、髪を撫でてくれた。
「でも何かあったら、いつでも何処でも飛んで行くわ…」
だから、笑って。
そう言うと、清麿は笑ってくれた。
私は腕を放して別れを告げる。少しでも理性がきくように、いつもどちらかの部屋で別れるのだ。
玄関を出て見上げると、まだベランダに清麿がいた。こちらを見ていた。
愛しているわ、そう大声で伝えて、笑って逃げるように去った。
此処を発てば……今度は黒い本を抱いて、私は女を捨てて戦う。
もう一度貴方に抱き締められるため。幸せな交わりと、眠りのために。
そしていつか、いつまでも、一緒にいるために…。
私は日本にいる清麿に、いつも心の中で語りかける。
でもね、清麿。
私達は離れていても、いつだって繋がれている。
呼んでくれたなら何処へでも行けるわ。
確かな隔離なんて私達にはない。
それを決して忘れないで。
だからこそ私は負けずに戦えるのよ。
貴方は私の永遠の…
比翼の鳥…連理の枝…
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