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どうか、お願いです。 神様。 仏様。 そして 果てしなく広い銀河を駆け巡る、流星よ。 もし本当に その“光”という名の輝きが、人々の願いを叶えてくれると、云うのなら。 どうか、オレの願いを訊いて下さい。 それは、たった一つだけ。 それ以外、何も望まない。 だから、どうか……… 星に願う事 「本当に今夜、流れ星が見えるの? 清麿」 「ああ、絶対だ!」 休日の夜中。 シェリーとオレは、オレの部屋で星空を眺めていた。 今は、二人きり。 おふくろと、ガッシュと、ウマゴンは、オレの親戚の家に泊まりに行ってる。 明日の夕方までは帰って来ない。 だから… 今夜は、この部屋に、二人きり。 「あと、どれくらいで見れるかしら?」 「ん… 5分くらいかな」 今夜は二人、流れ星を見る約束をしていた。 そう、あと、もう少し。 小さい頃からこの部屋で夜を過ごしてきた、オレの絶対的な事前調査。 流れ星を見た事がないシェリーの、夜空を見つめる眼は、本当に嬉しそう。 その姿に、オレも微笑んだ。 「私ね、願い事、もう決めているのよ」 シェリーは、ふふ、と笑って、オレを見た。 「…オレも、だよ」 …もちろん、決めている。 星が放つ光が消えてしまわない間に、願う事。 「あ!」 「え?」 シェリーが驚きの声と共に、一点に指を指し始めた。 数多くの星に紛れて… 流れ星が、 現れた。 「ね、願い事!早く…っ ね、清麿も!」 「お、落ち着けって、シェリー」 いつも冷静沈着なシェリーが、子供の様にはしゃぐ。 流れ星を追うような表情が、すごく可愛くて。 自分の願い事なんて忘れて、オレはそれを見てると。 シェリーが息を大きく吸い込み始めた。 …そして、 「清麿と… ずっと一緒に生きていきたい…!」 なんて、叫んだ。 「…………!!」 その言葉は、オレの耳と部屋に、大きく響いた。 オレは本気で、自分の願い事を言うのを、忘れてしまって。 思考回路など、どっか行ってしまって。 暫く彼女を、ずっと大きな眼で見つめていたら。 …最後の流れ星が、消えてしまっていた。 「…………清麿?」 「…あ…」 どうかした?、とでも言うような顔で、シェリーは首を傾げる。 オレの意識は、まだ少し、飛んでいて。 「…それが、シェリーの…願い事、か?」 なんて、 阿呆みたいな声で、聞き返してしまった。 すると、シェリーはニッコリ笑って、 「うん。一生の望みよ」 と、言った。 暗い部屋で、月の光を浴びて、そんな事を言う彼女が、 ……とても、 愛しくて、愛しくて。 オレは堪らず、後ろからシェリーを、ギュッ、と、抱き締めた。 鼻に良い香りのする、髪が触れる。 その感触に、酔いしれながら、 「………………悪い、すごく、…嬉しい」 オレは自然にそんなセリフを零した。 きっと今のオレの顔は、ニヤけているに違いない。 シェリーは、顔だけオレの方に振り向いた。 オレはそれを見計らって、シェリーの柔らかい唇に、キスを降らせる。 「…ん」 シェリーを抱く腕に、彼女の温かな手の平が触れた。 「清麿…」 …オレ達は、今まで色んなキスをした。 沢山した。 オデコとか。 頬とか。 目蓋とか。 唇とか。 髪とか。 …首筋、とか。 そして、 「…ん、ふ…」 舌を絡ませる口付けまで、覚えた。 オレはまだ、子供で、中学2年生で。 シェリーはオレよりも、オトナ。 こんなのは、早いコトかもしれないけど。 でもオレは、シェリーを本気で愛しているから。 シェリーもオレを、愛してくれているから。 どんなに自分がコドモだって… これは…大事な、大切な。 愛の証で、愛し合う行為。 「んんッ ふ、は、…ぁ」 オレ達は、今までで一番の、長い長い、キスに溺れる。 シェリーの両手は、いつまにか、オレの髪を掻き回していて。 オレの両腕は、いつのまにか、シェリーの腰に回されていて。 さっきまで、窓際に居たのに。 …気が付けば、 二人とも、ベッドの上。 「……………」 「……………」 シェリーは寝そべって。 オレはベッドに両手を置いて。 シェリーを見下ろす形となった。 いつもオレだけが使う枕には、 シェリーの金色の髪が、しなやかに流れている。 蒼色の瞳は潤んでいて……… 高まる鼓動は、止まらない。 「清麿」 ゴクンと息を呑んでいた時… シェリーはオレの腕を引っ張った。 その衝撃に、オレはシェリーの身体の上に倒れこむ。 シェリーはオレの首に腕を回し、強くしがみ付いて、 「…清麿が 欲しい」 と…。 耳元で、そっと囁いた。 息を吹きかけるようなその感覚と、色っぽい声に、背中がゾクゾクする。 「…いいの、か…?」 拒める訳がない。 オレは爆発しそうな心臓を、ドクドク云わせながら… 震える声で、赤く上気した表情で、訊いた。 「うん… 清麿に抱いて欲しい」 シェリーはそう言って、オレに触れるだけの、優しいキスをした。 ベッドの上で… 二つの身体が、重なった。 星が流れる、…今宵。 きっと二人とも、“予感”がしていた。 オレ達は、今夜初めて………… “繋がる証”を、 …手に入れる。 「…はぁ…っ ああ… 清麿…っ」 「…っ シェリー…っ」 まるで、世界中の音が全て止まっているような。 そんな静寂な空間の中で。 聴こえてくるのは、 二つの、荒い…でも甘い、吐息だけ。 「あ、あぁっ すき、好き…っ きよ、まろ…っ!」 「オレも…っ シェリー、…好きだ…っ」 お互いの名前と、 “好き”と、 そして、 「愛してる…っ」 そんな言葉だけを、数え切れないくらい、連呼する。 「っや…んぅっ、あ、あぁ…っ」 「はぁ、は、ん…っ」 拡がってくるのは。 快楽という、甘い痛みと。 ───愛しさ。 沢山のキスの雨を降らせて。 腕は幾度も絡まって。 喉が乾く位、荒い息を口から吹きかけて。 髪はもう、二人ともグシャグシャで…。 ───やがて、自分の熱を貫いた…… 「…っ、あぁああ───!!」 …身体を、“ひとつ”にした。 今まで経験した事のない、未知の世界に入り込んだような。 そんな幸せの絶頂に、オレ達は居るのだと。 ───感じた。 これが“愛している”という事。 シェリーに出逢ってから…… 知った。 「はぁ…っ 清…麿?」 身体が繋がった、余韻の後。 オレは汗でちょっと濡れた彼女を抱き寄せて、 「ずっと… 一緒に居ような、シェリー」 溢れてくる満足感と幸福感に浸りながら、軽く口付け、そう囁いた。 「…うん…っ」 どうか、お願いです。 神様。 仏様。 そして 果てしなく広い銀河を駆け巡る、流星よ。 もし本当に その“光”という名の輝きが、人々の願いを叶えてくれると、云うのなら。 どうか、オレの願いを訊いて下さい。 それは、たった一つだけ。 それ以外、何も望まない。 だから、どうか。 オレから彼女を、永遠に奪わないで。 彼女の瞳には、いつまでもオレだけを映していたいから。 オレの瞳には、いつまでも彼女だけを映していたいから。 ずっと、ずっと… 二人一緒がいい。 それだけでいい。 これから過ごしてゆくの時間を… 二人で刻みたいんです。 だから、どうか、 オレ達を、永久に引き裂かないで。 どんなに哀しくったって。 どんなに苦しくったって。 オレ達は、二人で生きていたいから…──── 「…ねえ、清麿」 「うん?」 「清麿は… 流れ星に、何をお願いするつもりだったの?」 「え?」 「さっき、何も願わなかったよね」 「……あー…」 「ねえ、教えて?」 星と月の輝きが差し込む部屋のベッドの上で、 隣に寝そべるシェリーは、小さく笑って急かすように訊いた。 オレはシェリーの髪を撫でながら、戸惑う。 ───“シェリーと同じ願いだよ”。 そう言ったら、彼女はどんな顔をするのだろうか? 笑う?驚く? …嬉くて、泣いてくれる…? オレはその時のシェリーの反応を勝手に想像し、口元を緩ませる。 そんな表情を隠すように… 温かな布団の中で、オレはシェリーを腕の中に閉じ込め、 「それは…………」 白色肌の耳元に、己の想いを降り注いだ。 神と。仏と。 …シェリーと。 そして、星に願う事を |