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過去、未来、約束。1 -シェリーside- 『今度はオレがガッシュに…借りを返す番なんだよ…』 ブラゴの強力な重力の力に、 血だらけで立ち上がった貴方。 『ガッシュ…戦うぞ…!』 力の差は歴然なのに、 それでも魔物である“友”と勝負を挑んだ貴方。 『てめえが…何を背負ってるかは…分からん…』 私も分からない。 貴方がどんな “つらいモノ” を持っていたのか。 『どれだけ…助けられたと思ってる…?』 それは私の過去よりも、大きいのか、小さいのか、 分からないけれど。 それでも私は、貴方にどうしようもなく惹かれた。 だからこそ見逃した。 生き残って欲しかった。 私は、貴方の事が知りたいから。 あの日から… 清麿の姿は、私の脳裏に大きく焼きついている──。 「今日の魔物、全く大したものではなかったな」 「…そうね」 魔物を倒したあとの、帰路での他愛のない会話。 清麿と勝負したあの日から、四日が経っていた。 私とブラゴは今も日本に滞在している。 きっとあの赤い本の子が、“落ちこぼれ”だから… 日本には魔物が沢山いると、ブラゴが言っていた。 きっと清麿の所には…今頃、勝負を挑んで来る魔物が 多く現れているだろう。 もちろん私は、清麿を信じているけれど。 「ガッシュと…高嶺清麿だったっけか?」 「──えっ…?」 ブラゴが呟いたその言葉に、心臓が高鳴っているのがハッキリと分かった。 今でも大きく波打つ。 「…アイツの事を考えていたんだろ…? 親友のココの時とは、違う表情をしているからな」 「な…///」 私の目的や事情をよく知っているブラゴだからこそ、気付くのだろうか。 図星を突かれて、ますます声が詰まる。 そしてまた、ブラゴは話を続けた。 「清麿という男の事が気になるのか?…珍しいな…。 お前がココやゾフィス以外のヤツの事を考えるなど…」 「わ…っ、私は別に…」 ブラゴの言うことは当りすぎていて… 慌てる私に、言い訳など思い付かなかった。 「見逃した時もそうだったな。嬉しそうな顔をして…。 まぁ…お前がヤツを気にかける理由は何となく分かるが」 「………」 もしかしたらブラゴも、 ガッシュと…清麿の何かに惹かれたのだろうか…? でも、私の清麿に対するこの想いは、 ブラゴとは全くの別物だと思う。 ブラゴの言う通り…。 今ではココ達を追いつつも、清麿の事をずっと気にかけている。 ほんの数十分の間の、出会い。戦い。別れ。 ココとは違う。 こんなに一人の誰かを想っている自分は初めて…。 「お疲れ様です、お嬢様、ブラゴ様」 「…お迎えありがとう、爺」 さっきまで魔物と戦っていた人気の無い場所から離れ、 私とブラゴは爺と車の待つ街まで着いた。 そして宿泊先のホテルで身体を癒すため、私は車に乗り込もうとした。 だが、爺が何故か私の手を掴み、止める。 「何?爺…」 「お嬢様…!どうなされたんですか、この怪我…っ」 「え…」 何で今まで気付かなかったんだろう。 長い髪で隠れていたものの、私の背中には引っ掻き傷が残されていた。 いつのまに…。魔物にやられていたのか。 そう実感した途端、大したことは無かったが、 何だか背中が少しずつ、急に痛みだした。 「大丈夫ですか?お嬢様…っ」 「大丈夫よ…。手当てすればすぐに消えるわ」 そう言うと、爺はすぐさま救急箱を探し出した。 しかし、救急箱は見つけたものの、かなり困った顔をしている。 「消毒液が無い…」 「消毒液?」 どうやら、傷口のばい菌を防ぐための消毒液が無いらしい。 そういえば、この前怪我した時に無くなったような…。 爺は私に懸命に謝罪する。 「申し訳ございません、お嬢様… 今すぐ病院に向かいますので…」 「…悪いわね」 「フン。まさかこんな汚い日本の病院に行くとはな」 ブラゴが愚痴を溢しつつも、私達は病院へ行くため車内へと乗り込んだ。 爺は地図で近くの病院を探す。 そして、病院を見つけたのか、爺はエンジンをかけ始めた。 「お嬢様、少し時間がかかってしまいますが我慢して下さい。 心配ですので、大きな病院へ向かいたいと思います。 モチノキ町立総合病院という所へ…」 ───ドクンッ…… その爺の言葉に。 私の心臓はまたも波を打った。 それは背中の傷よりも衝撃的なもので。 いつもなら、小さい病院だろうが、大きい病院だろうが。 どんな爺の気遣いにも笑って断るのだけれど。 今回、私は爺の提案に何も否定せず、 言われるままにしていた。 モチノキ町…… 清麿が…住む町─── 胸を抑える私を乗せた車は、真っ直ぐ目的地へと走っていた。 |