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過去、未来、約束。2 -清麿side- 『私達は話し合いに来たの…争う気はないわ…』 強い雨の中の、突然の二人の来客。 一人は見るからに非情で恐ろしい魔物。 そしてもう一人は… 綺麗な長い金髪が印象的だった、年上の女性─── 『あなたには分からないわ………』 ああ、分からない。 『もう…二度と…あんな思いは… …だから…』 貴女が流した涙の理由。 貴女が持つ “つらいモノ”。 オレは何も、知らない。 『グラビレイ…』 ───ズズズズズズ…ッッ あの魔物が出した、強力な重力。 それはとても、重く。冷たく。苦しく…。 でも。 もしかしたら貴女の抱えているモノの方が、 こんな重力のよりもツライのかもしれない。 『また会いましょう…』 そして。 戦いの後、彼女はそう言って止んだ雨の道に去っていった。 あの日から… シェリーの存在がオレの中で大きくなっている─── 「清麿!退院おめでとうなのだ!!」 「ああ。心配かけたな、ガッシュ」 モチノキ町立総合病院のある一室。 オレはここで三日間入院していた。 原因は、ブラゴとシェリーとの戦いでの怪我。 だけど怪我は思ったよりも大したことが無く、 今日、めでたく退院することとなった。 「今、母上殿が医師と話しているから、 帰るまでもう少し時間がかかるそうなのだ」 「そうか…。じゃあとりあえず、下の待合室まで行くか」 そう言って、オレ達は下の階へと足を運ぶ。 「にしても…。あの戦いから四日が経つんだな」 オレは独り言のように呟いた。 「ウヌ、短い時間だったけど、色んな事があったのだ」 そしてガッシュもオレの言葉に答えた。 「…ブラゴと…シェリー…」 その時、オレの中で、ブラゴよりもシェリーの姿が大きく思い浮かび上がった。 忘れない。 淋しそうだったけど、とても綺麗だった眼差し。 「シェリーは過去に何があったんだろうな…」 ずっと疑問に思ったことを、ガッシュに伝えてみる。 するとガッシュは、人が真剣に聞いているのにも関わらず、 ニヤニヤ笑ってこちらを見ていた。 それは、からかいの笑いで。 「何だ?清麿。魔物より、あの者の方が気になるのか?」 「なっ…ガッシュ!」 悔しいけど。 否定は出来なかった。 「シェリーの過去の事は、また会った時に聞けばいいのだ、清麿」 「…ああ、そうだな」 そうなんだけど… 今度はいつ会えるんだか─── 「シェリー──」 「…清麿?」 何だか。 最近いろんな事がありすぎたけど。 こんなにも誰かの事を考えているなんて、初めてかもしれない。 それどころか… 逢わなければ、何だか気が狂いそうだ。 まともな会話もせずに別れた彼女。 逢いたい。 オレの知らない彼女を知りたい。 そんな想いだけが、今のオレを支えていた。 「清麿!ガッシュちゃん!帰る準備が出来たわよ」 「ウヌ!」 「ああ」 待合室に着くと、おふくろは身支度を済ませてオレ達を待っていた。 あとは家に帰るだけ。 「──あら?」 だが、おふくろは何かに気が付いたらしく、エレベーターの方へ早歩きして行く。 「母上殿?」 「ごめんね、忘れ物しちゃったわ。ちょっと待ってて」 そう言うと、オレ達を残して忘れ物を取りに行ってしまった。 しばらくボーゼンと立ち尽くす。 すると、ガッシュが何やらオレの服の裾を引っ張って、楽しそうに呼びかける。 「清麿!清麿!外に凄い車が停まっているのだ!!」 「え?」 「…ウヌ!?車の持ち主が病院へ入ってくるぞ、清麿!」 「どれ…」 オレはガッシュの言う入り口へと目線を向けた。 …その途端。 三つの影を映した自動ドアが、音を立てて開かれた。 ガーーッッ…… ───その時 オレは心臓が止まったんじゃないかと思った。 目の前に現れた人物に、思考を奪われる。 そこに居たのは─── 「……シェリー……?」 まだ四日しか経ってないのに。 ずっとずっと逢いたくて堪らなかった女性だった。 |