永遠が消える時へ 痛い話により注意 |
「私」は今、本当に忙しい。まさに猫の手も借りたいといった時だ。
手元にある”手帳”に目を落とすとやけに今日の欄だけはみ出るほど異常に項目が多い。
この手帳は毎日のやるべき事を書き込んでおかせる物だ。
項目をみるとやはり私ー魔王ーでしか済ませられない項目ばかり。
もし他の者でも済ませられる物があればその項目書いた者晩飯抜きだ!
イライラしながら歩いていると休んでいたらしき者が逃げた。
よほど私は恐ろしい形相していたのだろう。
私自体はそれほど恐ろしい姿をしていないのだから。
むしろ美しい・・・自分で言うと変だと思われるが。
やっと”暗い森の焼畑作業”が終わり次の項目に移る。
次の項目は”台所に出現した黒ワーム(芋虫)の除去”・・・
他の奴にやらせりゃいい気もするのだがそれだと1ヶ月以上かかる。
しかも放っておくとおそろしく増殖し手がつけられない。食事が不味くなる。
私はトボトボと、かつ早足で城の台所へ向かった。
とにかく夕方、ノルマ?は終わらず次の場所へ、ヘトヘトながら向かった。
こういった時痛切に思うがパシリのようだ、魔王であるというのに。
いつもは大きめの椅子にどっかりと座って指示を出すだけだが。
ときどきこういう日もあるものなのだ。
”ケルベロス(犬)の散歩”が終わり最後は・・・
”牢獄のR-1(←囚人の番号)の処刑”
・・・こういう事をやると寝覚めが悪いのでやりたくないのだが・・・
まれに魔王でないと処刑できなくなっている悪魔がいる。
それゆえこういった仕事もごくたまに入ってくるのだ。
足音以外聞こえない牢獄の中を延々と歩いた。
カビ臭くて、血生臭くて、暗くて、恐・・・じゃなくてとにかく嫌な所だ。
R-1という札は・・・これか?ってこれはK-1・・・格闘でなくて。
早くこんな辛気くさく陰気くさい所から出たい。
しばらく歩くと蝋燭が多めにかかっている扉を見つけた。
中には鎖に繋がれた者が手足を投げ出して座っている。
近寄って見ると・・・私の半分の大きさもない、蝋人形にしか見えなかった。
髪は埃にまみれて白く、肌も血気がなく石膏のように白い。
唯一色のある瞳は、私と同じ血のように赤いが・・・何も映していない、映らない。
処刑するためその首に手をかけた、冷たい。
少し力を入れるだけで”ぱきり”と音をたてて変な方向へ曲がった。
・・・どう見ても、生きてはいない。
けれど一応仕事なので処刑用の短剣を胸に刺してその場を離れた。
痛い・・・
動けない・・・
・・・死という終止腺は無い
のか?
この永遠とも思える終わりの見えない時間の中
死というのは
全ての生き物に与えられるはずだった無慈悲な平等
そう思われてきたしそう思ってた
けれど死が無くて痛みと意識だけあって
見える世界が無かったら
死の方が安らかで幸せだと思うようになるものなんだ
じりりりりりり・・・がばぁ、カチっ
「・・・・なんだ、まだ2時ではないか・・・」
唐突に鳴り出した目覚ましは午前2時を指している。
・・・そういえば
昼寝の時合わせたままだった。
時間を7時に合わせもう一度寝ようとした時、
額が汗ばんでいるのに気が付いた。
喉も渇いていたので水飲み場に行く事にする。
そっと大きすぎるベットを出て、幼い頃と相変わらず大きい扉を押し開けた。
幼い頃、と言っても随分、いや恐ろしく昔の話で・・・
魔王というのは寿命が長く、私はもう・・・まぁ大体二十万歳くらいになる。
いつもは忘れている幼いころの夢を見た。
まだ家族のいたころという夢だ。
いつも優しいが病気がちであまり会えない母上、恐ろしい父上。
私は、いつも一人だった。
私は一族の中でも一番力が強く、ほぼ不老不死だ。
だから・・・両親・友人などの死に目に会いすぎて・・・
孤独が楽だと思った時もあった。
しかし、一度実際に世界が滅んだ後(といっても魔界は滅びなかったが))
寂しくなりまた世界を作り上げるまでしたが。
そういえば、
その時、私と同じ力を偶然受けてしまった者がいた。
・・・
ソイツの葬式には出ていないし死に目にも会ってな・・・い?
でも・・・
・・・考えても結論は出ない、まだ夜だが丁度いい。
悩んだら行動あるのみだ。
私は闇の中、見回りの者にばれないよう、影となりながら廊下を進んだ。
しかし・・・進みにくい事この上ない。
暗い中でも見えるよう、灯火がついている。
その光の中に入ると影だけが見える事になってしまう。
・・・なんとか大胆かつ慎重に
目的の場所、”牢獄、R-1”に着く。
中には夕方と変わらず辛気臭く、陰気臭い。
そして蝋人形のような死体もそのままある。
ただ・・・赤い涙のようなものが顔について
いる所だけが違う。
とにかくさっきの疑問を解決すべく髪に絡む埃をはらう。
・・・
私と同じ・・・ほどではないが緑の髪。
瞳は、閉じているので見る事ができない。
短剣を心臓に刺したはずなのに死んでいない。
生きてもいないが。
・・・とにかく疑問の答えが驚くべきものだった。
私の義理の弟がまだこの世にいるという事実が判明した。
心臓を刺されても生きている
。
しかしながらこのままではただ居る、というだけで話すら出来ない。
生き返るという事も無い。
生き返らせるにはこの城の中の”生命の滴り”を使えばよい・・・はず。
”生命の滴り”というのは何百、何千年に1滴しか作られない、天然の秘薬。
その一滴を使うと怪我があっという間に直り、瀕死の者にかけると生き返るとか。
・・・うそ臭いがいざという時の為ずっとその秘薬の生み出される場所を厳守している。
・・・はず。
・・・ここ最近耳に入らなかったなぁ・・・いや最近では無いか?
最後に聞いたのは・・・父がまだ生きていたころ。
つまりそれから使われていない?
・・・とにかくその場所に行ってみる事にする。
短剣は・・・引っ張っても抜けない
し、下手に抜くと良くないのでそのまま。
その弟−ラパード−を
持ち上げる。
最後に会った時のままの体型なのでとても軽い・・・のだが
パラパラパラ・・・・
蝋で出来ているように所々崩れた。
崩れたところから赤い蝋のようなものが見える・・・
中まで蝋で出来ている。蝋人形
と変わらない(実際蝋人形は持った事無いが)
なるべく壊さないように運んだ。
自分を持ち上げるのは誰だ
自分を少しずつ壊しながらも壊さない
奴は誰だ
早く壊して消えさせてくれ
このもう何も干渉できない干渉されない
世界から消してくれ
それとも錆つきすぎたこの体をまだ使わせるというのか
錆びていないトコロなんてない
直せたとしても心まで錆び付いているのだから
とにかく”生命の滴り”の作られる部屋の前へと着いた。
途中見回りの者に見つかりそう
になったがなんとか見つからなかった。
その部屋には見張りは居ない。鍵だけかけてある。
・・・不用心だ。まったくもって。でも助かったというか・・・
鍵は・・・確かこの
カーペットの下のタイルの中・・・
あった。
・・・まぁ手がかからなくてよかったという
事にしておく。
軋む扉を音をなるべく立てないようにそっと開いた。
ギギィ・・・
扉の向こうは無臭の空間だった。
入り口から少し離れた所から床が一段低くなっている。
その部屋の真ん中には”生命の滴り”を受ける杯があったが用を成していなかった。
なぜなら杯は溢れ、床が”生命の滴り”を受け止めていたからだ。
私がここー魔界の城ー
を離れたりして忘れる内、これだけの年月が経ったという事。
・・・まぁよい。
私は
その泉となった”生命の滴り”の中にラパードを浸した。
特に目まぐるしい変化は無い。
多分雨水や埃も混じっているからだろう。
もうすぐ夜も明ける。
私はここに
コイツを残し、鍵をかけ、鍵を持ち去った。
次の日は・・・目まぐるしかった。
仕事がいつもより多い・・・多いのなんの。
これでは様子を見に行けないではないか!
・・・はぁ、大人しく仕事だけやるとするか
・・・
・・・・・・
でもやっぱり”運命の台座(ただのでかい皿?)洗い”は
魔王の仕事じゃない気が・・・
なんで俺を解かすんだ
なんで殺してくれないんだ
もう生きる気力や元なんて
まったく無いのに
生きていても意味の無い長い時間が目の前に突きつけられるだけなのに
そんなに殺せないのなら・・・
やっとこさ、皿洗いが終わる。
ふらふらしながら自室に戻る・・・んじゃなくて
あの部屋に向かわないと、と思い出す。
あーもう明日じゃだめなのか?とか考えて
いたりするがガマンする。
鍵を挿して回し、扉を開く。
そして赤く染まった泉の中に浸って
いる彼を見ると・・・目を開いていた。
「よぉ、ひさしぶり・・・サタン」
私に気が付いたようで
口元だけ笑ったように動かして話しかけてきた。
・・・そういえばこいつ何で牢屋に入って
たんだろうか。
「ああ、随分ぶりだな・・・そういえばどのくらいたったろうか?」
答えながら記憶の糸をたぐる。
私が作った世界の住人の一人だった、そしてそれ以降見
ていない気がするが・・・
ぎりり・・・
しかし彼は歯ぎしりし、苛立った顔をして
「俺が知るわけ無いだろ、ずっとあの牢屋にいたんだから」
と答えてきた。
ずっといた・・・という事は・・・どういう事だろう
「何故、お前は牢屋に入っていたのだ
?」
そう言うと何やらぶーたれながら
「昔々の大昔に俺がワールドワーム(世界を食べ尽く
す虫?)を倒して
ドコかに延々とメチャクチャ飛ばされて消えるはずだったのに
お前がココに固定したんだろうが・・・」
・・・そうだったか・・・そうだった。
固定する、というのが永続的にできるのはこの牢屋だったから・・・
だからここに
飛ばされる呪いが解けるまで固定しようと・・・
なるほど。
でも何で処刑・・・?まぁいい。
ざぱざぱ・・・
私が泉の中に入っていくと・・・彼は起き上がった。
そして、
胸に刺さった短剣をより深く突き刺した。
「なっ!?何をしているのだ!」
私は慌てて止めさせたが・・・その眼は虚ろだった。
「だって、もう生きていたくないし」
・・・とんでもない事を言う。
と、とにかく魔力で押さえ込み泉の水ー生命の滴りー
をかけながら短剣を抜いた。
流れ出た血だけを残して傷は消えた。
その様子を見て
彼― ラパード ―は・・・またブツブツ文句らしきモノを言った。
・・・私が悪いと
いう事か?
た、たしかに解けてからも何年〜何万年も忘れていたのはマズかったかもしれない
が・・・
「死ぬ事は無かろう。人間死んだら終わりなんだぞ普通!」
・・・まぁ人間では
無いし普通でも無いが・・・
「人間じゃ無いから終われないというワケじゃないし」
そう言いながら今度はかなりの力を持つ魔法を手に呼び出したりした。
・・・まったく、
自爆って事か・・・
とりあえず相対する魔法を軽く使ってそれを止め、ついで魔力を封じた。
「・・・なんでだよ・・・」
バシャーン
魔力だけで意識を保っていたらしく、
気を失って泉の中へ倒れこんだ。
私にとってはちょっと忘れていただけだが・・・
こいつにとっては生きる事への考えすら変わる程の事だった、という事実が突きつけられた。
なんだっていうんだ
生きる力を無理に与えたくせに
生きていく力
そして 死ぬための力まで奪って
生きていく力が無くても生きられる部屋へ
押し込めて
何かをさせるワケでもなく
・・・何ダッテッンダヨ
これじゃ いままでの永遠のようなあの時間と同じじゃないか
早く終わらせたいという長い長い間願ってきた願いが
叶うと思ったのに・・・
何だってんだよ・・・
とりあえずラパードは封魔をかけて半密室へ入れておいた。
・・・生きる気力が
無いと言っていた・・・
生きる気力・・・と言うと、どうすればいいのやら・・・
放っておいては駄目だろうしかといって何をすべきか・・・
・・・わからん
「わからんわー!」
・・・・・・
「あ、あの、サタン様?何がわからなかった
のでしょうか?」
・・・つい声にでてしまった。
「いや、なんでも無いのだ」
「はぁ・・・そうですか」
思い出してみた
生きていく気持ちでイッパイだった時を
その生きる気持ちはどこから来たか考えた
それは自分のココロが錆び付いてなかったから
叶わないという事を知らないまま夢であふれていたから
その夢やこの先起こる
事が楽しみでしょうがなかったから
いつも笑顔だった気がする
生きていくキモチ
であふれていたからこうなっていなかった
笑顔だったからこうなっていなかった
とにかく、こう短期間で生きる気力が戻るなんて・・・
まぁそれは良い事なの
だが・・・
「・・・・・・」
ラパードは嬉々とした表情で書物をすごい速さで読んで
いる。
いちおうなんとなく監視?しているが生き生きとしていて、ずっと前とまったく変わらな
い。
・・・いつも見ていられるワケでないのは分かっている。仕事があるのだ・・・
「10670年の歴史書どこ?」
「そこから右35冊目だ」
そう答える時、なんとなく時計
を見る。・・・会議の時間だ。
この図書室の司書にアイツをみておくよう言って私は会議へ向かっ
た。
夢見る日は終わった
悪夢も、幸せの夢も
もう見たくない、見なくていいように
したい
今は夢見ている時間じゃない
夢見てるふりして逃げ出すんだ
どんな夢も見ないあの場所へ
会議の内容は「魔王に二世がいたのか」という内容だった。
・・・だから私の子供では無い
というのに・・・
頭固いオジジみたいのばっかりだから、長引いた。
とにかく図書
室へ行くと、ラパードが見当たらない。
司書に聞くと、奥の部屋に行ったという。
で、
奥の部屋に行っても・・・居ない。
窓の鍵が開いている。・・・外にでたのか?
そう思って探したが・・・見つからなかった。
徹底的に探しても・・・見つからなかった。
そしてもう1ヶ月もみつからなくて、春になった。
庭の桜が華々しく咲き
始める。
ずっと昔、土壌が悪くなり休養期間として閉鎖した庭の一角に
血のように
赤い桜が咲いた。
その下に、白い塊があるだろう事が予想されて
掘り出さなければ
いけないとは思ったが・・・
小さなアカイ庭は閉鎖したままにしておいた。
この春も、次の春も、ずっとずっと後の私がおわるほどの永遠の後の春も。
時、終わります
・・・死にネタ、とうとう公開しました。
悲しいから考えても公開しない事にしようと
思ってましたが。
ええ、書いてしまいましたともさ、血塗れ絵用意したんだから。
・・・初めて下書き無しで書いた故、変な部分発見したら是非言ってクダサイ。。。