*お読みいただく前に*
前作からの続編的要素も交えてあるため、前作をお読みいただくことを推奨いたします。




「・・・・・・ちゃん。」
(?)
「・・・兄ちゃん、起きて!」
(??)
「お兄ちゃん!起きて!待ってるから!」

瞬間、眩暈がした。眼前がフラッシュバックを起こしている。何があったのか分からない。遠くから、いや、近くからなのかもしれない。声が聞こえる。

「お兄ちゃん!起きて!」

(・・・ダ・レ・?)
(ダ・レ・ガ・ヨ・ン・デ・イ・ル・?)
辺りが光に包まれた・・・。

怪傑キュレイ団
〜潜入〜
作者:海瀬流 夜魔





★桑古木ファンタジー★

「・・・うっ・・・」
激しい頭痛が俺を襲う。気持ちの悪い目覚めだった。辺りは闇に包まれている。手を伸ばしてみると、そこにはヒンヤリとした土の感触が・・・
「って、土じゃないか!?」
そう、俺が手にしたのはまさしく土そのものだった。足を伸ばして立とうと試みる。しかし足が伸びない。伸ばそうとすると土の壁に阻まれるのだった。
「・・・一体どういうことだ?」
そもそもここはどこなのだろう?俺は目覚める以前の記憶を辿り始める。
「そう、俺は夢を見ていたんだ。誰かが俺を呼んでいる夢を。って、そんなことを思い出しても意味が無いな。それより前、それより前・・・、そうだ!俺は優の奴に嵌められてテロリストに奪われた施設を取り返すとか何とかいう訳の分からん任務に送られたんだ!」
だんだんと記憶が蘇ってくる。俺は桑古木涼権。『地上最強を誇る愛と正義の秘密結社キュレイ団本部』に勤める正社員でありポジションは係長だ。係長とは名ばかりで、実際の扱いは平並だ。まだ給料ももらっていない。そしてここは中東で俺は施設奪取のため侵入中。突如浴びせかけられたマシンガンの渦を掻い潜り颯爽と潜入した辺りまでは覚えているんだが・・・。

再び立とうとしてみる。どうやら足は伸ばせないが、立つことくらいは可能の範囲らしい。相変わらずの深淵。ふと上を見上げてみる。
「・・・月だ。」

それを見て俺は初めて自分の置かれている現状を認識した。情けないことに俺は走り回って逃げている間にどこかの穴に落ちたらしい。腰をさすってみる。・・・痛かった。
「キュレイ種をなめるなー!!」
一人吼えてみた。音沙汰なしである。ここから地上まで数十メートルはありそうだ。
「・・・返事が無い。ただの桑古木のようだ。」
「どうせ、俺はやられ役さ。今回もこんな辺鄙な所に飛ばして自分だけはコーラ飲んでるんだもんな、まったく。いいさ、俺は万年係長〜♪」
一人歌う自分にありがとう、そしてさようなら。
「ハ〜、最近独り言増えたな・・・俺。独身生活も長いからな・・・。」
落ち込みだすと止まらない俺の性格。分かっちゃいるけどやめられない、止まらない♪って何か違わないか!?

そうこうしているうちに目が慣れてきた。穴の中はひどく狭く、幅1メートル半あるかないかだろう。
「しかしこんな所目立たない所によく落ちたもんだ。俺って強運の持ち主?」
自虐的になってみる。今日は誰も突っ込んでくれないあたりがやるせなさを増長させる。
「はあ・・・、ちくしょー!」
拳を思い切り壁に叩きつけた。

ボロッ

「・・・ボロッ?」

もう一度土壁に拳を叩きつける。
土壁はボロボロと何の抵抗も無く崩れ落ちた。
「・・・へ?」
なんと崩れ落ちた場所に何かのボタンが!
「おいおい、もしかするとこれは本当に強運なんじゃないのぉお!?」

この展開。自分がRPGの主役になった気分!桑古木涼権32歳!誕生日は6月14日!心も若いが見た目も若い!彼女いない歴32年の暗黒の歴史にとうとう終止符を打つときが来たのかぁああ!!!

喜び勇んで
「ポチっとな♪」
ボタンを押してみる。

突如真後ろの土壁が崩れ去り、運命の扉が開かれたり
初回生産本数100万本を記録した伝説のRPG桑古木ファンタジーのスタート!
「まずは名前の入力、と。か、ぶ、ら、き、りょ、う、ご・・・だぁああ!漢字変換されねえ!」
な〜んちゃって♪危機迫る状況にも拘らずユーモア精神を忘れないお茶目でダンディーな俺に乾杯。
「入るべし!」

俺は冒険の書に記録するのも忘れる程はしゃぎながら足を踏み入れた・・・。

中はヒンヤリとした空気の漂う白い壁に覆われた建物。
「ここはどこ?」
誰も答えてくれない。
「・・・返事が無い。ただの地下室のようだ。」
やめよう。

察するに敵のアジトに潜入できたってところか。
100歩も進んだだろうか。特に変わった様子は無い。ずっと変哲も無い通路の中をひたすら歩き続ける。
・・・と、突然視界が開けた。
「・・・ここは!!」

ここにはテロリストのアジトとは思えない空間が広がっている。
整然と並ぶ白い部屋の数々。
見てはいけない景色がここにある。手を伸ばせば届きそうな、いや、本来届いてはいけない景色が。
壁を見た。ロゴマークがそこにはあった。知っているこのマーク。ありえないマーク。
「まさか・・・!そんなバカな!」
心臓が暴れだす。
「彼女いない歴に終止符が打たれるんじゃなかったのか!?」
って、そうじゃないだろ!俺!


不意に部屋の一つから男が2名。一先ず物陰に隠れる。まず見つからないであろう空間を発見しそこに身を潜めた。

「中東支部計画は大成功のようだな。」
「まったくだ。」
「表向きはまったくの別物だが・・・」
「そういうことだ。中身は一切変化なしというわけさ。」
「そういえばさっき外で銃声があったが何かあったのか?」
「どうやら侵入者らしい。とは言ってもおそらくどこぞのジプシーが迷い込んできたんだろう。」
「迷惑な話だ。」
「まあ、銃声がやんでから大分たつ。もう問題解決ということだ。」
「そうか、では私は仕事に戻る。」
「ああ、また後でな。」

男達は方々に散っていった。
「俺でもわかるってことは日本語だな。」
今さらながら自分の頭の良さを再確認してしまった。
「・・・しかし、中東支部ってことは、いよいよ怪しくなってきたな、これは。にしても、暑い!」
やはりダンボールはミスったか?

突然眠気が襲ってきた。
今日一日いろいろとありすぎた。先ほどの様子ではまだ夜だろう。

「太陽よ、また会う日までさようなら。」
いや、先ほど見たのは月だった気もするが。
「あっ!いけね!冒険の書に記録してなかった!」
桑古木ファンタジーもここまでか・・・。
いや待てよ!?別にセーブしなくてもいいよな!?だって電源切るわけじゃないし、要は宿屋に泊まるだけなんだから。バカだな〜俺♪ このことに気づくまでに10分かかってしまった。
「悩んで損しちまったぜ。明日の冒険のためにも今日は寝ておくか。見つかりませんように・・・。」

俺は睡魔に身を任せた・・・。

★たけぴょんクエスト★

「お〜い、太陽星人や〜い・・・」
応答が無い。
「・・・返事が無い。ただの宇宙空間のようだ。」


・・・・・・

「太陽に 星人なんて いなかった ・・・倉成武辞世の一句ってか♪」
「ってこんなバカバカしいことやってられるかぁああ!!!」
俺はようやくそのことに気が付いた。えらいぞ俺。

17時間後

「ただいま〜♪」
「武、太陽星人は?」
「あん?見つかるわけな、・・・いや見つけたよ♪」
「空〜、ちょっとこっち来てくれる?」
なんかいやな予感が・・・
額を冷や汗が滴り落ちる。
汗が口に入ってなんともスパイシーな味がした。
「何でしょうか?あっ!倉成部長!お帰りなさい!」
「はいはい、感動の再開は後にして。」
速攻で優が空にブレーキをかけた。
「ところで・・・空」
つぐみが口を開いた。
「私ね、実は男だ、って言ったら信じる?」
「はぁ?」
「邪魔しないで・・・私は空に訊いてるの。どう、信じる?」
横で優がにやにやと笑みを浮かべている。
「いいえ」
「じゃ、私の歳が20歳を超えてる、ってのは?」
「可能性はあります。」
ちょっと待てよ・・・。これってどこかで見たような・・・。ってその前につぐみが20歳を超えてることは空も知ってるじゃないか!突っ込みを入れたくなったがここは耐えておく。
「実はね、武はさっき太陽星人を見つけてきたの。ほんとよ。さっき聞いたの。」

ドクン

心臓が高鳴った。

「おい空ちょっと待ってく」

「それはさすがに、信じられません。」
「ぐはぁああ!!!」
ゲームオーバーだった。セーブし忘れたのは致命傷だ。ここまでレベルを上げてきたのもGを集めてきたのもすべてパー。ああ、俺はまた1レベルからやり直すのか・・・。
「ふふっ、あなた・・・本当に優秀みたいね。」
つぐみは少し笑った。笑いの中の底知れぬ怒りを俺は見逃さなかった。
「な、なぁつぐみ、どういうことだ?」
一応訊いてみる。
「つまり・・・空は他人の『嘘』を見抜けるの。」
優が代弁してくれた。

「武!太陽星人見つけたんですって!?」
「い、いや、その・・・。」
「どうなの!?」
「そ、それが・・・」
「はっきりしなさい!!」
「ごめんなさい!見つけてません!」
「はじめから素直に言えばいいのに。」
あれ?予想以上にあっさりと尋問は終了したらしい。
「今月の給料カットね。」
「・・・・・・」



つづく




あとがき

読んでいただきありがとうございます。
今回は前回までと異なり、個々人のストーリーです。個人編ということで一人乗り一人突っ込みが多いのですが(笑)
これから各パート進行させていきます。
次作もお付き合いいただけると幸いです。

それでは♪

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