*お読みいただく前に*
前作からの続編的要素も交えてあるため、前作をお読みいただくことを推奨いたします。




怪傑キュレイ団
〜運命の螺旋〜
作者:海瀬流 夜魔





★ピリ辛ヒヨコ大戦★


沙羅達が道に迷ってからかれこれ3時間は経過しようかという頃。ホクトは次第に焦りを感じ始めていた。忍者の勘など当てにならないことがようやく分かり始めてきたのかもしれない。時すでに遅し。二人の冥福を祈ろう。

「……って、勝手に祈るな!!」

「沙羅、本当に発見できるの?あの飯田さんが言ってたものを。というかそんなもの本当にあるの?」
「知るわけ無いでしょ。男なら黙って私についてきて。」

そんなセリフ言ってみたい!
そんなことをこの期に及んでも考えていられる辺り、まだ精神的に余裕はあるのかもしれない。

「飯田さんはね、地下27階にいけばその財宝が手に入るって言ったのよ!」
「え?27階?……ねえ沙羅、それってもしかして幸せのは」
「違う。」
「いや、だってそれって絶対に幸せの」
「違うの!そんな蓋を開けたらあたたかいメロディが流れる幸せの箱とは違うの!! あ゛」
「ほら、やっぱりそうなんじゃないか。でも地下27階って何だ?階段も何もないけれど。ということは、ひょっとすると……。もしかしてそろそろ……」

ゴゴゴゴゴゴ

突如、沙羅達の歩いているフロアが揺れ始めた。
「うわっ!!地震だ!」
「お兄ちゃん、助けて!」
飛びついてくる妹。腕に当たるやわらかい感触。
ホクトは幸せであった。

と、瞬間、視界が定まらない。
地面が随分目の前に見える。そんな感じがしたとき、ホクトはしたたかに腰を打った。
「いたっ!」
上から落ちてくる沙羅。ホクトの上にのっかる形になる。

ぼきっ

「ギャッ!!」
とても香ばしい音を残し、ホクトは悶え苦しむ。
「……お兄ちゃん、大丈夫?」
「さ、沙羅さえ無事なら僕はいいんだ……」
メロドロマを展開している余力はまだ残されていたらしい。
サピエンスキュレイ種のホクトだが、つぐみや武、春香菜の様な回復力があるわけではない。
「僕に残されたのはこの赤外線視力……この力を駆使して今回はなんとしても僕の株を上げなければ。」
「でも随分と落ちてきたなー。」
「案外、もう27階だったりして。」
「ははは、まさか。」
「お、お兄ちゃん、あれ、なんてかいてあるんだろう? 私の見間違えじゃなければ地下27階だと思うんだけど……」
沙羅が指差した先。
そこには看板というか標識というか、そのような物体が存在していた。そして沙羅の見間違えということはなかった。
そう。紛れも無くそこに書かれていた文字は「地下27階」の5文字。そしてその先には扉らしきものがある。
「は!? 本当に書かれている。ということは、人工物だよね?」
「うん……」
「これって、明らかにおかしいよ。飯田さんって人しか知らないんじゃなかったの、沙羅?」
「うん、飯田さんは確かにそう言ってたわ。でも飯田さんが知っているのは事実だったわけで、他に知っていた人がもういないということも考えられるわ。」
「あ、そうか。さすが沙羅♪ 天才ハッカーなだけはあるなあ♪」
「いや、そんなことにも気づかないお兄ちゃんってむしろ……抗争になりたくないからやめとこ。」
「ん? 沙羅、何か言った?」
「ううん。ただお兄ちゃんってバカだなぁって思って。……あ゛」
(なに本当のこといってるのよぉおお!! 私のバカーー!!!)
かくして、壮絶なる兄妹抗争が始まったのであった。


1時間後……


「はあ……はあ……」
「ぜえ……ぜえ……」
「やるわね、お兄ちゃん。」
「ふ、そりゃあ毎晩優に鍛えられているからね。」
「な、なにを!?」
「いや〜ん、そんなこと本当に言わせる気ぃ?」
「よければ後世のために、ご教授願うでござる。」
「よし、それはね……」
「……ごくり」
「ヒヨコごっこ♪」
「は?」
「だ〜か〜ら〜ヒヨコごっこ。」
「…………」
「やだな〜沙羅、そんなに褒めないでよ。」
「や、褒めてないってば。」
(この男、正真正銘の大バカね)
心底そう思う。
「ん? 何か言った?」
「ううん。ただお兄ちゃんって本当にバカだなぁって思っ……ああ゛!!!」


地下27階での第二次世界大戦は3時間にも及んだとか。


「はあ……はあ……」
「ぜえ……ぜえ……」
「こんなことしているひまがあったら早く扉を開けてみよう。」
「そうね。お兄ちゃんにしては名案だわ。」
「ふっ、当たり前さ。」
ホクトは扉に向かう。
錆付いた取っ手。長い間使われた形跡は無い。

ギギギギギ……

軋みながら開いた先に一歩足を踏み入れる。
埃っぽい部屋。
あたりは暗くて何も見えない。しかし彼らには「赤外線視力」という能力が備わっている。彼らの大切な父と母から受け継いだ能力が。

「はぁあああああ!!!!」

咆哮と共に発動する赤外線視力。
その能力は微弱な熱を発生する物体を暗闇でも感知できる能力。
ましてやここは地下27階。マントル近くまで迫り、あちこちから熱が発生している。
つまり、暗闇であるにもかかわらず、彼らが周囲の状況を確実に察知しているのはこの能力あってのことなのだ。
そして赤外線視力は別に叫ばなくても極自然に常時発動しているスキルであるということを付け加えておこう。
この説明により、ホクトのお茶目っぷりが理解していただけたと思う。
いや、むしろバカっぷりと言った方が正しいのだろうか?
これ以上の詮索はハルマゲドンを引き起こしかねないのでやめた方が賢明というもの…。

「!!」
「どう? お兄ちゃん…え!?」
「こ、ここは一体?」

そこはホクトと沙羅の予想していたような場所とはまるで異なる空間だった。
見渡す限り、コンピューターなど近代設備の数々。そこから微弱ながら熱が発生している。とても古代のお宝が眠っている雰囲気ではない。

パッ

「うわっ!?」

突如部屋全体に閃光がほとばしる。
ライトだろう。今まで漆黒の闇に閉ざされた洞窟の中を彷徨っていたのだから驚くのも無理は無い。しかしこの空間に明かりがついても何の違和感が無いのも事実だ。
ライトがついて分かったが、部屋は真っ白な壁。冷房設備も整っているようで、空気は冷たく保たれている。コンピューターに過度の熱は禁物だから当然の策ともいえるが。

そして……

奥の椅子に一人の女性が座っていた。彼女が明かりをつけたのだろう。

「あ……あなたは?」

青とも紫ともいえぬ何とも幻想的な色の髪の毛は肩の辺りまでのばされていて、日ごろから手入れが行き届いていることが伺える。目の色はブラウン。背は…優の母――春香菜――と同じくらいだろうか。年は見た目では20代後半といったところ。微笑をたたずんだその表情からは悪意は伺えない。

「こんにちは。倉成ホクト君。沙羅さん。」
「!! どうして僕達の名前を!?」
「あなた一体何者なの!?」

「わたしは―――――」


★ほろ苦熊さんシェイク


ゴツッ!!

「あいて!」
すさまじい衝撃と共に俺は目覚めた。
どうやら柱に頭をぶつけたようだ。
「ったく、朝から脳をシェイクしちまったぜ。脳のシェイクって旨いのかな?」
素朴な疑問がシェイクされたばかりの脳を横切る。いつもは低血圧な俺のビートルも今日は朝からフル回転だ。今ならル・マン24に出走できそうな気がする。う〜ん、エントリーしたいけどまだ給料貰ってないしなぁ。
「そういえば、俺はダンボールで寝てたよな?」
今さらながら素晴らしい寝相の良さに気づいてしまった。
ダンボールから軽く5メートルは離れたポイントに俺は位置していた。
「よし。探索開始だな。」
昨晩、二人の男が歩いてきた部屋。そこをターゲットに絞り込む。
現在は誰もこの階層にいないような気がした。
白の空間。
まるで一切の存在が否定されるような…。
そう、俺はこの景色を知っていた。
「なーんだ。精神と時の部屋じゃん♪」
ちがーう!!……と誰も突っ込みを入れてくれないあたりが切なさを誘ってハートウォーミングチックで良い感じだ。この感覚、理解してくれる人がいるだろうか? もしいたらお嫁さんにしてあげよう。
心の中で決意は固まるのであった。

いや、少々話がそれかかっているのは気のせいだとしても……。

男たちが現れた部屋。そこは以前いたLeMUの医務室のような雰囲気。パソコンが数台置いてあるだけの殺風景な部屋だ。まあ、ここに猫のぬいぐるみとかあったらそれはそれで怖いが。
ふと、目を逸らす。
と、そこには……
「って、あったよ!猫のぬいぐるみが!!」
誰がこれを使ってあんなことやこんなことをするのだろうか。
いや、その前にあんなことやこんなことって何?
「いかんいかん。こんな閉塞された空間にいたら脳がシェイクされてしまうぞ。」

ところで俺がパソコンを若干ながらも使えるということを皆さんはご存知だろうか?
 う〜ん、誰に話しかけてるんだ俺は。まあいい。その事実をここに証明してやるぞ。
「ポチっとな♪」
すると、Windows2034改が起動した。
「やれば出来る!!」

前略―――お父さん、お母さん、お元気ですか?
ぼくは今、中東のテロリストに奪われた施設を取り返すという名誉ある特殊任務についています。007も顔負けでしょう♪
そんな中、ぼくはその施設にてついにパソコンの起動が出来るようになりました。鬼のような優のしごきに耐えて幾数年。そう、やれば出来るんです! あのWindows2034改が動かせたんです! どうぞぼくを人間国宝に推薦してください。

これでよし、と。書いてて気づいたんだが人間国宝って推薦されたからってなれるわけじゃないよな。いや、それ以前の問題があるような。これを書いてどうやって送るんだ!? なんてことだ!!

  むむむ……いたしかたがない。ここはすべてをこの猫のぬいぐるみに託すか。ちなみにこの猫のぬいぐるみには名前がある。「ニン猫17号改スペシャルバージョン」。何でこの製品名を知っていたのかは秘密だが。

部屋を出る。隣にも、その隣にも、そのまた隣にも部屋があった。そしてそれがぐるーっと周って何部屋かあった後、この部屋に戻ってくる。つまり円状になっている中央の空間、そして円周上にある部屋の数々、というわけだ。
だが部屋の数や種類などさして問題ではない。
問題はどの部屋に一番最初に入るかだ。
「う〜む、迷うぞ……。俺が入った2番目の部屋という称号をもらえる部屋を決めるのは。公平に選ばないとかわいそうだしなぁ。ど・れ・に・し・よ・う・か・な、と。う〜む、この部屋か。でもこの選び方は不公平な気がするぞ。やっぱりサイコロにしようかなぁ。う〜ん?」



こうして時間は過ぎていくのであった。




つづく




あとがき

読んでいただきありがとうございます。
今回は沙羅と前回からつづきの桑古木編。
沙羅編はシリアスに、桑古木編はコメディ調に、と意識して書いてみました。
が、両方コメディっぽくなってしまうという罠(苦笑)
う〜む、桑古木編進行が遅いです(汗)

沙羅編では第三者風の語り手がいるようであり、桑古木編は一人語り風であるところは少々違和感を感じるかもしれないのですが、読みやすさ、読みにくさの点、また感想などいただければ幸いです。
長編ですが、どうぞ次作もお付き合い下さいませ♪

それでは♪

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