「萌え」という単語が定着して幾数年の時が流れました。今では英語辞書のタイトルにすらなっており、我々オタク間で使われる意味での「萌え」が広辞苑に載る日は近いのかもしれません。 そんな萌え文化の一端を担ったビックタイトルに「Kanon」があります。Kanonが世界的に有名なゲームであり、プレイした人々を悉く涙の渦に沈没させたことは既にご周知の通りでありますが、もう一方でこのゲームのキャラクターがとてつもない萌え値を放っていたこともまた確かであり、このことがプレイヤーにキャラクターへの思い入れを強め、感動をより一層強くしたのであります。 Kanonのキャラクターの何処にそんなパワーがあったのでしょうか。原画を担当したのは樋上いたる氏。氏の絵ですが、目がやけに大きく、さらに間がやけに離れており、しかも顔がでかい。バランスが全体的に変です。どう考えても絵で買うゲームでは無い。それが何故強烈な「萌え」を生み出し、多くの人々の支持を得たのか。
要因は徹底された性格付けにありました。全キャラに標準装備された天然気質、一度聞いたら忘れられない特徴的な口癖、覚えやすい好物の食品、etc...。一例を挙げてみますと、メインヒロイン月宮あゆの「うぐぅ…」に始まり、My萌えキャラ佐祐理さんの「あははーっ」、史上最強の泣きキャラ真琴の「あうー」、伝説の病弱娘栞の「そんなこと言う人、嫌いです」、と実に多彩かつ異常な口癖群。 ここにバランスの悪いいたる氏の絵でも萌えられるわけがあります。というよりもむしろ、そうして特徴付けたキャラの絵はいたる絵でなくてはならないのです。何故なら、誰にでも可愛く見えて万人に受け入れられるキャラが「うぐぅ…」とか言っているとそれは電波でしかないからです。妙な設定と妙な絵が絶妙にマッチするというわけです。 改めて整理してみましょう。「うぐぅ…」は誰が聞いてもおかしい口癖ですよね? そしていたる絵も誰が見てもどこかクセのある絵ですよね? 絵と性格付けの両者が妙だからこそ、合わさった時に違和感が無いんです。毒をもって毒を制す。 この原則が適用されるということです。こうしてゲーム開始当初、直視に耐えがたかったキャラは、徐々にその天然ぶりを発揮してプレイヤーから違和感を拭い去り、最後には絶大なストーリーと音楽の効果とマッチして、プレイヤーの脳内で最強の萌えキャラとして置換されるのであります。
しかし、この場合注目すべきは性格付け。実はCanvasのキャラクターはKanonの「うぐぅ…」の様なおかしな言語は一切発しません。ですからセリフに違和感を覚えることはありませんし、普通に萌え死ねます。 この様に、誰が見ても可愛いと思えるキャラクターは妙な性格付けをする必要は無いのです。普通にしていれば普通に萌えられるのですから。この場合は、 の原則が当てはまると言えましょう。 最後に電波キャラとなってしまった典型を挙げまして、萌えと電波の関連性の考察を締めくくることとします。
と、いうことになります。これにより、Kanonは普通にしていると受け入れられないから絵だからこそ際どい設定がヒットしたのであり、普通に萌えられる絵ならば無理におかしな設定にする必要は無いということが証明されたのであります。 近年、意図的な電波キャラが増えている傾向があるような気がします(この場合は万人向けの絵+妙な性格付けのキャラクター。逆パターンは原画家の力不足とみなした方が良いことが多いと思います)。少数派だったおかしなキャラが増えるにしたがって、プレイヤーの電波の受信度も高まってきたということなのでしょうか。上記SNOWも例として挙げはしましたが、意図的な電波キャラとも充分に感じ取ることが出来ます。電波がゲームを制する時、一体この世界は、そしてプレイヤーたちは、どんな精神状態にあるのでしょうか。非常に不安でもあり、ある意味楽しみなギャルゲー業界の今後。オタクの意で電波が広辞苑に載った時、澄乃に普通に萌えてしまった私も危ないかもしれません。 |