柊香さま、200HITキリリク商品(爆)


 Doll 〜彼女の望むもの〜


本当は可愛い女の子になりたかった。
あのお店で売っている、可愛いワンピースやブラウスが似合う、背の小さな女の子。
・・・だけど、私は。

「おはよう、志穂。」
何気なく肩を叩かれるだけで、そこからじわじわと膿んでゆく気持ちになる。
それは彼女が悪い訳ではない。私が彼女を妬んでいるからだ。
「・・・おはよう。」
「ねーねー志穂。今度の日曜日、空いてる?」
彼女は意識してはいない。でも私にはその甘えた口調が、神経に触る。
「・・・空いてないわ。」
「もー、また勉強?たまに息抜きに遊園地でも行こうよぅ。
 ・・・スペシャルゲストも用意してるよん♪」
纏いつくように、彼女が私の周りをクルクルと回る。
「・・・行かないわよ。」
本当は、忙しくなんかない。
彼女と出かけるのが、厭なだけ。
私の欲しいものをみんな持っている、彼女。
そんな人と2人で出かけられる程、私は大人じゃない。
「珪くんとぉー、折角守村くんも来るのニィ。」

”守村君”

その名を聞いて、私は更にムッと来た。
彼女は善意で、彼を誘っただろう。
でも・・・それが尚更私を惨めにさせる。
「行かない。絶対に!」
そう言い捨てると、私は足早に彼女の前を去った。


―本当は、行きたい。休みの日にも、守村君に会えるんだから。


「志穂!煩いわよ。」
部屋のドアを乱暴に開けると、階下から母の怒鳴る声が聞こえた。
「・・自分の声の方が煩いわよ。」
そう呟くと、私は静かにドアを閉める。
「・・・はぁ。」
鞄をベッドに投げ捨てると、姿見の鏡に向き合う。
祖母が何年か前の誕生日祝いに、年頃だからと言って買ってくれたものだ。
私はそれに向き合う度、鬱屈する。
公園通りのあのお店のショウウインドウに並ぶ服のどれを私に当てはめても、
無理矢理親の趣味で服を押し付けられた子供みたいに不自然だ。

ふと、本棚の上に置いてあった、アンティークドールが目に入る。
これも祖母がまだ幼かった頃の私にくれた、誕生日プレゼント。
貰ってすぐは、怖かったのを覚えている。

紙のように白い肌。
青い大きな瞳。
血のように赤い・・・唇。

夜、灯りを消した後、外の月明かりに浮かぶ姿は、小さな私に取って『怖いもの』以外の何物でもなかった。
古ぼけたそれは、元の恐ろしい位の美しさがかすんで見える。
「貴女みたいに、可愛らしい子になりたいわ。」
人形を抱き上げると、青い瞳を真っ直ぐ見つめて願いを告げる。

・・・ふと、その時人形が少し微笑んだように見えた。

「え?」
2・3度瞬きをして見直すと、元の無表情だった。
「・・・疲れているのかしらね。」
人形を元の位置に戻すと、私は制服から部屋着に着替えた。


―お姉ちゃん、淋しいの?
真っ暗な闇の中、あの人形に良く似た小さな子が、上手な日本語で私に話しかけてきた。
『・・・淋しくなんかないわ。』
―今日遊園地に誘ってきたお姉ちゃん、意地悪だよね。
少女の問い掛けに、私は答える事が出来なかった。
意地悪じゃない。でも、それを否定出来ない。
―私があの子を懲らしめてあげる。
女の子の顔が、青白く変わる。悪意に満ちた光が、青い瞳にちらちらと覗いている。  
血のように赤い唇が、妖しい笑みを浮かべて歪み出した。
『・・・な、何をする気なの?』
闇にぼんやりと彼女の姿が浮き出る。
―二度とあのお姉ちゃんに、意地悪出来ないようにしてあげるの。
彼女を指差し、ケタケタと少女は笑う。
その無邪気な声色は、却って恐ろしく聞こえた。
『・・・ダメ!』


喉を走る痛みに、目が覚めた。
見慣れた天井が、目に飛び込んでくる。
「・・・夢!?」
額に汗をびっしょりかいて、私はベッドから飛び起きた。
窓から差し込む朝日は、いつもと何も変わらない。
私は人形の有った本棚へ目を向ける。

・・・そこに有った、いや、居たはずの人形が居ない。

思わず唾を飲む。
そんな事、ありえない。人形が勝手に動くなんて、ありえない。
でも・・・昨夜見た夢のせいか、非現実が現実的に思えた。
時計を見ると、9時をまわっていた。
いつもは休みの日でも、自然と8時には目が覚めるのに・・・。

―あのおねえちゃんに、意地悪出来なくしてあげる。

手早く服を着替えると、手ぐしで髪を整え部屋を飛び出した。



『気が向いたら、来てよ。遊園地の正門に、10時ね。』
バス停の正面に位置する時計塔を確認すると、9時半を回ったところだった。
彼女はバスに乗ったのだろうか。
そしてあの古ぼけた人形は・・・彼女をどうするつもりなのだろうか。
有り得ない。しかし現実味のなさが、却って恐怖感を大きくする。
夢か現実か解らない時間を過ごしたせいか、身体が既に疲労を訴えていた。
大きく息を吐くと、不意に肩を叩かれた。
「きゃ!」
私は思わず肩をすくめ、あらぬ声をあげる。
「・・・志穂!?どしたの?」
私の驚きように、彼女もまた驚いていた。
「・・・別に。」
「ふうん・・・まあ、いいや。」
自分の身が危険だ、などどいう事を夢にも思っていない彼女は、
来てくれてありがとうと言うと屈託のない笑みを浮かべた。
私が・・・つまらない嫉妬などしなければ、彼女の好意を素直に受けていればこんな心配などしないで済んだのに。
「さ、いこいこ♪♪」
彼女に導かれるまま、私ははばたき山行きのバスに乗った。

本当は・・・ここから、もう始まっていた。
気付かないうちに、私は”あの子”のかけた罠に・・・もうはまっていた。

「あ、居た居たー。」
彼らの姿を見つけると、彼女の表情が一際明るくなった。
「お互い、いい日になるといいね。」
彼女は小声で囁いてウインクすると、人ごみの中で私たちを探している2人に大きな声で呼びかけた。


「次はオバケ屋敷だよ〜ん♪」
何時しか私はここに来た理由をすっかり忘れ、楽しい時間を過ごしていた。
忘れたのは当然で、今まで何も起こらなかった。
ただ一つ違和感を感じたのは、いつも彼女と居る時には、時々笑顔を見せる筈の葉月くんが上の空だった事位で、
それは単に疲れているのだろう、と軽く流せる程度の気がかりだった。

・・・そう、その時までは。

「私、守村くんに志穂の事聞いてみたいから、守村くんと入るね。」
「え!?」
彼女のおせっかいな申し出に、私は顔が赤らむのが解った。
「いーから、いーからぁ。」
無理矢理背中を押され、葉月君と共に中へ押しこまれた。
「・・・全く。」
葉月くんも迷惑だろう、と私は思った。
彼女ならまだしも、私と共にこんな所に入ったってちっとも楽しくないに違いない。
「強引よね、彼女。」
共通の話題なんて、彼女の事しかないだろうと思わず気を使う。
「あぁ・・・でもお陰で・・・。」
「え?」
暗闇の中、一筋の白い光が走った。
と同時に葉月君が、私の腕を掴む。
強い力に引き寄せられながら、私は小道具の竹やぶの隙間に・・・


あの子の姿を見た。


―あのおねえちゃんに・・・志穂と同じ思いをさせればいいの。


「・・・何するの?」
強い力で壁に押さえつけられ、私は苛立つ前に怯えた。
あの子の姿。そしてこの尋常じゃない・・・力。
「お前と2人っきりになれた。」
「え?」
光の無い、深緑の瞳が近づいてくる。

―志穂・・・彼女が憎いでしょう?
 彼の心を捉えて離さない、彼女が。


「い・・・やぁ!」
唇が軽く触れるのを必死でかわす。
葉月君は表情を変える事無く、空いた手で私の顎を掴む。
「お前が・・・好きだ。」

―嬉しいでしょう?志穂。
 彼女の好きな男の子が、あなたを好きですって。


「嘘よ!どうしてこんな事・・・。」
あの子への抗議は、葉月君の唇に妨げられた。
何の感情も無い口付けは、苦いだけで何のときめきも得られない。

―どうしてかって?決まってるじゃない。
 志穂が・・・私の綺麗な指を、折ったじゃない。



人形の言葉に、記憶が時を遡る。
あれは・・・まだ小学校に上がる前。
あまりに母が従姉妹を可愛がって見えたあの時・・・私は従姉妹にあの人形を投げつけた。
『いたいよ・・・しほちゃん』
半泣きで床へ座り込む従姉妹。
『志穂!何してるの!?・・・お人形さんの指、折れてるじゃない!
 折角おばあちゃまが買ってくれたのに・・・何て事するの?』


唇を貪られながら、ぼんやりと眺めた宙に、人形の姿が見えた。
抜けるような白い肌に、血のように赤い唇。
恨めしげな表情で私を睨みつけながら、あの子はけたけたと笑う。

―志穂。見てるよ。
 彼女と・・・彼が。


葉月君の肩越しに見えたのは、彼女と守村君が唖然として立ち尽くしている姿。

―ずっと待ってたの。
 志穂が誰かに対して、あの時と同じ醜い感情を抱くまで。
 自業自得よ?志穂。
 何の努力もしないで、彼女を妬んでいただけのあなたがいけないの。


人形の少女の狙いは、彼女ではなかった。
私を陥れる為に・・・この光景を守村君に見せ付ける事。
私はきつく目を閉じると、抵抗する力を抜いた。
・・・願わくばこれが、悪い夢であるようにと強く願いながら。





「ありがとうございました。どうか、大切にして下さいね。」
あの人形が売られていた店では、必ず買い物をした客にそう告げている。
その言葉の本当の意味は・・・警告。





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