やっと完結(汗)ここまでお読み頂き、有難うござります(涙)


時を越えて・・・




ずっと生徒だと言い聞かせてきた。
特別な感情を抱く事は、教師として許されないと思っていた。
・・・しかし俺は、教師で有る前に・・・一人の人間だ。
完全に失う寸前に、その事にやっと気付けた。

―もう、抑える事など出来ない。


「だ、旦那様!?」
私の腕に絡め取られて、お綾は驚いた声をあげた。
「・・静かに。誰かが起きるやもしれない。」
耳元で囁くと、お綾は小さく頷く。
「この家の主・・・教授・・・。今だけ、全ての肩書きを捨てる。
 だから・・・今だけこのままで。」
小さな体を強く抱きしめると、お綾の全身を支配していた緊張が抜けた。

夜空に煌々と輝く月だけが、庭に彩りを与える花だけが、息を潜めて私達を見ていた。
”今だけ”ではなく”今から”全てを捨ててしまえれば、どんなに幸せだろう。

「・・君を、愛している。」
私の言葉に、お綾は耳を朱に染めた。
胸元に深く顔を埋めているので、どんな表情かは解らない。
だが恐らく困り果てた表情で、頬も朱に染まって居ることだろう。
「わ・・・たしも、です。」
胸元に、お綾の息が掛かる。
全てを絡め取ろうと、お綾の顎へ手を伸ばし、想像通り真っ赤になっていた顔を上向かせた。
「旦那様・・・。」
うろたえるお綾に目を閉じるように促すと、桜色の愛らしい唇を軽くそっと塞いだ。

ゆっくり、近づけずにいた時間を惜しむように口付けを繰り返す。
時に激しく甘く唇を貪れば、お綾の唇から甘い吐息が洩れる。
それを唇で掬い取ると、また深く、熱く口付けを繰り返す。

刹那離れるのも、惜しかった。
しかし無情にも時は過ぎ、また現実へと戻らねばならなくなる。
名残惜しむように唇を離すと、お綾は微笑みながら私の首元へ腕を絡めてきた。
「・・旦那様。私は貴方を、ずっとお慕い申しております。
 一夜の夢を・・・有難うございました。この事は、私と貴方の胸の中に・・。」

―願わくば・・・もっと早く君と出会えていれば・・・。

言葉にするには余りにも陳腐に思えて、思い留まる。
君がそう言うように、私もまた、胸に留め置く事にする。
そして・・・妻に対する裏切りとは解っていても、君を想わずには居られぬだろう。
これから・・・ずっと。
「・・・幸せに。」
今の気持ちを表す言葉が見つけられず、切に願う事だけ言葉に変える。
「旦那様も。」
泣き出しそうな顔で、はにかむ君が愛しくて。
最後にもう一度だけ、きつく抱きしめ唇に触れる。
君は一筋涙を流すと、するりと私の腕から逃れた。
「・・・これ以上は、いけません。離れたくなくなってしまいます。」
・・君の頬を濡らす涙を拭う事も、もう許されない。
「私も奥様を裏切る事は出来ません。ですから・・・ここで離れなくてはいけないと思います。」
君は背を向けたまま、ゆっくりと自分に言い聞かせるように言葉を放つ。
「・・・さようなら、旦那様。私は今、とても幸せです。」
「・・・私もだ。」
お綾は大きく頷くと、振り返らずに自室へと戻る。
私もお綾へ背を向け、自室へと戻る。

月の光を受けて美しく咲き誇る白い薔薇が、何時までも瞼に焼きついて離れなかった。



―願わくば、君と共に歩みたい。
 ・・・何時までも。


肉体が朽ちようとも、魂は再び別の肉体を得、新たな人生を歩む。
飽くることなく続く、輪廻転生。




「零一さん、お茶が入りましたよ。」
君がそっと読書に耽る私の横へ、邪魔にならぬようそっと、淹れたての香り高い紅茶を置く。
何故か、ふと君が消えてしまいそうな不安が過ぎった。
盆を胸元へ抱き、キッチンへ戻ろうとする君の腕を掴む。
「??・・・な、何するんですか、零一さん。」
驚いた様子の君を引き寄せ、腕に抱く。
「・・・何処へも、行かないでくれ。」
自分でも情けないほど弱々しい声で、君に囁く。
君は少し驚いた様子で、軽く私の顔を見上げると、クスリと笑った。
「・・何がおかしい。」
「私が何処へ行くっていうんですか?・・・零一さんの所以外、行くところなんて無いんですけど。」
勝ち誇ったような顔をした君が差し出した、左手。
その薬指には、昨日贈ったばかりの指輪が輝いていた。


      ―了―

戻る

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル