その夜のことは、一生忘れないんじゃないだろうか。
いつも通りリボーンに修行をつけてもらった後、2人で道場の屋根に上った。
帰ろうとしてふと見上げた夜空があまりにも綺麗だったから。
座った屋根の瓦は冷たかったが、汗を掻いた身としてはそれが気持ちよかった。

夜空に浮かぶ満月。その周囲に瞬く星々。眼下に広がる並盛の夜景。

喋るのが勿体無いと思うほど目を奪われた。
だからリボーンと2人、無言でその光景をそっと見ていた。
まるでこの世界には2人しかいないのではないかと錯覚するほど。
静かな世界だった。


『・・・・山本』

『ん?なんだ、小僧?』


呼ばれた声に振り向くと、リボーンの端整な顔が目の前にあった。
彼の漆黒の瞳は28歳に戻った姿でも健在で。
至近距離で見つめられ、山本は柄にもなく緊張してしまった。


『山本、俺を見ろ』

『はは、ちゃんと見てるぜ?っていうかこの距離じゃ小僧しか見えないのな』


星空も月も街並みも何もかも、リボーンの帽子の縁に阻まれて見えない。
顔を覗きこまれて唇だって触れてしまいそうな距離なのだから。
 

『・・・チッ、天然タラシめ』

 
少し目を見開いて言われた言葉が理解できず、首を傾げる。


『山本、俺はお前が欲しい・・・俺のモンになっちまえ』

 
チュッ、という音と共に本当に重ねられた唇。
触れた唇が少し冷たくて、それでも柔らかい感触に思考が止まる。
目を見開いたまま動けない山本の目に映ったのは、満足げに微笑んだ男の姿だった。

 

 

True Love 1

 

 

「山本、最近何かボーっとしてない?体調でも悪いの?」

 
今日獄寺はイタリアに用事があって戻っているらしく、綱吉と2人で屋上に行って弁当を食べていた。


「はは、練習でもホームラン打ちまくりで調子いいぜ!」

「そう?なんかいつもと違うっていうか・・・悩み事とか心配事あるなら話聞くから抱え込んじゃダメだよ?」
 

綱吉は屋上ダイブをしようとした自分を知っているから。
本気で心配してくれているのが分かる。
 

「ツナは優しいよなぁ」


自分のことのように心配してくれる心優しい、親友。
あの全てに絶望し命を投げ出そうとした後に出来た大切な人。
彼なら今の自分の悩みを解決してくれるかもしれない。


「なぁ、ツナ。ツナは笹川のどこが好きなんだ?」

「きょ、京子ちゃん!?どうしたのイキナリ!!」


綱吉は驚いて卵焼きを地面に落としてしまった。
それすら気にならないようでこちらを見たまま固まっている。
確かに自分達はずっと一緒にいる割に恋愛の話はあまりしない。
綱吉の真っ直ぐな気持ちは分かっているし、自分も獄寺も恋愛には縁がなかったから。
しかし、山本は今悩んでいた。



「んーとさ、実はオレ初恋もした事なくて。だから、人を好きになるってどんな感じなのか教えてほしいんだけど・・・」
 

今まで恋愛のことで悩んだことがなかった。
だから素直に相談してみたのだが、綱吉は眼を見開いて驚愕していた。

 
「や、山本はモテるから意外だよ!なんかビックリっ」


顔を少し赤くしてそう言う綱吉の言葉に苦笑する。
確かに野球をやっているせいか女子から好意を寄せられる事が多かった。
その気持ちは嬉しく、照れくさいものだったが野球が一番の山本の心を動かした者はいない。
それどころか自分から誰かを好きになった事もなかった。

 
「はは、恋愛に関してツナは先輩だなぁ」

「そんなっ!俺なんていつも見てるだけで、何もできないダメツナだよ」

「そうか?オレから見たら2人ってすごいお似合いだと思うけどな」
 

食べ終えた弁当を片付け、いつもの並盛牛乳を飲みながらそう言った。
今度こそ真っ赤になって慌てる綱吉の姿は微笑ましい。
普段からいかに彼が笹川京子を想い、大事にしているか知っているから。

 
「それでさ、好きなるってどんな感じなんだ?」

「うーん、俺もそんな考えてるわけじゃないんだ。ただ京子ちゃんの笑顔見たら嬉しくなるし、もっと笑ってほしいって思う」

 
そう話す綱吉の顔は綻んで優しい笑顔になっていた。


「京子ちゃんの事ですごく不安になる時もあるけど、傍にいたいって思うから何でも頑張れるんだ」


抽象的でゴメンと謝る彼に山本は心からお礼を言った。
幸せそうな顔で話す綱吉を見ているだけで、こちらも嬉しくなる。


「本当にツナは笹川が好きなんだなぁ。うん、なんか分かってきた気がする」


こんな話をしている最中でも、山本の頭に浮かぶのは黒衣のヒットマンだ。
赤ん坊の姿でも大人の姿でも山本にはカッコよくて、彼の傍は心地良いものだった。
初めて会ってから変わった赤ん坊だな、と面白く思っていたが。
未来に行ってその秘密を打ち明けてもらってから、山本の中で何かが変わった。
過酷な運命を背負ったことへの同情でも、姿を変化させることへの嫌悪でもない。


少しでも楽に笑ってほしかった。

少しでも力になりたいと思った。

少しでも・・・多くのものを背負う彼の傍にいたかった。

 

これは、この気持ちは恋なのだろうか?

 
「うぅ・・・、すごく恥ずかしいや。皆には絶対内緒にしてね?」

「おう、もちろん!サンキューな」

「でも急にどうしたの?あっ、好みの子に告白でもされた?」

「えぇぇ!?ツ、ツナは何でもお見通しなんだなぁ」

 
確か超直感だっただろうか。彼の中に流れるドン・ボンゴレの力。
こんなやり取りに慣れない山本は顔が熱くなる。
好みなんて分からない。そもそも男同士なのだ。
しかし、こんなにも悩んでしまう自分がいる。

 
「・・・・なんかテレてる山本って新鮮だなぁ。あはは、詳しく聞いたりしないよ」


優しい顔でそう言う綱吉は、まさにボスに相応しい包容力を持っていると思う。
敵わないなぁと笑うしかなかった。



「んーとさ、ついでにあと1つ聞きてぇんだけど」

「うん、何?」

「告白されてオッケーしたら付き合うんだよな?具体的に付き合うって何すんだ?」

「えっ、えっと、俺もそんな経験無いから難しいかも」

 
首を傾げる自分の様子に綱吉は真剣になって考えてくれた。


「やっぱりデートしたり、手を繋いだり、キ、キスしたり・・・とかかな?」


キスという単語に心臓が跳ねあがる。
顔には出ないようにしているが、思い出すのはあの夜のふいの口づけだ。
告白と共にされたキスは一瞬でよく分からなかったけれど、思い出すだけで恥ずかしい。
キスの後、リボーンは表情を変えず「返事は来月まで待ってやる」と横柄に言って帰途に就いた。
その夜からずっと山本は考えていたのだ。
赤ん坊の姿の彼を肩に乗せ、いつも通り過ごしているつもりでも緊張してしまっている。
ひとりで考えても経験のない山本には答えは出ず、約束の満月は1週間後に迫っていた。
こうしてツナに相談して光が射したように思えたが。
付き合う前からキスをされてしまい、付き合うという具体的なイメージができない。
赤ん坊のリボーンと2人で買い物に行ったこともあるし、手を握るどころか抱きしめたことだってあるのだ。

 
(うーん・・・分かんねぇ。それに、小僧ってビアンキ姉さんみたいに愛人って人いっぱいいるんだよな)

 
つい自分の思考に飲み込まれて昼休み終了のチャイムが聞こえなかった。


「や、山本!授業始まっちゃうよ!」

「おう、悪い!行こうぜ!!」
 

慌ててそう言うと急いで屋上を後にした。
その話はそこでお開きとなり、放課後になって母親の買い物に付き合うという綱吉は慌ただしく帰って行った。
そんな様子に笑いながら別れの挨拶をし、山本も荷物を担いで部活のため野球部の部室へと向かった。

 

 

リボーンに対して沸き起こる感情は綱吉が話してくれた気持ちに近いと思う。
何より、今まで出会ったどんな人物よりも心が揺さぶられる。
野球や剣術以外でこんなにも考え込んでしまうなんて。
だが何より気になるのは彼がどこまで本気かということ。
まだ子供で、男の自分は彼に相応しいのだろうか…。

 
グルグルと思考は回る。

 
あと少し。

あと少しでこの気持ちの答えが出そうな気がした


 
 

「痛てて、やっちまったな…」


放課後、部活で走塁をした際に靴紐を踏んで転んでしまった。
足首は何ともなかったが腕や顔に擦り傷ができて保健室に行く羽目になった。
山本は必要ないといったのだが、監督に言われては従うしかなかった。


(女しか見ないって言うオッサンに追い返されそうだな)

 

とりあえず消毒液と絆創膏だけ借りよう。
そう思って保健室にやってくると案の定シャマルは嫌そうな顔をした。


「なんだ、山本武じゃねぇか。俺は何度も言うが男は見ねぇぞ」
「あはは、知ってるのな。自分でするから消毒液貸してくれ」


慌てて隠したみたいだが、どうやらエロ本を読んでいたようだ。
机の引き出しに押し込まれた本が折れ曲がっていた。

 
(・・・・・・あっ、そうだ)

 
「なぁ、オッサン。教えてほしい事があるんだけどいいかな?」


丸椅子に座って自分で消毒をしていく。
見るとシャマルは嫌そうな顔をしていたが、暇つぶしに付き合ってくれるようだ。


「言っておくが、俺は恋愛相談しか受け付けねぇぞ」

「はは、ピッタリなのな。あのさ、もし好きなヤツができたらどうしたらいいんだ?」

 
返ってきた言葉にニコニコしながら質問すると、シャマルは大げさに溜め息をついた。

 
「? なんだよ?」

「山本、あんなに可愛い女子たちに騒がれてるクセに!なんだ、そのお子様な質問は!!」

 
情けねぇなぁと嘆かれて山本は憮然とする。

 
「なんだよ、オレ真剣に聞いてるんだぞ?」

「仕方ねぇな。俺のアドバイスとしてはまず、触ることだ!」

「ん?触る?」

「お前だってセックスぐらい分かるだろうが。体を繋げば相手の気持ちも全て分かるんだ。だからまずは触ってみろ」


真剣に言うシャマルの言葉を反芻し、顔が熱くなった。


「うっ・・・そりゃ、理屈は分かるけどよ」


相手は女じゃない。あのリボーンなのだ。


(そう言えば男同士だと、どうするんだ?小僧は知ってるのかな?)

 
誰よりも長い時間を生きて思慮深い彼なら何でも知っていそうな気がする。
もし、彼に求められたら何かが分かるのだろうか。
 

「ったく、本当にガキだな。心も体も欲しくなるのが愛ってもんだ。一つになってこそ判る事もある」

 
よく女性に声をかけているシャマルを見ているが、軽薄そうな姿とは違って真剣に考えているようだ。
獄寺がこの場にいたなら「女たらしなだけじゃねえか」と馬鹿にするだろうが・・・。
山本は素直に感心してしまった。

 

「そっか、全然思いつかなかったのなぁ。オッサン、ありがと」

「まぁ、また何かあったらいつでも来い。そんな話ならいくらでもしてやる。隼人は全くノッて来ないからつまんねぇんだ」
 

確かに獄寺は興味がなさそうな話題だ。
彼の世界は綱吉のことばかり。
野球しかなかった自分と似ているが、今の山本には心を乱す存在ができた。


「はは、サンキューな」


何だかんだ絆創膏を貼ってくれたり、相談に乗ってくれたり、優しい人なんだろう。
獄寺が師匠と認めて懐いている理由が分かった気がした。
本人に言ったら否定されそうではあるが。
挨拶をして保健室を後にすると今日の部活は終了していた。
待っていてくれた仲間にお礼を言って、急いで着替えると学校を後にした。

 
綱吉やシャマルにもらったアドバイス。
山本は一つの決心をして、1週間後の満月の日を待ったのだった。


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2008/12/16

改 2009/09/12

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