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堪らなく欲しくなってしまった。
堅気として何不自由なく生きてきた山本をマフィアの世界に巻き込んで。
その手に刀を握らせ、命がけの勝負の中に放り込んだ。
綱吉のため、ボンゴレのためと言いながら、本当は自分の傍に置いておきたかっただけかもしれない。
赤ん坊にそぐわない言動と実力。アルコバレーノの呪い。
自分ですら化け物だと認識しているのに、山本は実に容易く、寛容にリボーンを受け入れた。
それはあまりにも衝撃的で、あまりにも優しい世界だった。
赤ん坊でも本来の姿でも自然体で接してくれる。
その頬笑みにどれだけ病んだ心を癒され、救われてきたか、言い表せない。
手放したくなかった。誰のモノにもなってほしくなかった。
満月に本来の姿で会いに行き、受け入れられてから。
大人の姿の腕にはすっぽり収まる体や無防備に魅せられる笑顔。
今まで我慢していた距離がもどかしくて、気が狂いそうだった。
ついに、ある満月の夜。
道場の屋根の上に座って夜景を見ていた時に、理性が抑えられず唇を奪ってしまった。
いくら天然で鈍感な山本でも、あれは意識せずにはいられなくなるだろう。
山本の思考はリボーンですら読めない。どんな答えが返ってくるか分からないが。
「・・・・・放さねぇぞ、山本」
次回の満月の夜を思い、リボーンはいつも通りその日が来るのを待った。
True Love 2
雪がひらりひらりと舞い落ちている。
「よう、小僧。早かったのな」
道場の前で山本は傘をさして立っていた。
私服に着替え、マフラーに手袋という防寒した姿。
並盛は昨夜から降り続いた雪が積もり、どうやら野球の朝練も夕練も無くなったらしい。
軽く自主練をしたという山本の傍に寄ってその頬に触れた。
「うわっ、小僧の手冷てぇな。風邪引いちまうぞ?」
リボーンはいつもの黒いスーツにロングコートを着こなしていたが、大人のサイズの手袋やマフラーは持っていない。
それでもあまり寒いという感覚はないが、山本の心配げな顔に苦笑する。
どこまでも赤ん坊扱いが抜けないようだ。
「山本はあったけぇな」
赤ん坊ならすぐにでも肩に乗って彼を近くに感じるのだが、今は傘に邪魔をされてこれ以上近づく事が出来なかった。
「じゃあ、こうしようぜ?」
山本は右手の手袋をはずし、リボーンの左手を握るとそのまま山本が着ているダッフルコートのポケットへ。
その中にカイロを入れていたようでとても暖かかった。しかし、これはあまりにも。
「・・・・無防備すぎだぞ、山本」
こうして手を握ったのも初めてだというのに。
彼はただ防寒の一環として温もりを分けてくれたのだろうか?
そもそも普段通り過ぎる様子から、前回の告白を覚えているかも怪しい。
「んー?だって小僧は小僧じゃん」
警戒する気は見受けられず、リボーンは心の中で溜息を吐いた。
「お前、前の満月の夜に俺が言ったこと覚えてるのか?」
ここまで無邪気にされてはいくらなんでも不安になるというものだ。
そんな気持ちを込めて山本の顔を覗き込んだ。
「えっ!そ、りゃあ・・・忘れられるわけない、のな」
先程の態度から一変、耳まで赤くなった山本の反応に気を良くする。
「ふん、じゃあ返事できるだろ?言ってくれねぇのか?」
ポケットの中で繋がった手。山本の掌が少し震えた事を見逃さなかった。
とても緊張している様子が伝わり、リボーンは目を細めて山本の顔を眺めた。
「う、ぇーっと・・・返事する前に、小僧にお願いがあるんだ」
「? 言ってみろ」
まだ18時を過ぎたくらいだが、雪が降りしきる夜は静かだ。
道場からの明りのみで薄暗い外でもリボーンは山本の表情を逃さない。
「小僧っ・・オレを、っ抱いてほしいんだっ」
「!?」
天然、天然と思っていたがこの場面でこの科白。
リボーンは滅多に崩さない表情を固まらせた。
「オレ、すげぇ自分の気持ち考えたけどやっぱりよく分かんねぇ・・・でも、小僧の気持ちに応えたいって思ったんだ」
マフラーに顔を埋めるように顔を下げ、山本が早口に言葉を紡んでいく。
「オレ、男だし中学生だし小僧に相応しいか分かんねぇけど!ビアンキ姉さん達みたいにできるか分かんねぇけどっ・・・」
山本の身体は震えている。それは寒さか、緊張か、不安か。
何にしても、愛しさが積もるばかりだ。
「小僧の気持ちも、自分の気持ちもハッキリさせたいんだ。だからっ、小僧がいいなら、抱いてくれ・・・っ」
それを最後まで聞かぬうちに繋がった手を引っ張って。
互いの傘を放り出し、自分より幾分小さい少年の体を抱きしめた。
「可愛すぎだ、山本」
何度、この少年をグチャグチャにしてやろうと思っただろう。
自分の腕に抱き、限界まで追いつめて啼かせてやろうと考えただろう。
こうして自分を求めてくれた山本の覚悟を受け止めたい。
夜は始まったばかりだった。
今夜は山本の気持ちを聞きに来たはずだった。
しかし、返事を貰う前に山本の願いを聞き入れたから。
2人はタクシーに乗って並盛から少し離れた高級ホテルにやって来た。
雪のために満室かと思いきや高級で名高いこのホテルは比較的に空いており、
リボーンは迷うことなくスイートルームを手配させた。
「うわぁぁぁ、すげぇ景色!綺麗だなー」
最上階のスイートルームからは雪に覆われた夜景が見下ろせる。
部屋に入るなりカーテンを引いて外を見る山本の横顔。
健康的なその表情すら自分を惹きつけて止まない。
欲しくて、欲しくて。
「山本、先に飯を食うか風呂に入ってベッドか、どちらがいい?」
背後から抱き締めて、赤くなった少年の耳元で囁いた。
「っ、もうっ、小僧って実はめちゃくちゃエロいのなっ」
どうやら耳は弱いらしい。
反応の仕方は中学生というガキらしさなのに。
照れながら困惑する姿は普段の山本から想像できないほど色っぽい。
「言っただろう?お前が欲しいからだ。心も、体も、全部な」
項垂れた顔を上げるために、顎を掴んで視線を無理やり合わせた。
羞恥からかその瞳はすでに濡れて何度も瞬きを繰り返している。
「・・・知ってる。風呂、入ってくるから」
全身から色気を発する山本に顔が緩んでしまう。
そんな表情すら目に入らないのか、山本が素早く拘束を解いて風呂に向かった。
「あぁ、待ってるさ。いくらでも・・・待ってるぞ」
出会ってすぐに気に入った。
だが、山本自身がこんなに気を許してくれるとは想像もしていなかった。
たとえ何年、何十年でも見守り続ける覚悟を決めていた。
そんな彼が手に入る一歩手前なのだ。
彼が風呂に入っている時間を待てないはずはない。
呪われている上に世界最強のヒットマンであるリボーンの手を握らせてしまった。
闇は山本を侵食していくだろう。
そうなる前に、自分は手を離せるだろうか?
光の世界に返してやる覚悟を決めねばならない日がやってくるのだろうか?
「チッ、ダセぇな」
こんなにも鼓動が高鳴り、微かに指が震えている。
不安か、期待か、判断できない。
それよりも自分にこんな人間らしい感情が残っていたなんて驚きだ。
こんな姿は誰にも見せられないな、とリボーンは自嘲した。
風呂場からはシャワーの音が響いている。
いくら山本が考えて出した結論といえ、こんなにも早く彼を抱く機会が来るとは思ってもいなかった。
山本はどれだけ考え、悩んで決断したのだろう?
無理をさせてしまうだろう。怖がらせてしまうかもしれない。
だが、何よりもお前が大切だと伝えよう。
何よりもお前を愛していると、囁こう。
それが我が儘で強欲な自分にできる精いっぱいの誠意。
「小僧、お先に。お前も入ってこいよ」
山本がバスローブに身を包んでやって来た。
浴衣の方が似合うだろうな、と思いながらも純白のバスローブ姿も悪くない。
「あぁ、牛乳をルームサービスで頼んだからもうすぐ持ってくるだろ。大人しく待っておけ」
「ん、サンキュな」
まるでホームランを打った時のような満面の笑み。
山本にはスイッチがあるらしく、恥ずかしい時と普通の時との落差が激しい。
それを知っているのは自分だけだ、と優越感を感じることすら新鮮だ。
(この俺が、本気でハマっちまってるな)
悔しいことにそれが事実。
「山本」
「んー?なんだ?」
振り向いた姿に、とびっきりの笑みと甘い声で囁いた。
「たっぷり愛してやるからな、覚悟しておけ」
大人の余裕というやつで、少しは翻弄させてくれ。
先に惚れた者が負けだというなら勝負にすらならないから。
スイッチが入って全身茹でダコのように赤く染めた山本。
その姿に満足し、リボーンは風呂に向かった。
数刻後、ルームサービスで届いた牛乳を飲み干したらしい山本の顔はいまだに真っ赤で。
恥じらうそんな姿に我慢できず、リボーンはキングサイズのベッドの上に山本を押し倒す。
大きな抵抗もないまま、何度も何度も唇にキスをした。
誰も好きになったことがないという山本の初めてを、全て自分がモノにできるということが嬉しい。
舌と舌を絡ませる深いキスを繰り返しながら、リボーンは山本の体に溺れていった。
夜は更けていく。
やがて明日はやってくる。
その未来はきっと、2人の愛で繋がっている。
リボーンは山本が差し出す全てのモノを手に入れた。
その後へ
2008/12/17
改 2009/09/12
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