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「山本、起きられそうか?」
沈んでいた意識がふっと戻る。
気付くと山本は真っ白い布団の中にいた。
ベッドはふかふか。布団の温度も心地いい。
このまま眠ってしまいたいが、聞こえた声を無視できなくて目を開ける。
すると、ズボンにシャツだけというラフな格好をしたリボーンが覗き込んでいた。
ようやく見慣れてきた大人の姿。
端整な顔立ちも飲み込まれそうな瞳も、少し左右に引き上げられた唇も。
優しく抱き締めてくれる腕も、温もりを教えてくれる胸の中も、綺麗な指も。
(・・・・・はは、好きだなぁ)
彼を形成する全てのモノがこんなにも愛しく思える。
シャマルが言った通りだ。
心も体も1つになって、気付けたことがある。
真っ直ぐな背中も、包み込んでくれる優しさも。
冷静でありながら時に激しく求めてくる姿も、淋しげに時に孤独であろうとする生き方も。
彼が彼であること。
すべてが。
「 好き 」
無意識に紡いだ言葉は音となって響いた。
これは山本が初めて知った、人を愛しいと思う気持ち。
「・・・お前は・・・本当に天然だな」
そう言う最強のヒットマンの顔は少し赤く染まっていて。
山本はその時初めて、照れて動揺するというリボーンの姿を見たのだった。
True Love 〜その後〜
生まれてすぐに母親が亡くなり、父親と2人の生活が当たり前だった。
いつも笑顔で仕事に励む父の力になりたくてできることは何でもした。
保育園、小学校と学年が上がるたびに家事を手伝い、負担にならないように頑張った。
野球と家族が世界の中心だった。
小さな頃からバレンタインデーは近所のおばさんや店の常連の人たちにチョコを貰う日。
[『いい子ね』と褒められることが嬉しくて。
学年が上がればクラスの女の子達から貰うようになった。
『野球頑張ってね』という応援が有り難くて。
人から向けられる好意は山本にとって当たり前になった。
中学生になってから告白を受けるようになったが、興味がわかなくていつも断るようにしていた。
『好きです』と言われる言葉は胸に響かない。
『付き合って下さい』と言われるたびに何を求められているのか分からない。
夫婦という姿を見ていない山本にとって恋や結婚は漫画やテレビの世界のような。
自分にいつかこんな感情が芽生え、子供ができるのか想像できなくて。
バーチャル世界のような感覚しか持っていなかった。
それが綱吉と一緒にいるようになり、家族や仲間の温かさを知った。
沢田家はいつも賑やかで面白くて、笑顔ばかり。
山本が知らなかった温もりがそこにはあった。
そして、いつも側に来てくれた赤ん坊が何よりも温かかった。
言うこと為すこと面白くて、なぜかその言動はいつも的を射ていた。
悠然とした態度は風格があり、そんな彼に認めてもらえると嬉しくて。
気付けば野球と同じように、剣術にも夢中になった。
綱吉達の力になりたいと心から思った。
黒衣のヒットマンにいつも見守られながら。
それから想像を絶する最悪の未来を見て、誰もが戦いに明け暮れた。
リボーンによって行われた修行は過酷だったが、成長していく自分を実感するたびに面白かった。
そして教えてもらったアルコバレーノの呪いと彼の過去。
山本にとってリボーンは気になる特別な存在になった。
本来の姿でも変わることのない孤高の魂に惹かれた。
そして。
「・・・・小僧、オレ分かったから。いっぱい悩んだけど、ちゃんと小僧が好きだ」
身体を繋げるという行為は、山本の予想を超えていることばかりだった。
野球で発散していたから自慰すらあまりしたことがなくて。
他人に体を好きに触られたり、舐められたり、侵入されたり。
最後は羞恥と痛みで意識が朦朧としていて覚えていない。
行為後、気を失った自分を風呂に入れてベッドに寝かせてくれたのだろう。
さっぱりした体は慣れない行為に悲鳴をあげるが、抱きしめてくれる腕がこんなにも気持ちいいから。
(ツナの言った通りだ。小僧と一緒にいるだけですごく・・・安心する)
これが綱吉のいう幸せという感覚なのだろう。
好きという気持ちを教えてくれた親友に感謝の念を送った。
「山本、これでお前は俺のモンだからな」
ギュッと抱きしめられて優しくキスをされた。
鼓動が速くて苦しいのに、胸が高鳴って仕方無い。
そんなことの全てが嬉しい。
こんなにも心が落ち着く、穏やかな世界があったなんて。
この腕の中では安心して素の自分でいられる。
求めてもらえるなら、いくらでも傍にいよう。
まだ恋愛初心者の自分だが、彼が望んでくれるのならば。
「オレ、今日はうまくできた?小僧は気持ちよかったのか?」
「・・・・・あぁ、もちろんだ」
「へへ、よかったー。じゃあオレもビアンキ姉さんみたいにちゃんとした愛人になれるのか?」
「当たり前だ。お前を一番愛してるのは俺だぞ。お前は俺だけを見ていればいい」
「おう、分かった。これからよろしくな、小僧」
少し伸びあがって自分からリボーンの唇にキスを試みる。
しかし、少し動かれたため山本の唇はリボーンの顎に落ちてしまった。
「ったくー、急に動くからズレただろっ」
「可愛いことするじゃねぇか。だが、俺を出し抜こうなんて百万年早いぞ」
ニヤリと笑う顔は意地悪なのに、カッコいいから困る。
赤くなった顔を自覚し、彼の視線から逃げようとしたが。
それより早く顎を取られて動けないように固定されてしまった。
「これからもお前を抱くのは俺だけだ。ずっと俺に愛されていろ、山本」
真摯な目を向けられただけで顔が赤くなるのが分かった。
心臓がいくつあっても足りないと思う。
好きだと自覚すると、こうも感情がコントロールできないものなのだろうか。
「ほんっと、小僧には敵わねぇな」
軋む身体を気にせずに思いきり抱きついた。
今日はいつものコーヒーではなく、山本と同じボディーソープの香りがする。
それだけでも恥ずかしくて死にそうだ。
ふとリボーンの顔を見ると全く表情を変えず、余裕の笑みすら浮かべている。
経験の差というやつだろうか。
「もう22時か。遅くなったが、晩飯にルームサービスでも頼むか」
そう言われて、牛乳を頼んでもらってから何も口にしていないことに気づいた。
身体に疲労が溜まってすぐには動けそうにないが、腹は空腹を訴えている。
リボーンはそんな山本の様子に笑いながら備え付けの電話で頼んでくれた。
山本が着せられたバスローブから私服に着替え、ベッドに横たわっていると部屋のチャイムが鳴った。
客室係の者が机の上に料理を次々と運んだ。
どうやらイタリアンのコースを頼んでくれたらしく、山本が見ても豪華な食事だった。
2人きりになるとリボーンがワインを開け、山本にはオレンジジュースが用意された。
「「乾杯」」
そう言ってグラスを合わせる。
外は雪。目の前には優しく微笑む黒衣の男。
(なんかオレには不釣り合いな環境だよなぁ)
野球しか能がなかったただの中学生の自分。
あまりにも贅沢な環境に苦笑する。
「ん?どうかしたのか、山本?」
「はは、なんか自分がこんなことになるなんてつい最近まで考えられなかったからさ」
「そりゃあそうだろうな。逃げたいのか?」
逃がす気なんてないくせに。
傍若無人の瞳が山本を捕えて離さない。
「はは、逃げねぇよ」
逃げなかったのは自分。
あえて捕まって見せたのは山本自身なのだから。
「さすが山本。俺が選んだだけあるな」
リボーンは満足そうな顔でワイングラスを傾けた。
きっと一生彼には勝てないと思う。
誰かを好きになったことも初めての自分はまだまだ未熟だ。
だから、ゆっくりでも彼の隣が相応しい男になるために。
努力しようと思う。
「オレ、小僧の事もっと色々知りたい。好きなもんとか嫌いな食べ物とか、お気に入りの場所とかさ」
教えてほしい。
これからも傍にいるために。
時間はたっぷりあるのだから。
「山本らしいな。お前の事も、教えろよ」
「はは、もちろん!」
夜は更けていく。
明日の朝になれば見慣れた赤ん坊の姿に戻るだろうが。
山本にとってリボーンはリボーンのままなのだ。
自分の事を愛してくれる、人。
山本にとって大切で、愛しい人間。
これは一つの愛の形。
性別も年齢も呪いさえも乗り越えて。
2人はこうして。
魂さえも溶け合うような愛を交わしたのだった。
Fin
2008/12/22
改 2009/09/12
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