ここ3日ほど仕事に追われて碌に眠れなかった。
久しぶりに家に帰って来て、無人のベッドに倒れ込む。
疲労が溜まった体はすぐに睡魔に襲われた。

 
ふいに意識を取り戻す。
目を開くと見慣れた黒衣の青年が山本の服を脱がしていた。
それを見て帰って来たのだと改めて思い、嬉しくなる。


「山本」


求められるまま唇を差し出すと、長くて熱い舌が侵入してきた。
久しぶりの感覚に山本も体温を上げながら応える。
それに気を良くしたのか、リボーンの手が山本の身体を弄った。

 
本当はまだ睡眠が足りなくて。

身体は限界を訴えているがそれを無視する。

 

今は、自分を抱く男の腕に溺れていった。

 

 

 

愛の刻印

 

 

 

 

「リボーン、背中のそれ痛くないのか?」

  

数時間にも及ぶ行為の後。
ベッドに沈んでぼんやりしながら、リボーンの背中を見てそう言った。
彼は満足した顔でベッドサイドに腰かけ、ワインを飲んでいる。
ズボンだけを穿いた姿で上半身は何も身につけていない。
真っ直ぐ伸びた白い背中には血が滲んだ爪の痕が無数に散らばっていた。

 
「あぁ、これか。昨日任務で抱いた女か、昨夜泊まった愛人の奴だな」

 
特に気にした様子もなく、淡々と話すリボーン。
無頓着なところは相変わらずだ。

 
「血が出てるぜ?痛そうだなぁ」

 
山本には女に爪を立てられた経験が特にない。
ただ一般的に小さな傷は時に治りにくく、厄介だと知っているので眉を顰めた。



「別に痛くはねぇが・・・なんだ、気になるのか?」

 
逆に質問されて愛想笑いを浮かべた。
初めて見たわけではないが、ふいに気になっただけ。
今までは特に何とも思わなかったのだけれど。


山本はこっそりと自分の両手の爪を眺めた。
ごつごつした指の先に、綺麗に切りそろえられた爪があった。
山本は小さな頃から野球をしてきたので爪を伸ばす習慣がなかった。
家が寿司屋で衛生的に厳しくされたというものある。
こうしてマフィアとなってイタリアに来てからも、習慣で少しでも伸びれば切っていた。
だから山本の爪がリボーンの背中を傷つけたことはない。

 

「山本」

 
名前を呼ばれてリボーンを見ると、先程まで自分を抱いていたと思えないほど無表情の彼がいた。

 


「お前も付けたいのか?それとも・・・付けられてぇのか?」

 

無表情から一転、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた男の顔があった。
リボーンはワイングラスを置いて、山本の隣に寝転んだ。

ギシリと軋むベッド。
笑んだままリボーンは背後から山本の腰に手を回し、抱きしめてきた。
睡魔と疲労で思うように身体が動かない。
それでもいまだ興奮したままの脳では大人しく眠りにつくことが出来なくて。

 

「俺はお前の綺麗な背中、好きだぞ」

 
項から背骨のラインにリボーンの唇が落ちた。
チュッと音を立て、時には舌で舐め上げられる。

 
「んっ・・ぅ・・・くすぐったいって」

「相変わらずイイ声だな。お前が女を抱きたいと言うなら俺が紹介してやるぞ?」

 

クスクスと喉の奥で笑う声。
背後にいるため、山本から彼の顔は見えない。

 

「んぁ・・ちょ・・っ・・・アっ」

 

腰に回っていたリボーンの手が山本の骨盤を掴んだ。
骨盤から足の付け根にかけて皮膚が薄くなった部分は山本の性感帯の一つだ。
優しくそっと触れられると快感が身体を駆け抜け、息が上がっていく。

無意識に揺れる腰。
甘い快楽に潤んでいく瞳。
先程まで十分貪り合った筈なのに、また欲しいと熱を帯びる体が恥ずかしい。
しかし、それを全て教え込んだのはこの男なのだ。
子供だった自分に愛を囁き、快楽を教えた、世界最強のヒットマン。



「あっ・・・んぁっ・・・・ハハ」

 

知らず知らず笑みが零れた。

 

「ん?何を笑ってやがる」
 

こうして身体を繋げ続けて10年。
今も山本の魂を惹きつけて止まない、孤高の死神。



「はは、よく言うぜ。もしオレが女を抱いたら、お前がソイツを殺しちまうくせに」


そう笑うと弄んでいたリボーンの手が止まった。
その間に上がった息を整える。

14歳の時にリボーンを受け入れた山本。
それから彼女を作る気もなかったため、女性と恋人になった経験はない。
しかし、18歳でマフィアになってから仕事上で女を抱く機会が何度もあった。
それは情報屋であったり、ターゲットの愛人の女だったり。
たった一夜の逢瀬。


女性を抱くという手段は山本の判断や綱吉ら上の判断だった。



命に関わる案件が多いのだ。綺麗事を言っていられない世界。
全員納得しているわけではないが、受け入れてしまっていた。
山本も初めは戸惑ったが、愛の伴わない単純な作業にすぐに慣れた。
割り切った中で女性には極力負担にならないよう優しくした。
様々なタイプの女性がいたが、強く生きる彼女達が嫌いでなかった。
見返りに貰った情報のお陰で仕事も順調に片付けた。

何も問題は起きなかった。

 

しかし。

 

いつの日からか綱吉からそういった仕事が山本に回ってこなくなった。
心待ちにした事は一度もない。
だが、綱吉の態度がどこかおかしいことに気づいた。
聡明な親友に原因を聞くと、溜め息を吐きながら真相を教えてくれた。


『山本に紹介した情報屋の女たち、全員死んだよ。眉間に拳銃の弾打ち込まれて』

 

一瞬、情報を漏らした報復かと思いきや違った。
調べると山本が体の関係を持った女性、全てがこの世から消えていた。
しかも任務先で起こった不測の事態で急遽山本が関係を持った女まで。
そのことは後から報告書を読んだ綱吉しか知らないはずなのに、その女も消されていた。

拳銃を操り、死へと誘った犯人。

綱吉にも山本にもすぐに分かった。
そして、犯人は隠すことも悪びれることもなく、その事実を認めるだろう。
だからこそ綱吉達は彼を問い詰めることをしなかった。
彼の傲慢さを全員が理解している。
山本自身も彼女らに対する追悼の思いはあったものの、仕方ないと受け入れてしまった。

こんなに歪んだ愛情を喜んで受け入れるのは自分ぐらいだろう。

山本に出来ることはただ一つ。

 


「殺されるって分かってる女なんて抱けねぇさ」

 
被害を増やさないこと。
それが分かっているからこそ、綱吉もそう言った仕事を自分に回さなくなったのだろう。


それに。
くるりと身体を回転させて目の前の広い胸板に抱きつく。
裸の背中に腕を伸ばすと、リボーンの漆黒の瞳が山本を見ていた。

 

 
「オレは身体の奥でお前を感じることを覚えちまったから」

 


山本は瞳を逸らさず、唇の端を持ち上げて勝気な笑みを浮かべた。

 

「そんなオレが今更、女で満足できると思うのか?」

 
自分に向けられる真っ黒な独占欲。
何ものにも執着しない彼が見せる山本への固執。
それが何より特別扱いのようで、心地いい。

 
心だけじゃない。

身体だけじゃない。


魂もすべて手に入れて、共有し愛すること。
 

その素晴らしさを教え込まれた。

幸福な居場所を覚えこまされた。

 
離れられるわけがない。

 

「ハッ、相変わらず俺を誘うのが上手いな。この天然魔性め」


呆れたような声と共にリボーンの口付けが降ってくる。
細められた目はとても満足そうだ。

 

「じゃあ今から死ぬほど愛してやるからな」


どうやら彼の中の雄を目覚めさせたらしい。
また睡眠不足が悪化する。
さっきだって何回抱かれたか分からないのに。

山本が中高生だった頃、リボーンと満月の夜を過ごしていた。
それでも食事や買い物が主で、夜が深まってからホテルに泊まった。
ベッドで身体を繋げても一度のみで何回も行為を求められたことがなかった。
今思えば、野球をやっていたことやまだ学生だったことで彼に我慢をさせていたようだ。
マフィアとなって一緒に住むようになってから、今までのものを取り返すかのように。
一晩で何度も何度も抱かれるようになった。
そんな貪欲な彼を見て、可愛いとさえ思ってしまった。

 


「ハハ、お前をいっぱい感じさせてくれ」

 

愛を隠さないリボーン。
それでも、本心は滅多に話してくれない。
だから山本は無理に暴かず、体で感じたいのだ。


綺麗なだけの感情なんていらない。


暴れだしそうな独占欲も。

骨の髄まで感じたくなる愛憎も。

死が別つ不安さえも。

  

すべて感じさせてほしい。



こんな感情を教えたのも。

身体の奥で男を感じる体にしたのも。

全部リボーンなのだから。

 

ふとリボーンの背中に刻まれた爪の痕を思い出す。
きっとそれらはいつか癒され、消えてしまう傷。
しかし、山本にはそれに匹敵しない刻印が刻まれている。
 

身の内に刻み込まれた『愛』。


決して妊娠することなどない山本の身体。 
しかし、リボーンの雄を銜え込み、耳から愛を吹き込まれる。

 

それだけで山本の魂につけられる、それはまさに愛の刻印。

 

ドロドロになるまで、愛し、愛され。 

2人は今日も、明日も、明後日も。


このろくでもない世界で、愛を分かち合うのだった。

 

Fin.

2008/12/22

改 2009/09/12

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