なぜ名前を呼んでくれないのだろう、と頭の片隅で考えていた。
男との性行為は初めてのようで、嫌悪されているのかと思いきや。
山本の揺れる瞳や声音から心底嫌がっているようには思えなくて。
リボーンはやや強引に事を進めた。
身体を繋げる行為も、ボンゴレへの加入も。
利己的で、自分勝手だという認識はあるが改める気は一切ない。

だから、名前を呼んでくれたことも。
ボンゴレに入ると言ってくれたことも。
おやすみ、と言うほど気を許してくれたことも。
独りは嫌だ、と祈るような思いを零してくれたことも。 



すべて、すべて愛しかった。


嫌と言われようとも傍におく。

もう、放さない。 

山本が目を覚ましたら、ゆっくり話をしよう。


これからの、明日への、未来について。

2人の話をしよう。

 

 

スナイパー 4



 

「・・・ん?」

「目が覚めたか、山本」


ベッドに沈み、泥のように眠っていた山本が起きた気配を感じてリボーンは声をかけた。
時刻はすでに夕刻。山本は昨夜から半日以上眠り続けていたことになる。
無理をさせた自覚もあるのでリボーンは起こすことなく、仕事から帰った後も愛銃の手入れをしながら見守っていた。

 
「のど、渇いた」


昨夜声を出しすぎたせいか掠れたその声音にまた欲情しそうになったが、それを打ち消すようにキッチンに向かった。
ミネラルウォーターのペットボトルを持って寝室に戻ると、山本は起き上がれないのか寝たままで。
身体が重そうな姿を見てリボーンは自分の口に水を含むと、山本に口移しでそれを流し込んだ。

空調の音しかしないその部屋に、ゴクッと山本の喉が鳴る音が響く。
水がなくなっても口を放すことなくリボーンは舌を絡めて自由に咥内を蹂躙した。

 
「んっ・・・んん・・・!」

 
息継ぎができない山本から力の籠らない抵抗を受け、ゆっくりとリボーンは唇を放した。


「まだいるか?」


そう言うと山本は顔を真っ赤にさせて首を振る。
すると、なぜか布団の奥に潜り込んでしまった。

 
「おい、山本。どうかしたのか?」

 
どうやら照れているらしい。困惑していると言ったほうがいいか?
布団をギュッと握る手まで真っ赤だ。
ちなみに固定していた手錠は、行為後に寝てしまった山本を風呂に入れるため外した。
手首にはその痕がくっきりと残っている。
また、山本の全身にもリボーンが残したキスマークが散らばっている。

本人は気付いていないが。



「山本、腹減っただろう?食べられるか?」
 

リボーンは己のスタイルを崩さず、山本に話しかけた。
すると山本が食欲には負けたようで布団から顔を出すとゆっくりと頷いた。



「あとで腰はマッサージしてやる。先に飯作って持ってくるからとりあえず起き上がっておけ」
 

そう言って食事の準備をするため、リボーンは台所に行った。


 

「できたぞ、山本」

 
リボーンが用意したのは日本の玉子粥だった。
まだ夕飯には少し早く、温まれて消化にいいものと言えばこれだろう。
数年日本に居ただけだが、その文化は大変好みであった。
バスローブに身を包んだ山本はベッドの上で上半身を起して待っていた。
 

「・・・お粥?」

「俺は数年日本に住んでいた。今のドン・ボンゴレも日本人だから日本の米も調味料も簡単に揃う」


イタリアはアメリカなどの大都市に比べて日本食の店も、材料を売っている店も少ない。
だが、ボンゴレの幹部は日本人が多いことなど日本食を恋しがる者が多いので取り寄せているのだ。
リボーンはイタリア人だが、日本食も好物なので醤油など調味料を家に置いていて助かった。


「はは、すっげぇ嬉しい。オレ、日本食久しぶりだ」 

にっこりと満面の笑みで言われ、リボーンは予想通りの反応にニヤリと笑った。

 
(予想以上に可愛いヤツだ)


どうやら口に合ったらしく、豪快に玉子粥を食べた山本はあっという間に平らげた。


「すっげぇうまかった。ご馳走様でした!」
 

両手を合わせて、小さく頭を下げた山本の首筋にまたもや欲情してしまう。
すぐにでも押し倒してしまいたいが、今は会話が先だ。

 
「山本、横になれ。マッサージしてやる」


慣れない行為を強いてしまったお詫びに、リボーンがベッドを指さすと頬を少し赤らめたまま大人しく横になった。

 
「あの・・・」

「ん?なんだ?」

「えっと、昨日こと、夢じゃ、ないよな」

「・・・当たり前だ。じゃなきゃマッサージなんてしねぇぞ、俺は」

 
まあ、山本が言いたいことも分かる。
暗殺しに行ったら失敗し、目が覚めたら拷問のため強姦されたのだから。
だが、どこかお互いに求め、求められたように感じたはずだ。
そうでなければ目が覚めてからこんなに和やかに話など出来ないだろう。

 
「言っただろう、お前はもう俺のモンだ。そして、ボンゴレの人間だ」


そうだ、この話をしなければならない。


「山本、お前に暗殺を依頼したファミリーは、今朝俺が全滅させてきた。
 お前は元々ボンゴレの殺し屋で、奴らを罠にかけるため身分を隠してわざと依頼を受けたことにする」

 

バスローブの上から山本の腰を押しつつ、リボーンはそう告げた。

 
「すでに10代目ボンゴレボスには了解済みだ。お前は俺の部下として配属される。明日顔合わせさせるからな」

 
そう告げると、それまで大人しく身を任せていた山本が驚いたように振り向いた。


「ハハ、すげぇ手回しだな。なんか実感ないけど、オレはどうしたらいいんだ?」

「俺は仕事が早ぇんだ。とりあえず明日一緒に本部へ行くぞ」

「なんかカッコいいのなー。了解、これからゆっくり教えてくれ」


昨日戦っていた時に見せたような、無邪気な笑み。
山本はどこまで寛容なのだ、とこちらが少々不安になるほどだ。


「山本、お前は今どこに住んでいる?」

「えっと、それがイタリア語よく分からねぇから安いホテルとか公園とかで寝てたんだ」


返ってきた言葉に思わず溜め息を零す。
確かに山本は強いが、ここは安全が保障された日本ではない。
もっと警戒心というものを持たせなければ命などいくつあっても足りないだろう。

 

「お前は今日からここに住め。これからは俺の部屋がお前の家だ」


マッサージの手を止め、ベッドに寝転ぶ山本の隣へ同じように体を横たえた。
至近距離で見ると山本は凛とした顔立ちを少し歪め、頬を染めてこちらを見ている。


「確認してぇんだけどさ、それはお前の部下としてか?それとも・・・」

「フッ、そりゃあもちろん俺の愛人としてだ」

「んー、でも俺は男だぜ?それに噂で愛人いっぱいいるって聞いたけど」


頬を染めて困ったように眉を下げる山本。
なぜ大の男がこんなにも色気があるのだろう。
今までよく誰にも襲われずに済んだものだと変なところで感心した。

 

「そんな事は昨日確認済みだ。お前は黙って俺の隣にいればいい」


お前は9人目の愛人だが男はお前だけだぞ、と告げる。
右手を伸ばして山本の髪に触れ、そのまま輪郭に沿って手を滑らせて頬を撫でた。

 


「・・・なんか昨日からすげぇ照れることばっかりだ。お前のせいだぜ、リボーン」


 擽ったそうにしながら、山本は少し睨んでいたが恥ずかしそうなので全く効果はない。
リボーンにとって彼の声で紡がれる自分の名前が何だか新鮮に思える。

 

「あぁ。いくらでも責任とってやる。お前の人生、全部俺によこせ」



ニヤリと笑うと、山本は驚いたように一瞬目を見開いて突然笑い出した。

 
「あはははは!!お前ってホント面白いのな。なんか、色々考えたオレが馬鹿だった」

 

満面の笑みを浮かべながらも、その瞳はどこか悲しみを押し隠しているように思える。
リボーンは時折大人びた表情をする山本に気づいていた。
きっと辛い過去を乗り越えてきたのだろう。
だが、無防備に笑うこの笑顔を大事にしなければと思った。
きっとボンゴレファミリーにとっても、この男の存在は必要になるだろう。



「どうせ碌な事考えなかったんだろ?」

「んー?そりゃお前の本心なんて分からねぇし、オレを使って何をしたいのか分からないから・・・」

「もうお前は俺のモノだ。覚えておけよ、お前は俺専用の愛人兼部下なんだぞ」

「ハハ、ホント我が儘なのなー。でもお前の傍は面白そうだから、いいぜ」


 そう笑う山本の表情はリボーンにとって眩しいものだった。
ベッドで横に並んで寝ていると顔は必然と至近距離になる。
先ほどまで山本に触っていたリボーンだったが、その手を山本に捕まれた。

 
「これからよろしくな、リボーン」

 
ちゅっ、と音を立ててリボーンの唇に柔らかいものが触れた。
山本の素速い動きに身構えたリボーンだったが、山本からキスされたことに気付く。
すると、思わず舌打ちが出てしまった。

 
(クソ、やっぱりこいつは天然だ)

 

昨日殺し合いをした男のことが可愛くて仕方がない。

 
「・・・・最高だな」

 
「ん?リボーン、何か言ったか?」

 
リボーンとしては声に出したつもりはなかったが、山本にはその呟きを拾われてしまったようだ。
『何でもない』というように首を振ってリボーンは自分から山本の赤い唇に口づけを落とす。

 

「・・・んっ・・・んん!」

「お前、キスは全然慣れねぇな。女を抱いたことはあるだろう?」

「ぁっ・・そりゃあ、それなりにあるけどよ。リボーンが上手すぎ・・・っ・・・んぁ!」

 

(あぁ、もう止まらねぇ。煽りやがったコイツが悪いな)


身勝手にもそう決めつけて、リボーンは山本の少し肌蹴たバスローブの中に手を忍ばせた。



「ちょ・・・リボ・・ン、何・・・?」

「決まってるだろ、お前を抱く」 

「はっ、今日は、無理だ!・・・ヤ・・・だ、め・・だって・・・っ!」

「昨日とは違う。何度だってイカせてやるから、お前は好きなだけ啼いてろ」

 
山本に覆い被さりながら、バードキスを何度も何度も繰り返す。
昨日の今日であまり力が入らない山本の身体は扱いやすい。
昨夜散りばめた赤い華を辿るように肌を舐めると、そのたびに山本は素直に声を出した。
だが、やはり抱かれるということに慣れない身体は鳥肌を立てて、無意識に逃げようとしている。
それに気づいたリボーンは山本の両腕を自分の腰に巻きつけた。

 

「・・・っ?リボーン?」

「昨日とは違うって言っただろう。好きなだけ抱き着いてろ」


憮然としながらそう言ってやる。
すると、山本が「へへっ」と嬉しそうに笑って、その腕に力を込めてきた。
 

昨日は暴れられては面倒と手錠をかけた。
それでも、できれば山本の全てに求められてみたかった。
その腕を縋りつかせ、欲しいと喘がせてみたかった。
今夜はそれが実現しそうだ、と無意識に喉を鳴らす。



こんなにも全てを自分のモノにしたいと思ったのは初めてだった。



どんなに気に入った女がいても、どこか冷めている自分がいた。
リボーンは己の死に場所は戦場であると思っている。女は戦場に来られない。
すなわち、リボーンにとって女は残していくものなのだ。置いていくから、心を預けようとも思わない。
所詮人間は生まれる時も死ぬ時も独りだと知っている。
死ぬ時はひとりで、とリボーンは本能でそれを悟っていた。

 

だが、今は違う。

 
どこまでも連れて行ってみたい相手ができた。
山本武は殺し屋として実力も兼ね備わった男。戦場にだって来られる。
もうその手を離せない。
地獄に堕ちる時は熱い口づけを交わしながら堕ちたいと思う。


リボーンの中で山本を傍に置くことは決定済み。
明日、山本を連れて行って綱吉がすんなりと加入させるとは正直思えないが。
どんな手を使っても認めさせてやる。

リボーンの頭の中ではこれから山本と過ごす日々が描かれている。
美しい剣術を使う山本が、さらに自分の腕の中でどんどん強くなっていく姿を思い浮かべるだけで心が躍った。

 

「愛してるぞ、山本」

 
初めて明確に告げた愛の言葉は本人には届かない。
なぜなら何度もイカせては求め、体力の限界まで抱き潰してしまった。
いつの間にか深夜になった外を眺め、気絶した山本の頬を撫ぜる。



手に入れた宝物を愛でるように。
リボーンはそっと山本に触れ、その寝顔を見ながら微笑んでいた。

 

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2008/12/08

改 2009/09/12


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