単身イタリアにやって来て約5か月。
その間、簡単な仕事を含めても殺した数は29人。
二代目剣豪と勝負することを目標に斬って、斬っては血を浴びた。
日本にいる頃はもちろん人を殺したことなどなかった。
小さな頃から父親に剣術を教えられたといっても、それは竹刀での手合わせぐらいで。
あとは1人で素振りをする程度だった。
時に知り合いの剣道場の人たちと試合をして、真剣を使って勝負したこともあったが模範演技のようなもので。
山本は物足りなかった。もっと、高みを目指したいと思った。
そんな思いをひたすら野球にぶつけ、甲子園出場、プロ野球に入団と山本の野球が認められ、全てが順調に進んだ。


それなのに。
野球に打ち込めば打ち込むほど山本の体は喉の渇きを訴えるように、言いようのない飢えを感じた。

何かが違う。
何かが足りない。
そんな時、父親が末期の癌と分かり、あっけなくこの世を去った。

ただ、癌と告知される前に父親は時雨金時を託してくれた。
時雨蒼燕流について幼い頃から聞かされていたが、時雨金時はその継承の証。
まるで己の死期を悟っていたように。
時雨金時を操ったとき、まるで失くしていた自分の半身と出会ったような感覚に震えた。
剣術を極めるために己はあるのだ、と確信した。
そんな山本に『俺にそっくりだなぁ』と嬉しそうに父が目を細め、二代目剣豪の存在を教えてくれたのだ。
世界には強い者がたくさんいることを。

そして、山本の血がそれを求めるのは遺伝だろうと。


父の過去を山本は知らない。

だが、きっと・・・・・。

一人の剣術家として誇りを持って生きたのだ、と山本は思った。

葬儀を終えて山本は家も思い出も置き去りに、世界に飛び出した。
たとえ独りで死を迎えることになっても、誇って死ねるよう剣術に生きようと父に誓った。

 
それがまさか敗北した男に捕まって、ましてや愛人にされてしまうなんて夢にも思わなかった。



 
だが、山本はもう独りではなくなった。

 

 

 

スナイパー 5

 

 

 
「君が山本武か。はじめまして、俺はボンゴレファミリー10代目ボスの沢田綱吉です」


 

翌朝、山本は暗殺に忍び込んだボンゴレ本部に堂々と足を踏み入れることになった。
リボーンに連れられてやって来たのは最上階にあるボスの執務室。
恐る恐る部屋に入った山本を迎えたのは柔和な笑みを浮かべた小さな青年だった。
そういえばボスは日本人なのだとリボーンが言っていたように思う。
優しげな雰囲気に緊張が解け、山本は普段通りの笑みで挨拶することができた。

 
「どうぞ、そのソファーに座って。今飲み物用意するね」


座ったリボーンの隣に腰掛けようと思ったが、綱吉自らお茶を入れようとする姿に驚いた。
 

「あっ、あの!オレが用意するんで座ってて下さい」

「え?あっ、ありがとう。そういえば同い年なんだから敬語じゃなくていいよ?」


思わず敬語で話しかけたが、目の前の青年はとても優しく話してくれたので山本は嬉しくなった。


「はは、サンキュー。じゃあツナって呼んでもいいか?」

「うん、もちろん。今じゃそんなあだ名で呼んでくれる人も減っちゃって寂しくてさ」

「そりゃボスだもんなぁ、ツナはすげぇのな」


山本はまさかイタリアの地で気安く日本語で話せる同級生と出会えると思いもしなかった。
話をする限りこうして出会った青年はとても話しやすくてホッとする。
心を弾ませながら執務室に備え付けられたポットで急須にお湯を注ぎ、3人分のお茶を用意した。
すると黙ってその様子を見ていたリボーンの機嫌が少し悪くなっていた。

 
「・・・?リボーン、お茶飲まないのか?」

「いいや、お前が入れたんだから飲むぞ」

彼は今朝家でエスプレッソを飲んでいたので、緑茶は嫌いなのかと心配したがそうでもないらしい。

 
「はは、熱いから火傷すんなよ」


隣に座るときに頭をポンポンと撫でる。
すると先ほどの不機嫌は何処へやら、唇の先をニッと上げる様子が見えた。
まだ出会って数日だが、リボーンは受け入れてくれる。
だから山本は気を遣うことなく、昔からの知り合いのように普通に接することができた。


「・・・・・・本当に山本の事、気に入ってるんだねぇ」


向かい側に座る綱吉がそんな様子を見て、なぜか顔を引き攣らせていた。

 


「10代目、失礼します」

 ドアをノックする音に綱吉が返事をし、銀髪の綺麗な顔をした男が入ってきた。
その風貌から考えられないほど日本語がうまい。

 
「ん?・・・・あっ、テメェはあの時の!!」

 
不躾な視線を送ってしまい、こちらを見た男にそう言われたが。
山本には全く見覚えがなかった。

 
「10代目!リボーンさんの部屋を無茶苦茶にしたのはコイツっすよ」

「そう言えばあの日は獄寺くんが屋敷にいたんだっけ。彼は山本武。今日からリボーンの部下だよ」


獄寺という男と綱吉の視線がこちらに集まった。
山本が気を失った後、リボーンが話をしてくれたらしい。
きっとリボーンに気に入られなかったら暗殺者として始末されていたんだろうと思う。
隣で表情一つ変えず座る男も変だが、劇的に変わった自分の運命に苦笑い。



「どもっ!えーと、獄寺だっけ?これからよろしく頼むな」 

そう言って手を振ると獄寺に思いっきり睨まれた。


「うるせぇ!得体も知れないお前を簡単に受け入れられるか!10代目、コイツは何なんですか!?」

「んーと、俺もリボーンを狙った殺し屋だとしか聞いてないけど。たぶん彼は信頼できるよ」

「じゅ、10代目。貴方の事はもちろん信じてますが、もう少し身辺調査など慎重に行っては・・・」


どうやら獄寺は優秀な部下らしい。彼の主張は尤もだろう。
命を狙った男を生かして、尚且つ自分のモノにするのはリボーンくらいだ。



「獄寺くんの言うことも分かるんだけど。リボーンは自分の意見曲げないから、山本にボンゴレに入る意思があるなら俺はいいよ」 


色々と苦労しているらしい綱吉は優しく、諦めたようにそう笑う。
綱吉の言葉に獄寺も諦めたのか苦虫を噛みしめた顔で溜息を吐いた。



「はは、オレに選択の余地はないのな。こちらこそ、よろしくお願いします」


リボーンと共にいると決めたのは自分自身。
彼の傍は思いのほか山本にとって居心地がいいと思う。
そんな気持ちでリボーンを見ると、彼は無表情から一転、満足げな顔で微笑んだ。

 
「うん、よろしくね。それはそうと、山本ってもしかして甲子園で奪三振とホームラン記録を塗り替えたあの山本武?」


目をキラキラさせてこちらを見る姿に、甲子園の申し子と持て囃された過去を思い出す。
 
「おう、昔の話だぜ?」

「うわぁすごい!同年代の俺達にはヒーローだよ!まさかこのイタリアで知り合いになれるなんてっ」


あの頃は野球一筋に白球を追っていた。
甲子園もプロになれたことも山本には誇らしい思い出だ。
 

「ほら、獄寺くんも一緒にテレビ見ながら応援してたじゃん!コイツはなかなかやるなって!」
「じゅ、10代目!昔のことじゃないですか!それに、確か山本武は高校卒業後プロ野球に入団したはずでは?」


子供のようにはしゃぐ綱吉に話を振られ、少し顔を赤くした獄寺が視線を向けてきた。
やはりその話になるだろうと思っていたから戸惑いはない。 



「入団したぜ?でも新人王も日本一にも結構簡単になれちまったから、今度は剣術を極めにイタリアにきたんだ」


正確には父親の闘病生活を支えるために野球を辞め、時雨金時の継承と共にイタリアに来たのだけれど。

 
「山本はすごい才能あるんだね。俺なんて何やってもリボーンに怒られてばっかりだったから羨ましいや」

「そんなっ、こいつの野球なんて10代目の凄さの足元にも及ばないッスよ!」

苦笑しながら綱吉がお茶を飲むと隣に立つ獄寺がフォローした。
山本は獄寺の意見に心の中で同意する。
綱吉の人柄や威厳、その統制力など本物は噂に聞く以上の人物で彼の方がよっぽど凄い。

 

「ツナのほうが何十倍もすげぇよ。こんな怪しいオレを受け入れてくれたんだしな」

 
どんなに野球で活躍しようとも、山本には居場所がなかった。
小さな頃から周囲に気を遣い、本心を曝け出すことができずにいつも自分を偽るように過ごしてきたから。
何かに脅えていた。否定されることが恐ろしかったのだろうか。
目の前の人物たちは野球をしていたにも関わらず、殺し屋へ転向した自分を拒絶しない。
それどころか受け入れてくれるのだから、何だか自分の家に帰って来たような安心感を覚える。

 


「・・・・・おい、お前ら」
 

それまで黙って山本たちの話を聞いていたリボーンが声をかける。
綱吉と獄寺は彼の存在を忘れていたようで、慌てたように彼を見た。

 

「山本」



名前を呼ばれ、隣に座るリボーンの方を向くと。

 
「ん!ん−・・・っ!」

 
今朝リボーンに着せられたスーツに合わせ、選ばれたネクタイを引っ張られて。
綱吉や獄寺に見られたまま強引に唇を奪われて、しかも舌まで入ってきた。


 
「ちょっ、ちょっと、リボーン!」

 
目の前で繰り広げられる深いキスに綱吉が声をかけたがリボーンは離してくれない。
呼吸すら奪う彼のキスは激しく、次第に頭がボゥっとしてくる。


「ふ・・・ぁ、はぁ、はぁ」

ようやく解放された口から息を吸い込み、儘ならない呼吸を整える。
苦しくて涙まで浮かんでしまい、力の抜けた身体をリボーンの肩に寄り掛からせた。

 

「お前ら、山本は俺のモンだからな。手を出したらぶっ殺すぞ」


そう言うと目にも止まらぬ早抜きで銃を取り出すと、綱吉達に向ける。


「えぇっ!!そんな関係なの!?出会って3日で!?」

獄寺は絶句し、綱吉が真っ赤になって困惑しながら言われた言葉に苦笑する。
山本だって驚くことばかりなのだから。

 

「うるせぇ。10年経っても京子にプロポーズできないダメツナは黙っていろ」

「か、関係ないだろ!それにお前愛人だっていっぱいいるくせに、山本に手を出したのか!?」


綱吉には始めて会った時の落ち着くはなく、非難するような口調でリボーンを責めた。
リボーンはそんな声も聞こえない顔で、まだ力が入らない山本の腰に腕をまわして抱きしめた。



「こいつは特別だ。イイ男だろう、誰にもやらねぇけどな」


ニヤリ、と笑うリボーンの顔を斜め下から眺めて顔が赤くなる。
本当に恥ずかしいのに、嬉しくてたまらないなんて。
自分を抱くこの男にどれだけ侵食されているのだろう。


「はは、オレも吃驚したけど慣れちまった。ツナ、獄寺、こんなんだけど・・・許してくれるか?」 


苦笑いしながら笑いかけると、綱吉と獄寺がすっと顔を赤くして頷いてくれた。
すると、それを見たリボーンが舌打ちして2人が座るソファーに向かって発砲する。

 

「「うわぁぁぁぁぁ!!!」」


「ちょっ、何してんだ?ツナ達に当たる寸前だったじゃねぇか!」

「ぁあ?そもそも山本が無防備に笑いかけるからだぞ。まだ、自分が誰のモンか分からねぇのか?」

 

どうやら怒りの矛先が自分に向いたのを感じ、背中に冷や汗が流れる。 


「落ち着けって!オレがお前のモンだなんて昨日からずっと分かってるさ」

「ハッ、まだ足りねぇみたいだから今夜はお仕置きだな」


まるで情事の時のような低い声音にゾクリと身体が震える。
だが、言われた言葉には賛同できないので何とか食い下がらなければならない。 


「ちょ、腰も痛いし今夜は無理だって。大人しく寝たいのな」

 
昨夜、その前の晩から抱かれ続けた身体はもう限界で。
起きてから全身をマッサージしてもらったが、男を銜えこまされた山本の奥はまだ熱を孕んだままなのだ。

 
「お仕置きだって言っただろう。まぁ、今夜を楽しみにしておけ」

「うぅ・・・本当に人の話聞かねぇよなー・・・」


細められたリボーンの瞳は熱を帯びている。
その様子に何を言っても無駄だと本能が悟った。

 

「お手柔らかにお願いします、なのな」

 
リボーンは欲しがることを隠さない。


まだ数日の付き合いだが、体を繋げている時以外の食事中でも何でも視線が離れないのだ。
それに戸惑いは感じるが抵抗する気が起きないから嵌まっていると思う。
山本の様子に満足げに笑い、リボーンは山本の頬にキスをした。

 



「あの、俺たちがいるって完璧に忘れてるよね」

「10代目・・・・砂吐きそうなんですが」

 
そんな2人の声に山本はここが綱吉の執務室である事を思い出した。

 

「わっ、悪い2人とも!怪我はねぇか!?」

「うん、大丈夫だから。もう何か色々分かったから、お幸せに」


綱吉が疲れたようにリボーンと山本を交互に見ながらそう言った。
山本はそれに苦笑するしかない。
だが、これでもう隠すものがないと思うと山本は楽になった。


「そうだ、ツナ。来週スクアーロを本部に呼び出せ」


我が物顔で山本の腰を抱いていたリボーンから知らない名が飛び出した。
綱吉はなぜそんなことを言い出すのか分からない、というように目を見開いて。


「ん?うん、別にいいけど。どうしたの?」

「予定を調整次第、山本のお披露目も兼ねて幹部の前でスクアーロと勝負させる」


リボーンの中ではすでに計画ができているらしく、山本には反論はないが綱吉は違ったようだ。


「ちょっ、なんでスクアーロ?あの人に冗談なんて通じないんだから、最悪の場合殺されちゃうよ!」

「んー?スクアーロってそんなに強い奴なのか?」

まだマフィアの事やボンゴレの事を何も知らないので山本には判断できない。


「何言ってるんだ、山本。スクアーロと戦うために殺し屋やってたんだろ?」 

「えっ!?スクアーロって2代目剣豪の名前なのか?」


リボーンの言葉に山本は驚いた。
そういえば知らなかったとようやく思いつく。
情報を集めようにも詳しい事を知る人物と会えなかったのだ。
そんな気持ちが顔に出たのか、リボーンが呆れたようにため息をついている。


「暢気なお前らしいがな。スクアーロの実力は本物だ、油断すんなよ」


そう言うリボーンの表情は変わらないが、自分の剣の腕を信じてくれているから勝負の場を用意してくれたのだろう。
表沙汰にしない彼の優しさを感じて山本の心が温かくなった。

 
「・・・・おぅ、サンキューな」




やはり、彼の傍はたまらない。

今まで感じたことがない充足感で一杯になる。

 

綱吉は自分たちの様子に納得したのか、獄寺に指示を出していた。

 

まさかこんなに早く目標だった人物と勝負できると思わなかったけれど。

恐怖はない。時雨蒼燕流を信じるのみだ。

 

「ヤベェな、楽しみで仕方ねぇ」

 
今すぐにでも剣を振りたくなった。
相棒である時雨金時と共に、父の誇りと共に、高みを目指すのだ。

 


「山本、お前はこれから修練場で修行してこい。それ以外はイタリア語の特訓だからな」

 
いつの間にかソファーから立ち上がり、リボーンは部屋を出て行こうとしている。
ついて来いと言ってドアの前で待つ姿に、山本は綱吉達に挨拶をしてから追いついた。

 
「行くぞ」


黒いスーツがよく似合う男の背中に、無性に抱きつきたくて仕方がない。
出会って数日。それでも自分の事を最もよく理解し、考えてくれている。
それが本当に嬉しくて、くすぐったくて、どうしていいのか分からない。


ずっと、ずっと、昔から欲しかったものはここにあるのかもしれない。


山本はようやく自分の居場所を手に入れた。

それは昔から憧れ、目を逸らしていたモノ。

 

独りでない居場所は、涙が出るほど幸福に充ち溢れていた。


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2008/12/09

改 2009/09/12

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