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元々一匹狼で殺し屋をしていた山本武がボンゴレファミリーに加入して約1年が過ぎた。
殺し屋同士ということでリボーンとの仕事の相性は抜群。
難しい仕事でも大した怪我をすることなく、確実に、手際よく働く姿に周囲の者もその実力を認めていった。
何より今まで部下を持たず単独で仕事をしていたリボーンの部下になったこと。
ファミリー内でも恐れられるリボーンに認められた事が山本の評価を高めた。
そして、お披露目の際に催された2代目剣豪にしてヴァリアー所属のスクアーロとの対戦。
皆の予想を裏切って山本は少しの差でスクアーロに勝利した。
本人らは命がけの勝負を申し出たが同じボンゴレの人間同士で許すわけにもいかず、峰打ち狙いの勝負だった。
それが逆にスクアーロには苦痛だったらしく、僅かな隙を見せたところを山本は見逃さなかった。
相棒である時雨金時がスクアーロの脳天に直撃し、脳震盪を起こしたことによって決着がついた。
スクアーロが本気でなかったことが山本には不満だったようで。
それから2人は暇を見つけては手合わせをするようになっていた。
スクアーロも山本の剣の才能に惚れこんでいるようだ。
山本の確かな実力、人柄、人望、それらが認められて。
明日、山本が正式に10代目ボス沢田綱吉の今まで欠員だった雨の守護者に就任することが決まったのだった。
スナイパー 〜おまけ〜
「10代目、リボーンさんがお着きになりました」
獄寺がそう言って綱吉の執務室にやってきた。
その声に書類から視線を上げると、元家庭教師が部屋に入って来た。
「リボーン、お疲れ様。さすが早かったね」
「俺は最強のヒットマンだからな」
表情を全く変えずそう言うリボーンは執務室に備え付けられたソファーに座った。
綱吉も苦笑しながら対面側に座り、それと同時に獄寺が2人分のエスプレッソを持ってやって来た。
昨夜、イタリアのある地域で内偵調査をしていた麻薬密売組織に部下が拘束されるという事件が起きた。
あまりにも緊迫した様子に単独でリボーンを派遣し、今朝無事に部下を助け出したという知らせが届いた。
倉庫に捕まっていた部下以外、その場にいた全員を射殺したらしい。
そしてその倉庫内から密売に関する重要書類を発見し、うまくいけば組織を壊滅することができるだろう。
内偵調査が難航していたため、思わぬ収穫に綱吉達は喜んだ。
捕まった部下も比較的に元気だという。それが綱吉には一番嬉しかった。
優雅にエスプレッソを飲むリボーンを見ながら、綱吉はこっそり胸を撫で下ろした。
「明日の式典に支障もないし、予定通りいけそうだね」
「はい、リボーンさんのお陰です!最悪の場合、式典は中止だと思ってましたから」
「山本の守護者任命式だもんね。リボーンが中止にさせるわけないよ」
「ふん、当たり前だ」
いつも通り黒いスーツを着こなし、悠然と微笑む彼は悔しいほど格好いい。
アルコバレーノの呪いで赤ん坊の姿だった時からその余裕は変わらない。
こうして本来の姿を取り戻したリボーンは世界最強のヒットマンとして皆から絶大の信頼を寄せられている。
そんなリボーンが力を認め、傍に置いたのは山本が初めてだった。
何ものにも固執せず、自分の意のまま生きていたリボーン。
自分を暗殺しに来た殺し屋をボンゴレに勧誘し、愛人にしたと聞いて綱吉は眩暈がしたものだ。
だが、実際に会った山本を見て何となくリボーンが気に入った理由が分かった。
山本は剣の実力もさることながら、その笑顔で周囲を明るくさせる才能があった。
彼が笑えば安心するし、大丈夫だと言われれば本当に大丈夫だと思えるから不思議だ。
そして明日、山本は雨の守護者として正式にボンゴレファミリーの幹部となる。
「そう言えば山本は何処だ?部屋にはいなかったぞ」
今までリボーン直属の部下だった山本。
常にリボーンの執務室で仕事をしていたが、すでに幹部として自分の執務室に引っ越していた。
「あぁ、山本ならリボーンが来るまで休憩してなよって俺が言ったんだ」
昼ごろまで山本は引っ越しと仕事の引き継ぎに働きづめだった。
休む気配がない彼に見かねてそう言った。
「じゅ、10代目・・・それが山本の奴また・・・」
『よっしゃー!これでハットトリックだな!!』
『ちょ、山本さん!手加減してくださいよぉ』
『そうっすよ。俺たち昨日から一睡もしてないんスよ』
『はは、オレはいつでも真剣勝負が好きなんだっ』
『うわっ、今の反則じゃないっスか!?』
最上階にある綱吉の部屋にそんな楽しそう声が聞こえてきた。
どうやら外の庭が発信源らしい。
その会話から、綱吉は獄寺の言いたかったことが分かり苦笑する。
「もしかしてまた山本が庭でサッカーしてるの?」
「人数的にはフットサルですけど・・・あいつは休憩の意味を知らないんスかね」
獄寺は眉間に皺を寄せて呆れている。
右腕として、守護者として誇り高い彼には気安く部下と戯れる山本の態度が気に食わないようだ。
「フッ、山本らしいな」
窓を見ながらリボーンが満足げに微笑んでいる。
その瞳はどこか優しげで見ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。
長い付き合いで綱吉は表情が分かりにくいリボーンの変化を読み取れるようになっていた。
(・・・ほんっと、山本に関してはトロけそうな顔するよね)
世界最強、冷酷無比と恐れられるヒットマンには見えない。
山本と出会い、仕事をするようになってからリボーンは変わった。
それまで常に戦場に向かい、無茶な戦いをしては綱吉を心配させていた。
部下を持たず、単独で何でもこなすリボーン。
それはまるで安住の地を必要とせず、死に場所を求めるような姿だった。
自分達はファミリーなのだから、もっと心を預けてほしいと何度思っただろう。
いつかなんとかしなければ、と思いながら綱吉は彼を変えることが出来なかった。
そんな彼を変えたのは、綱吉と同い年の日本人だった。
『山本さーん、もう勘弁して下さいよっ』
『俺ら体力の限界っス・・・』
『お前らもっと体力つけろよー。今度一緒にトレーニングしようぜ』
『えっ、いいんですか!?山本さんに鍛えてもらえるなんて光栄っす!』
『『『よろしくお願いします!!』』』
『おう、約束なー』
また聞こえてきた声に、綱吉は山本らしいと笑みが零れる。
山本は人好きする笑顔と、面倒見の良さで人望を集めていた。
こんな風にサッカーやゲームを率先して行い、イタリア語での会話を楽しんだ。
仕事はリボーンと2人で行っていたので、山本にも部下はいなかったのだが。
人見知りしない性格で山本は誰とでもコニュニケーションを取っていた。
ボンゴレファミリーの人間は勿論、屋敷で働く厨房の人間やメイド達まで。
同盟ファミリーの人間達にもその物怖じしない態度が気に入られていた。
それまで、綱吉はこのイタリアの地で見えない壁を感じていた。
それは日本人だからか。まだ年若く未熟だからか。
守護者たちに至っても同じような対応を受けていたようだ。
部下といってももちろん年上で、マフィアとしての経験も上。
遠慮されているというか、認められていないことをひしひしと感じていた。
そんな彼らを黙らせたのが9代目達とリボーンだった。
仕事上の支障はないものの、もっと打ち解けたかった。
ファミリーは綱吉にとって何よりも大切なのだから。
しかし、立場上時間も余裕もなくて。
また任せるに相応しい人材が守護者の中にいなかった。
だから。
そんな時に来た山本はまさに救世主だった。
リボーンは山本の天性の素質に気付いていたのだろうか。
山本が橋渡しとなって今では綱吉たちに対する壁もほとんど無くなった。
「本当に、山本は凄いよね」
綱吉にとって山本は初めてできた親友兼ヒーローだった。
「暢気なアイツらしいが、遊びすぎだろう」
明日は大事な日なんだぞ、とリボーンは立ち上がると近くの窓を開けた。
綱吉もそれに続いて庭を眺める。
「あっ、リボーンおかえり!ツナもお疲れ様!」
庭に座り込んで部下たちと話していた山本が、顔を上げて満面の笑みを浮かべた。
部下たちが慌てたように立ち上がって頭を下げる。
「みんなもお疲れ様。もうサッカーは終わり?」
「はは、コイツら体力なくてさ。あっ、ツナもリボーンも下りてこいよ。一緒にやろうぜ!」
少年のような笑み。スーツに合わせたはずのネクタイはグシャグシャになっていた。
運動好きの山本は汗を掻けて満足そうだ。
そんな彼の姿に苦笑しつつ、綱吉は隣のヒットマンを見た。
「俺は運動音痴だから無理だけど、リボーンは行ってきたら?」
「馬鹿言うな。これから明日の打ち合わせをするぞ」
リボーンにそう言われては従うしかないだろう。
「おい、山本!明日の式の打ち合わせをするぞ。もう上がってこい」
「あっ、そうか。リボーンの言う通りだな、じゃあ戻るか」
明日の事を忘れていたのではないかという様子の山本。
彼にとって、雨の守護者に任命させることは大して重要ではないのだろう。
きっと本質は変えず、部下を引き連れて仕事をする山本が目に浮かぶ。
山本は今、ボンゴレにとってなくてならない存在だ。
「ねぇリボーン。雨のリングを山本に渡す決断は間違ってないよね?」
まだ一年しかボンゴレに所属していない彼を幹部にすることについて反対する声もあった。
しかし、綱吉にはリボーンの答えが分かっている。
「当たり前だ。俺が選んだ男だぞ」
「はいはい。愛人自慢はそこまでにしてよね」
どこまでも惚気られることを経験上知っている身として。
綱吉はそれこそ真剣に牽制した。
「フン、相変わらず心の狭いボスだな」
「リボーン達が大っぴら過ぎるんだよ!俺はなかなか京子ちゃんとデートできないのに・・・」
思う存分惚気を聞かされる身にもなってほしい。
暗殺しにきた殺し屋にすぐ手を出して自分のモノにしたリボーン。
その強引さに流されて愛人の座に収まった山本。
彼等は今でもお互いを必要とし、2人の世界を形成している。
誰も入り込む隙間がないほど変わらず2人は共にいた。
リボーンはいつもひとりで仕事をこなしていた。
しかし山本が部下となって、傍にいるようになってから。
リボーンは明らかな無茶をしなくなった。
まるで止まり木に帰る鳥のように。
手に入れた居場所を愛でるように、必ず帰って来た。
綱吉はそれが嬉しくて、2人には幸せになってほしいと思う。
山本が雨の守護者になるということは幹部になること。
これまでのようにいつもリボーンの傍には居られない。
しかし山本の地位の確立はリボーンの願いだった。
山本の才能をもっと伸ばすため。
山本の居場所を作るため。
リボーンの中はいつも山本のことで一杯だと気付いているのは綱吉ぐらいだろう。
「本当、山本には甘いよねぇ」
山本と出会ってリボーンは人間臭くなった。
きっと彼にとってそれはいい傾向であるはずだ。
一匹狼で殺し屋をしていた山本にも同じことが言えるのではないだろうか。
「ツナ、リボーン、おまたせ!」
「山本、テメェ!ドアはノックして入れっていつも言ってるだろう!!」
全速力でやって来た山本を獄寺が一喝する。
それに謝りながらリボーンのところに一直線に来ると2人は熱烈な口づけを交わした。
嫌でも見慣れてしまった2人の挨拶。
獄寺はもう何も言わず、先程まで専念していた書類整理に戻って行った。
この2人を見ていると、互いを必要としていることが伝わってくる。
それはまるで魂が惹かれあっているように。
独りでないこと。
それが何より幸福なのだと。
2人はいつも、共に生きている。
「・・・・平和だなぁ」
マフィアの世界に生きる自分たち。
それでも、綱吉は願わずにはいられない。
こんな時間が、少しでも長く 。
孤独だった者たちに降りそそぎますように。
世界最強のヒットマンと就任した雨の守護者。
孤独でなくなった2人は生涯をかけて、その幸せを噛み締め続けた。
Fin.
2008/12/21
改 2009/09/12
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