雲雀恭哉にとって興味は強さがすべてだった。
その意味では赤ん坊の姿をしたリボーンが一番興味深い。
次には綱吉だろうか。実力はあるが、闘争心の無さが興味を削ぐ原因だ。
ただ、彼らの周囲は面白い。
レベルの高い獲物が次々と湧きあがり、飽きることがない。
いい狩り場所を提供してくれる人間として雲雀は彼らを認めていた。
特にリボーンは自分と同じ匂いがする。
多くの血を浴び、なおかつ満足することが出来ない狩猟者の匂いだ。
どちらがより優れた狩猟者であるか競わずにはいられない。
雲雀はリボーンとの勝負を何よりも楽しい時間と認識して生活していた。


(本当に僕を楽しませてくれるね)


いつの頃からか、そんなリボーンの気配を沁み付かせた人間に気付く。


『よう、ヒバリ!今度手合わせしてほしいのなー』


ニカっと爽やかな笑みを浮かべ、気安くコチラ側にやって来る。
山本武。彼に纏わりつくリボーンの気配はまるで彼を護っているように。
離れないことを雲雀は知っている。
他人に興味を持たない雲雀だが、この2人のことは何故か気になった。
どちらを対象にして思うのかは自分でも分からない。

暇潰しになるか、と言い訳しながら。
雲雀は今日も見回りのため、並盛の町へとくり出すことになった。





noise−いらないモノー








「あれー、ヒバリじゃん!こんな時間に何やってんだ?」

「山本武。見ての通り、ゴミ掃除だよ」


懐かしい声が聞こえ、振り向けば部活終わりらしい埃まみれの男が立っていた。
この町でこんなにも普通に話しかけてくる人間は限られている。


「ゴミって・・・相変わらずなのなーお前」


ははは、と苦笑する顔は昔から変わっていない。
並盛中学で出会ったのは彼がまだ1年生だった頃。
群れを成す小動物の1人だが、なかなか楽しませてくれる群れだった。
グローブに炎を灯す綱吉をはじめ次々と面白い人間たちに出会い、
その中でも刀を武器とする山本武は身体能力に恵まれ、食えない性格をしていた。
今、目の前で立っている山本は雲雀の足元で悶絶している男たちを見て呆れた顔をしている。


ここは駅から程近い公園。
すでに夜も更けてきたこの時間には自分達しかいない。


「彼らは群れてなお、僕に刃向かって来た。噛み殺されるのは当たり前さ」

「バカだなぁ、コイツら。ヒバリに勝てるわけないのに」

「群れるのは弱い証拠だ。君は・・・・・ひとりのようだね」

「はは、まぁ部活終わるのってこんな時間だし。それに今は大事な時期だからな!」


ニカっと能天気に笑って山本はそう言った。
今の自分は一戦交えた後で血が煮え滾っている気がして殺気を抑えていない。
誰でもいいから殴り飛ばしたいような高揚感が身体を支配している。
彼はそんな様子に気付いているはずなのに、いつもこうだ。
笑みを湛えたまま、殺気に反応することがない。
これで雲雀は昔から何度、闘争心を削がれたことか。
誘うように発散していた自分の殺気を引っ込めた。



「フン、まあいいさ。最初から君と殺ろうとは思ってない」

「悪ぃな!練習終りで疲れてんだ」


そう言う山本は確かに疲労しているように見えた。
中学に入学した頃から有名な男だったのでよく知っている。
1年生でありながら唯一レギュラーを獲得し、最終学年では総体で並盛中学野球部を優勝に導いた。
その功績を買われ、高校は野球部が強いところに行ったのだ。
雲雀としては並盛高校に入って再び全国に並盛の名を轟かして欲しかったところだが。
所詮は野球と思い、それを口にすることはなかった。


「そう言えば甲子園出場決まったらしいね。小動物達が噂していた」

「おっ、サンキュー!ツナ達もすげぇ喜んでくれてさ!ついに明日、甲子園に殴り込みだぜー」


彼の所属する野球部が地方大会優勝を果たしたのは数週間前。
山本は実力者揃いの部内でもレギュラーを勝ち取り、公式戦にも出場していた。
夏の高校野球開幕まではまだまだ日があるはずだが、甲子園の土に慣れるため明日から現地入りするという事らしい。
嬉しそうに野球の話をする山本にペースを奪われ、自然と2人で公園を抜けて歩き出していた。
さっき噛み殺した若者たちの後始末は後で草壁に連絡すればいいだろう。



「ずっと思ってたんだけど、君は僕が怖くないの?」

「んー、そりゃあ最初はビビったけど。ヒバリは何度もオレ達のこと助けてくれたじゃん」

「別に、助けたわけじゃない。勝手に死なれるのが目障りだっただけさ」

「おう、分かってるって!とにかく、オレはお前のこと気に入ってる。だから怖くねぇのな」



これでオッケー?と首を傾げて、こちらを見ていた。
気付かぬ内にあしらわれた様で納得できないが、彼の思考回路はよく分からない。
雲雀はいつも独自の世界で生きてきた。
敵は排除するもの。後ろを振り返ることなく突き進む。屍の上を歩き続ける力と覚悟と共に。
手足がもげ、どれだけ血を流しても、命の消えるその瞬間まで雲雀恭哉として生きること。
そうすることが己の存在理由だと信じて此処まできた。
周囲からどんなに畏怖され、疎外されても、関係なかった。
誰に理解されずとも、己の道を歩く。

そう思っていた。




ただ、数年前に自分とよく似た人物との出会いがあった。
見かけは赤ん坊。黒いスーツで不思議な生き物を操り、血の匂いを漂わせる男。
戦闘時に一瞬湧き上がるだけの殺気は、並大抵の者では気付きもしない。
それ程効率良く戦う術を身に付けた人物に雲雀は初めて出会った。
それは様々な修羅場をくぐり抜け、人の命を奪って来た人間の姿だ。
強ければ生き、弱ければ死ぬ、それだけのこと。
それを理解っているリボーンは雲雀にとって新鮮だった。
それから、常に強い者を求める雲雀の興味はリボーンに集中した。
彼が生きる世界の形を知りたいと思った。
だからこそ彼がイタリアンマフィアであることを信じ、力を貸してきたのだ。
知れば知るほど、彼は雲雀の予想以上の顔を見せてくれる。
そして、それは数年経った今でも変わらない。
雲雀の隣で野球や仲間の話をして笑う山本武。
彼からは血の匂い、いや、正確にはリボーンの気配が色濃く残っていて雲雀を刺激する。
それは纏わりつくというよりも、その身を包んで護っていると言ったほうが正しい。
普通の者はこの気配に気づく事などないだろう。
神経を研ぎ澄まして生きる雲雀だからこそ、感じ取ってしまう。
こんな気配を漂わせていれば敵意を持った人間は恐れて山本に近づくことは出来ないだろう。
まるで庇うように、護るように、彼を包む気配の意図はどこにあるのか。
自分と同じで屍の中を生きるリボーンが何故そこまで彼に気を払うのか。





「山本武」



こうして見ると普通の高校生にしか見えない。
体格は良いがあどけない顔はまだ少年のようだ。
運動神経や戦闘センスは確かに人より優れている。
古くから続く剣術の正統後継者だということも知っている。

それでも彼はただの人間だ。考えが甘い。人にも甘い。

何よりも光の中で生きるのが当たり前だという顔をしている。
自分とは違いすぎて雲雀は彼が少し苦手だった。



「なんだよ、ヒバリ。名前呼んだまま黙っちまって」


本格的に夏を迎え、夜になっても蒸し暑いままだ。
部活終わりだという山本の額には汗が浮かんでいた。


「君から赤ん坊の気配がする」


雲雀がそう言うと、山本は驚いたように目を見開いてこちらを見た。
先程からずっと穏やかだった瞳が困ったように歪んで。


「んー・・・、確かに小僧とは昨日会ったぜ?」


何故か少し焦っているようだ。
彼の呼吸が少し速くなったのを雲雀は確認できた。


「でも、そんなこと分かっちまうなんてヒバリはすげぇのな」


雲雀が言う気配とは1日そこらでつくモノではないのだが。
様子がおかしい山本に同じ話題は避けることにした。


「それより、野球もいいけどサボって剣の腕を鈍らせたりしたら承知しないよ」


彼がリボーンとどんな関係にあるのかは分からない。
だが、それだけでなく自分の暇つぶし程度には山本の腕を買っていた。


「脆弱な小動物にしては、君は良い線いっている」

「はは、サンキュー。毎日竹刀振ってるし、鈍らせる気はないぜ?」


そう笑ってみせると山本はその場で竹刀を振る真似事をした。
振るわれた腕が風を切り裂くような音を発して聞こえてくる。
まるで次元を切り裂くような鋭い衝撃を感じ、雲雀は好戦的な笑みを浮かべた。


「フフ、確かに鈍ってないみたいだね」

「まぁな。そうだ!この後、時間あるか?道場で手合わせしてくれよ!」


先程まで見せていた疲れはどこへやら。
前みたいに勝負しようぜ、とまるで中学の頃のように、何も変わらず、気安く山本がそう言った。
本当に彼は人を区別しない。すべて平等に、それが当たり前のように受け止める。


(・・・・・それが心地良いなんて、まさかね)



赤ん坊の姿をした殺し屋が求めるモノはそこにあるのか、と。
想像でしかない自分の考えを否定するよう、小さくため息を吐きだした。



「僕もそうしたいけど、赤ん坊に止められてるからダメ」

「えっ、小僧に?」

「以前、練習試合の前に手合わせして君の右手を捻挫させたから」

「・・・あっ、ちょうど1年くらい前か?けど、あれはオレの不注意だったんだけどなぁ」


どうやら思い出したらしい。
未来での戦いから帰ってきてから、修行に目覚めたらしい山本に頼まれて何度も相手をしていた。
学校の屋上や彼の家の近くの道場、河原など。
鞭を使うディーノとはまた違った得物のため雲雀は手加減無しで楽しんだ。
炎を灯した刀を操る山本は確かに強かったが負ける気はしない。雲雀が飽きるまで勝負は何度も行われた。
そして、防御の際にバランスを崩した山本が地面に着いた右手首を捻ったことがあった。

そのすぐ後だっただろう。
雲雀の行動に口出しすることがないリボーンに呼び出されたのは。


「大事な試合前に怪我さす訳にいかないから、山本には手を出すな、ってね」

「えっ・・・・」

「赤ん坊を怒らせたくないから君とはパスね。今度は僕が赤ん坊に戦ってもらえなくなる」

「・・・・・・・」


思い返すと、あの時のリボーンは不機嫌だったと思う。
表情は変わらないから分かりにくいが、彼の周囲には近寄りがたいオーラが出ていた。
彼の殺気は心地良いと思う雲雀ですら口を閉じてしまうようなドス黒さだった。
そんな話をしていると、いつの間にか商店街を抜けて山本の家である『竹寿司』の看板が見えてきた。
腕時計を見ると22時を超えている。明日は朝から服装検査のため、風紀委員は早朝から校門に立つ。
集合時間の確認を草壁にしようと携帯電話を取り出した、その時。



「・・・・・・オレって、愛されてるのなー」


気にしていなかった隣から、ポツリと声が聞こえてきた。
山本は雲雀よりも背が高いため、見上げる形になる。
すると彼は暗闇でもはっきり分かるほど頬が赤く染まり、困ったように眉がぎゅっと下がっていた。
口元に湛えた笑みは満足そうに引き結ばれ、細めた目から見える瞳は優しい色を燈している。



彼のこんな表情は見たことがなかった。
普段は豪快によく笑い、剣を交えた時の真剣な顔は珍しいほど。
学校で多くの人間が彼の周りにいるのを良く見たが、山本の表情にあまり変化はない。
その笑みで全てを受け止め、流すのが彼の術なのだろうと気にした事はなかった。

そんな山本が今、浮かべた小さな微笑。



(あぁ、なんだ。これが・・・・・本物、か)


そんな笑い方もできたんだ、と雲雀は心の中で呟く。
時たま、学校の教室などで浮かべる彼の笑みが仮面のように張りついて見えていた。
しかし、今は意識して笑ったわけではないのだろう。
本当に無意識に、心から湧き上がったように出た小さな笑みは。



雲雀の目に焼きついた。






(僕には関係ない)



リボーンと山本がどんな距離にいようとも。
自分が歩く覇道の先には何の関係もない。

見たくないモノは見ない。

聞きたくないモノは聞かない。

必要じゃないモノは、いらない。



「あっ、じゃあオレ帰るな。またな、ヒバリ!高校野球見る機会あったら応援してくれよ!」

「・・・・・気が向いたら、ね」



見慣れた苦笑を浮かべる山本に背を向け、雲雀は暗い路地を歩き始めた。



振り返ることなく。ただ真っ直ぐに。

山本を包むリボーンの気配が雲雀を威嚇するように色濃く残っていたことなど、気にも留めず、雲雀は歩みを止めなかった。




Fin.
2009/02/26

改 2009/09/12


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