『ねぇ、リボーン。聞いて欲しいことがあるんだ』



沢田家のベランダに出て少し欠けた月を見上げていた時、背後から綱吉に話しかけられた。
未来に行って白蘭との壮絶な戦いを終えて以降、考え込む姿を見守っていた矢先のこと。

あまりいい予感はしねぇな、と思いながらバカ弟子の方を振り向くと。



『俺がボスを引き受ける代わりに・・・条件がある』

『やっと決心しやがったか。それでどんな条件だ?』


冗談も通じなさそうな硬い表情。
真面目に話している綱吉には悪いが、何となく彼が言いたい事は分かっている。


『お前が見つけてくれた守護者は解散する。イタリアで立候補してくれる人に任せるわけにはいかないかな?』
『・・・・・本気で言ってんのか?』
『本気だよ。京子ちゃんやハルは勿論、山本やお兄さん達をこれ以上巻き込むのはもう嫌なんだ!』
『なるほどな。それがお前の出した結論ってわけか』


大きな決断だったに違いない。
何をやっても駄目で、臆病だった性格はすぐに変えられないが、未来で体験したものは大きかったようだ。
綱吉の覚悟は本物だとリボーンは胸中で溜息を吐いた。



『好きにしろ』


まだ甘チャンで未熟者ではあるが立派なボスに鍛えるには本国・イタリアの方が都合は良い。
リボーン自身の任務達成のためにも綱吉の意見に反対する理由はない。


最強のアルコバレーノとして。
一流のヒットマンとして。

己の矜持に従って歩み続ける道に、間違いはないと信じていた。










君、在りて 2







その日、本格的な秋の到来で夜は少し冷え込んでいた。
背後にある球場からは熱気を含んだ大きな歓声が何度もあがっていたが関係ない。
すでに目的は果たしたというように振り返ることなく歩き続け、『野球の聖地』と謳われる球場から
数十メートル離れた駐車場に預けていた自分の車に乗り込もうとドアを開けた時だった。




「なぁ!!お、お前・・・小僧なのか?」



背後から慌てて駆けてきた気配。
それに続いてかけられた言葉に内心驚きつつ、ゆっくりとリボーンは振り返った。





「よう、山本。久しぶりだな」


プロ野球正規の白いユニホームに身を包み、汗だくになった青年。
自分が知る時よりも身長は勿論、骨格、筋肉も十分に成長したらしい元・弟子が立っていた。



「やっぱり小僧だったんだな、あの視線」
「気づいていたのか?さすがだな」
「はは、そりゃ気付くぜ?・・・・昔、地下十階のアジトで初めて銃を突き付けられた時と同じ気配だった」
「そうだったな。だからこそ成長した俺の姿を見ても分かったのか」
「ああ。アルコバレーノの呪い、解けたんだな」



よかったな、小僧!

満面の笑みで喜ばれ、年を重ねても性格は相変わらずな男のようである。
久しぶりの再会にも関わらず、気負いもなく受け入れる山本。
変わらない様子に懐かしさが込み上げて、思わず口元に笑みが浮かんだ。



「山本、お前こんな時に暢気に話していて平気なのか?今日のヒーローじゃねぇか」
「はは、サンキュー。思わず走り出して来ちまったんだ、ヤバイのな」



やっぱり不味いよなぁ、と他人事のように呟きながら頬を掻く姿は昔と変わらない。
十年以上前に綱吉達と別れたまま。
あの時から大人びた表情と幼子のような表情をする男だった。
運動能力や戦闘技術の高さだけでは計り知れない不思議な魅力を持っていた。

だからこそ綱吉は・・・・。




「山本、ボンゴレのことで大事な話がある。このまま乗るかどうかはお前が決めろ」


ついさっき、日本一のチームになった山本。
彼の放った決勝打は後世まで語り継がれるだろう。
例え試合は終っていてもこれからミーティングや取材、今夜にはビールかけが名物になっている祝勝会。
明日以降もテレビのインタビューといった多忙な日々を送るのは目に見えて分かっている。
だからこそ、球場まで足を運んだものの出直そうとしたというのに。




(馬鹿なヤツだな)


他人に甘いところも変わっていない。
自ら罠に掛かりにきた愚かな餌を前に、大人しく帰してやるわけにはいかない。
背後から未だに聞こえてくる球場からの歓声を聞きながら、
リボーンは意地悪い笑みを浮かべ、助手席のドアを開けて返事を待ったのだった。




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