今夜、並盛中学にて嵐の守護者同士の戦いが行われた。


『スクアーロはいくつもの流派を潰してきた男・・・流派に頼っちゃ勝機はないぜ』


昔からスクアーロを知っているというディーノの言葉が頭を巡る。


『奴を倒すには流派を超えるしかねぇ』


ヴァリアーのボスになるはずだった程の実力。
何より実際に手合わせし、敗北した山本には彼の強さが嫌というほど分かっていた。
ディーノ達に病院へと連れて行かれる獄寺を見送ってから。
校門前で了平と別れ、綱吉やバジル、リボーンと共に山本は帰ることになった。



「山本、どうかしたのか?」



すぐ隣からいつも通り肩に乗った赤ん坊の声が聞こえてくる。



「ん?いや、えーっとなぁ」



先程から気になっていたことを口にしようかどうか迷う。
そっと前方を窺うと綱吉とバジルは少し先を歩きながら、今日の獄寺の戦いについて話をしていた。
それを確認し、すぐ後ろを歩いていた自身の歩調を緩める。



「あのさ、小僧」




覚悟を決めて、肩に在る小さな存在に向かって山本は話しかけた。





確かなモノ








「さっきオレが雲雀のこと怒らせちまった時、小僧が助けてくれただろ?」



並中を破壊されたことに激怒し、スクアーロまで噛み殺そうとした雲雀を止め損なった。
丸腰で飛び込んだため、雲雀と戦闘になればきっと無事では済まなかったはずである。
あの後やって来たディーノや重傷を負った獄寺のことが心配で、お礼を言いそびれていたのだ。



「えっと・・・サンキューな、小僧」

「今、雲雀は味方なんだぞ。お前らが争ってもメリットなんて無いからな」



冷静なその一言に苦笑する。
この赤ん坊が言うことはいつも正しい。
スクアーロは自分が倒すんだ、と意気込んでつい雲雀を刺激してしまった。
そんな自分が未熟に思え、山本は心の中で己の行動を反省するしかない。



「まぁ、あれでこそ雲雀だからな。お前は気にすんな」



ペチリ、と小さな手のひらが頬っぺたに当たる感触。
横目でリボーンを見ると視線がぶつかる。優しい瞳でこちらを見ていた。



(はは、元気づけてくれてんだな)


すっかり慣れて肩に馴染む重さや体温。
それらを身近に感じることで、何だかくすぐったい気持ちにさせられる。
流派を超えることについてまだ答えは出ないが、彼が傍にいると何だか大丈夫だと思えるから不思議だ。


リボーンから発せられる言葉の一つ一つが自信に溢れているように聞こえるからだろうか?




「そうだ、山本。俺もお前にずっと聞きてぇことがあったんだ」

「おっ?なんだ、小僧」


改まった口調で話す彼に、その先を促すように山本は笑った。




「初めて雲雀と応接室で会った時、随分喧嘩慣れしていたのは何故だ?」

「へっ・・・?うーん、そうだなぁ・・・」



予想外の質問に少し戸惑う。
雲雀と初めて出会った日のことをゆっくりと思い返してみた。



(喧嘩慣れ・・・確かにそうとも言えるかな)


別に争う気はなかったが、あの時の獄寺の手の早さには驚いた。
そしてリボーンこそ、そうなるように仕組んだ張本人なのに。
あの時の様子を思い出すと何だか可笑しくて仕方無い。



「小僧、昔話になっちまうけど聞いてくれるか?」


まず思い出すのは血のように赤く染まった夕日。

初めて人を殴った、昔の話。



街灯の下、すでに綱吉達とは随分離れてその背は小さく見えるだけになっていた。





「小学生の頃に初めて喧嘩したんだ」


確か4年生ぐらいだった。未熟ながらようやく善悪の区別が分かるようになった、そんな頃。
あの日は学校終わりにクラスの友人らと河原でドッチボールをして遊んでいた。
すると高校生くらいの男が数人やって来て、河原から続く橋の下に集まって煙草を吸っていた。
今思えば典型的な不良。そんな中、彼らの近くに転がったボールを友人の1人が取りに行った時。
彼らは突然その子を殴ったのだ。彼らの傍に近寄った、だたそれだけで。
それから、その近くにいたもう1人の友人も理不尽な蹴りを食らって小さな体は見事に吹っ飛んだ。
突然のことに驚きながらも、すぐ彼らに駆け寄った。
殴られた者は頬が膨れ上がる痛みに泣きだし、蹴られた者は茫然と震えているしかない、そんな2人の姿。
その時、初めて自分の中で何かがプツリと切れる音が聞こえた。

すでに学校の野球クラブに入部していた山本は他の友人達より背が高くて体格も良い方だったから。



「オレがやらなくちゃって思ったんだ。コイツらを許しちゃいけねぇって本気で思った」


そう呟いてリボーンを見ると、彼は静かに話を聞いてくれていた。



「ただ我武者羅に向かって行っただけだから簡単に投げ飛ばされてさ。全然勝てなかった」


複数の高校生相手に無謀だとしか言えないだろう。
それでも何度も、何度も、拳を握って向かって行った。
最初は簡単に避けられて、相手は完全に面白がっていたように思う。
気付けば誰よりも酷い怪我を負ってしまっていた。



「でも暫らくするとスピードで勝ってることに気付いてさ」



数人で囲まれても標的を決めて、相手の攻撃を避けさえすればパンチを当てられると思った。



「オレ、その時から視力だけはいいからさ。殴られそうになったのを避けて思いっきり顔を殴ってやったんだ」



さすがに高校生には身長で負けているため、そのパンチは下から男の顎に決まった。
今思えば顎への打撃は人間の脳を揺さぶる威力を持つ。
そのパンチを食らった高校生の男はその場に倒れた。驚いていたのは他の仲間たちだ。
隙を見逃さず後はタックルするように次々と殴りかかり、気づけば全員が蹲るように倒れていた。




「オレは勝った。でも、自分がやったことにすっげぇ怖くなってさ」



友人達は興奮しながら尊敬の眼差しを向けてくれたけれど。



「負わされた怪我よりも、相手を殴った自分の手がすごく痛かった」



そして、その手以上に相手が痛い思いをしているのだと思うと急に相手が心配になった。
全部、苦い思い出だ。

喧嘩はしたくない、と思いながらもそれからも何度か、誰かのために喧嘩をすることが増えていったように思う。
さすがに成長して経験を積めば色々なことが分かって来る。
あまり気持ちのいいものではないから、山本は自然と喧嘩にならないよう調和を図るようになっていった。



「喧嘩しねぇのが一番楽だと思うんだけど・・・オレも負けず嫌いだからさ」


雲雀やスクアーロには、リベンジしたいと奮い立ってしまう手前。
己の割り切れない性格には苦笑するしかない。
話を聞いてくれたリボーンがどう思ったのか分からなくて、そっと彼の様子を窺った。

すると。



「そうか、俺の目に狂いはなかったな」


ニヤリと自信満々な、いつもの笑みを浮かべた赤ん坊がいた。



「んん?そ、そうか?」

「あぁ、お前の度胸や判断力はその頃からあったんだな」

「えっ・・・・そんな褒められるもんじゃねぇと思うけど」

「お前には天性の才能と努力を惜しまねぇ一面がある。殺し屋には理想的だぞ」

「はは、小僧にそう言われると光栄だ。マフィアごっこ楽しいもんなー」



物騒な言葉が飛び出すのはいつものこと。赤ん坊の姿とのギャップが何より面白い。



(可愛いなぁ、小僧は)



ひょうきんな衣装を着て銃を放つ姿も、大人びた言葉で綱吉らに命令する姿も。
何だか一生懸命で山本には微笑ましく映るのだ。



「修業はどうだ、山本」

「うーん、ひたすら鍛練のみって感じだな」



父から授かった時雨蒼燕流。
スクアーロから自己流であることを見抜かれ、負けたことが悔しくて。
寝る間も惜しんで竹刀を振り続けていた。




「そうか。俺も時雨蒼燕流について詳しく知らねぇから楽しみだぞ」

「はは、サンキュー!スクアーロにどれだけ通用するかは分からねぇけど」



楽しみで仕方無い、というように今から身体がゾクゾクと騒いでる。
獄寺の戦いを観戦し、雲雀から負けるなと言われて興奮しているのかも知れない。
野球だって勝負は分からないから楽しい。
逆転のチャンスにバッターボックスに立つようかのように。
ただ、ワクワクしていた。


野球しかしてこなかった日々と違い、最近やけに血が騒いでいるように感じる。
忘れていた、失くしていた『何か』を取り戻すような、そんな感覚。
確かに恐れもあるはずだ。それでも暗殺剣と呼ばれる剣術を受け継いだ。
己に馴染むような、絶対的な力を感じ取っていた。
だから早く戦いたい、なんて・・・自分はどこか奇妙しいのだろうかと思うほど。
山本は今から勝負が楽しみだった。




「いよいよ次はお前の番だな。雨のリングは任せたぞ」


「あぁ、もちろん!ツナや獄寺、小僧や皆のために絶対勝つぜ」



何よりも、同じ相手に2度も負けるなんて考えたくもない。



「山本、お前の甘さは命取りになると・・・俺は今まで思ってきた」


微かに聞こえてきたリボーンの声に、思わず歩みを止めて彼を見つめる。
気付けば綱吉の家はすぐそこという所に来ていた。
前を歩いていたはずの綱吉達はすでに玄関に中へ入ろうとしている。



「だがな、さっきの話聞いて思ったぞ。お前は、そのままでいい」


戦った相手にまで思いやりを持ってしまうその性分のままでいろ、と。
そう言い残し、リボーンは山本の肩から飛び降りて塀の上へ。



「俺がいくらでも見届けてやる。だから負けんじゃねぇぞ、山本」



聞こえてくる言葉の一つ一つが心に響いていった。
変わらずに戦えという彼の黒目からは全幅の信頼が読み取れる。
真っ直ぐそんな気持ちを向けてくれる彼の姿がどうしようもなく嬉しかった。



「おう!まだ分かんねぇけどディーノさんもアドバイスくれたし、勝ってみせるぜ」



相手の命を取りたいわけじゃない。
実際に綱吉達が巻き込まれている状態も良く分かっていない。
それでも。




ただ、これだけは確かだと言える。

争いは確かに好きじゃないけれど。

仲間がいるから負けられない。

ひとりじゃないから戦える。





どうしても、勝ちたかった。




「じゃあ、また明日な。山本」

「おう!またな、小僧」



おやすみ、と手を振ってその場で別れる。
そのまま見守っていると、リボーンは素早い動きで綱吉の家の塀の向こうに姿を消した。





(もう1時か。風呂入って寝なきゃな)


腕時計を確信すると欠伸が零れた。




ディーノの話を聞いてから、固くなってしまっていた身体が少し楽になったように思う。
これで明日、いや既に今夜となった本番を前にリラックスして臨めそうだ。



考えなければならないのは、流派を超えることについて。



(まだ大丈夫だよな)



スクアーロに敗れてからずっと修行をしてきた。時間だってまだ残されている。
勝機はあるんだ、と自分に大きく言い聞かせて。




「・・・・はは、すげぇ楽しみだ」



どんな勝負になるのかは見当もつかない。

それでも、リボーンがくれた言葉を胸に。



戦場に立つ。






山本武はまだ、時雨金時と出会っていない。
まるで分身であるかのようなソレは山本に更なる力を与える。



そして。

命がけの勝負の中、峰打ちにこだわることも。
追い込まれた後、一発逆転を繰り出すことも。
その先に待つ、残酷な結末も。



今はまだ。


何も知らぬまま、山本は己の家に向かって歩き出した。





Fin
2009/03/07



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