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『なぁ、ツナ。本当について行かなくても大丈夫なのか?』
『ありがとう、俺は大丈夫だよ。山本は大好きな野球を頑張ってね』
遠く離れても俺はずっと応援してるから!!
少し心細そうな笑みを浮かべ、それでも綱吉は全力で背中を押してくれた。
彼が下した決断に比べれば、どんな困難も乗り越えて行けると山本は思った。
綱吉達が並盛から離れたのは確かに寂しかったが、それでも自分には野球があるから。
それからは時たま父親を手伝いながら朝から晩まで野球三昧。
野球の強豪校へ進学して甲子園出場を果たし、最後の学年ではベスト4まで進出した。
秋にはドラフト指名を受けてプロの世界に入ることが決まって、更に野球漬けの毎日。
それを望んだ。応援してくれる父親のため、綱吉達のため、何よりも自分のために。
『化け物だよ、お前・・・・俺、山本の球なんて受けられねぇよ』
真正面から拒絶され、いつの間にか全力で球を投げて走って、打つなんてことができなくなった。
周りとの力の差に無意識に知らないふりをしながら上手く力を抑えて。
周囲に気付かれないように笑って誤魔化していたけれど、聡い人間には気付かれ始め。
そんな歴然とした差もプロの世界ではありえないと期待していたが結果は何も変わらなかった。
時雨蒼燕流を受け継ぎ、未来の世界で赤ん坊に鍛えられ、ボックス兵器での戦いを極めた時から。
普通の身体能力以上のモノを得た自分の運命は決まっていたのかも知れない。
君、在りて 5
「小僧?」
気がつけばホテルの清潔な天井を見上げていた。
覆い被さるように自分を見下ろす黒曜の瞳と視線が合う。
まるで感情が読めない。状況が飲み込めないまま、
それでも何とかいつも通り笑おうと試みる。
「どうした?まさかあれくらいで酔ったのか、小僧?」
返事はない。それでもリボーンの手は淀みなくバスローブを脱がしにかかった。
「ちょっ、待てよ。小僧、どうしたんだっ?」
少しだけ抵抗してみても、押し返す身体は強靭でビクともしない。
「・・・・抱かせろ、山本」
「!!」
耳元で告げられた声に体が硬直する。
それでも男の指先が首筋を擽るように動く仕草に冗談ではないのだと気付いた。
「小僧、何で・・・っ・・」
抗議の言葉を言い終える前に塞がれた唇。
初めて重なった男との口付けは思ったよりも嫌悪を感じない。それぐらい混乱していた。
暴れることも忘れて思わず目を瞑る。固まったままの唇を抉じ開けられ、相手の舌が侵入してくる。
逃げるように体を引いても、頭を固定されていて動けない。
「んー・・っ・・ぅん」
飲み込み切れなかった唾液が顎を伝って落ちていく。リボーンの舌がそれを追いかけて首筋に移動した。
「エロい顔するじゃねえか。燃えるな」
「はっ・・はぁ・・・も、訳分かんねぇ・・・」
ニヤリと笑う顔は凶悪で、無意識に力の差を感じさせる。
戦う前から諦めるのは主義じゃないが生き生きとしている目の前の男に、
勝てる気がしないのはなぜだろう。
心の中で暫らく会っていない親友に助けを求めてみるが、
彼はきっとそれどころではないだろうと思い直す。
「ああ、もう!痛くしたら・・・小僧のこと一生恨んでやるからな!」
このまま乱闘しようが、泣き落しを試みようが止まる気配がない男の様子に覚悟を決める。
男に抱かれるなど未知の領域でしかないというのに。
どうしてこんな事になったのか分からない。
それでも、多少の恐怖に竦む身体を叱咤して、山本は真正面の男を睨みつけた。
まだ夜は始まったばかりである。
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