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『・・・・こ、ぞう・・・はよー・・』
白いシーツに埋もれて眠る山本を見守っていると彼の瞼が震えた。
昨日、いや今朝方まで酷使されたせいか眼の下にはクマが浮かんでいる。
昔から健康的な表情しか見せない山本の疲労は計り知れないものらしい。
それなのに目が合った瞬間、晴々しく笑うものだから。
『残念ながらもう夕方だぞ、山本』
殺し屋としての才能だけを欲したわけではない。
能天気で、天然かと思いきや他人の機微に敏く、油断ならない男。
他人を甘やかして、安心させて、自分の傷は抱え込む、不器用な男。
こんなにも付け入り易い人間は見たことがない。
誰かに攫われるまでに攫ってやろう。
曝される裸体を隠そうともせず、ベッドに起き上がった山本を支え、
リボーンは山本と離れてからのボンゴレの動向を改めて説明したのだった。
君、在りて 8
ボンゴレ本部の中でも最も頑丈で豪奢な扉を開いた。
「あっ、リボーンさん!よかった、連絡が取れないから心配しましたよ」
「リボーン!?お前、勝手なことすんなっ!もう急に雲雀さんや京子ちゃんのお兄さんが来てたいへ・・っ!!」
綱吉の執務室にはたくさんの電信機器が設置され、作戦本部として稼働していたことが見て取れた。
運よく獄寺と綱吉が中におり、リボーンが人を連れて部屋に入っていくと。
「「・・・・山本っ!!!!!」」
「助っ人登場ーってな。ツナ、獄寺、久しぶり!」
リボーンが日本で購入してやったスーツに身を包んだ山本。
実家から持ってきた時雨金時を背負った姿は中学生の頃と変わらなく思う。
そう錯覚してしまいそうになるのは状況に似つかわしくないお得意の笑顔のせいだろうか。
昔から山本がいるだけで周囲が和み、いい具合に緊張が解ける循環ができていた。
生まれ持った才能は戦闘センスだけに止まらず、ファミリーにはやはり必要な男だと再確認する。
イタリアに来る間にできる限り状況を説明したものの、本当にすべて理解しているのか判らないが。
それでも仲間のために全力で戦う。
山本武とは昔からそんな男である。
「・・・雲雀さん達が現れてからは山本も来ちゃうんじゃないかって思ってたんだ」
「山本、テメェ・・・10代目のお気持ちを裏切りやがって!!!」
「黙れ、2人とも。アイツら良い働きっぷりらしいじゃねぇか。山本も俺も加わるんだ、戦況は変わるぞ」
「リボーン!!せめて、山本だけは・・・山本には野球があるんだ・・・怪我でもしたら・・・」
「ツナ・・・。そんな顔しないでくれよ、オレはちゃんと納得して小僧について来たんだぜ」
顔を歪めて泣きそうな表情になった綱吉と憤慨して怒鳴るしかできない獄寺。
対照的な様子の2人に困ったように山本が駆け寄っていった。
ここからは当人たちの話し合いだ、と。
リボーンは懐から愛銃を取り出して整備を始めることにした。
綱吉は確かに強くなった。
それでも根本的な甘さは相変わらずだ。
きっと山本の必死の説得で、彼は受け入れるしかなくなるだろう。
先ほど綱吉にも告げたように、戦況は変わる。
それだけでなく、ボンゴレファミリーも生まれ変わるのだ。
守護者不在のままでリングの使用を認めなかった10代目ボスは変わらずにはいられなくなる。
ボンゴレも、10代目ファミリーたちも、終わらない。
なんせ、この自分が見込んで育てた奴らなのだから。
信じることも家庭教師の務めだというように。
リボーンはひとり、戦況を見据える。
「さぁ、ヴァリアーやミルフィオーレに勝った10代目ファミリーの真の強さを見せてやれ」
かつての家庭教師が呟いた言葉は、そのまま彼らの反撃の狼煙となった。
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