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『えっ、じゃあ・・・ツナは守護者がいないままずっと過ごしてきたってことか!?』
ルームサービスで頼んだイタリアンのコースを食べながら、
綱吉たちがどのような生活をしていたのかリボーンが話してくれた。
『イタリアで名乗りを上げた奴はたくさんいたが、ツナが認める人物は現れなかった』
リボーンやディーノが守護者を揃えるように説得を試みても上手くいかなかったこと。
守護者が揃わない以上、ボンゴレリングを使用するのは危険だからと屋敷の地下に封印したこと。
綱吉や獄寺はSランクのリングでボックスを開けて戦っていること。
最近の暴動は守護者不在のままのボンゴレファミリーを信じることができない故に起こったこと。
僅かな味方だけで綱吉と綱吉の意志を汲んだ獄寺は必死にボンゴレを受け継ごうとしたが、
ついにはヴァリアーさえも沈黙するような大きな内乱へと発展してしまったことを聞いた。
『大事なダチが・・・・そんなに踏ん張ってたなんて・・・』
自分を誇れるほど、全力で戦うことを忘れてしまった自分だけれど。
まだ間に合うというのなら戦いたい。
『行こうぜ、小僧』
決意を乗せて見つめた視線の先。
真正面から受け止めた黒衣の男が満足げな表情を浮かべていた。
君、在りて 9
先にイタリア入りしていた雲雀や笹川と合流し、いつの間にかランボや骸達までやって来ていた。
いつの間にか揃ったかつての仲間たち。
驚くメンバーの中でリボーンだけが表情を変えなかったため、きっとこれも作戦だったのだろうと思う。
戦況の1つ、2つどころか5つ先まで読んで状況を優位にしていくのはリボーンの得意分野だ。
昔は赤ん坊の姿で目立つことはなかったが、現在綱吉の少し後ろで影のように寄り添う青年は、
誰よりも圧倒的な存在感を放っていた。
あの夜、ベッドの中で見た夜空を思い起こす昏い瞳を映したまま。
「なぁ、小僧。ずーっとそんな顔してんのか?」
作戦本部という名の綱吉の執務室には今、リボーンと山本の2人だけ。
警戒態勢は深夜も続くため、交代しながら徹夜で見張りをたてている。
イタリアに来てから5日目の夜。今夜はその当番だった。
「山本、唐突にどうしたんだ?」
こちらに来てから2人きりになったのは初めてだ。
だからこそ、問いたいことがあった。
「オレは小僧にそんな顔させたくないのに。どうしたらいいのか解らねぇんだ」
バカでごめんな、と苦い笑みが浮かんだ。
慣れない異国での生活や久しぶりに駆ける命がけの戦場は気が抜けない。
それでも少しの暇ができれば、日本で過ごした夜のことを思い出す。
離れていた間に赤ん坊から本来の姿を取り戻した男のことを思い出す。
この感情が何なのか、答えは本人が持っている気がして。
山本はじっとリボーンの顔を見返した。
「本当に馬鹿だな。気付かなければ逃げられたっていうのに」
手元の照明が歪む赤い唇を照らす。
それは爬虫類が獲物を狙った時のような絶対的な力を感じさせた。
「山本、お前の全てを俺に寄越せ」
漆黒の瞳が逃がさない、と告げているようで。
その闇の中に吸い込まれてもいいと、本気で考えてしまった。
だから。
「全部やる。オレ、小僧の傍にいるって言っただろ?」
煌々と輝く満月のように。
その瞳を照らし続ける存在になれるというのなら。
「オレがさ、小僧のこと幸せにしてやるよ」
新天地として生きると決めたこの暗い世界の中で。
ただ、お前の幸福を、願う。
「山本がいれば、それだけで至福の人生だ」
元・アルコバレーノである彼が放ったその一言には驚いた。
そして、こんな切迫した状況も関わらず、目を細めて笑ったリボーンは、
まるで迷子が帰る家を見つけた時のように安堵の表情を浮かべているようにみえて。
山本にはそれが何よりも、嬉しいことだった。
Fin.
2010/05/30
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