過去CLAPF




「あれ?もしかして小僧、か?」



夜も更け、誰もいない公園。
静かなその闇を楽しんでいた時に響いた声に、リボーンは顔を上げた。


「・・・山本」


コンビニの買い物袋を提げた少年が足早に近づいてきた。
聞けば、牛乳が無くなったので買いに行ってきたとのこと。
朝晩に飲むことを日課としている山本らしい言葉である。



「小僧はこんな時間に何してるんだ?」


赤ん坊が1人で居ていい時間じゃないぞ、と心配気に顔を覗きこまれた。
山本にとっては面白い赤ん坊、と一言で済まされているのを知っている。
体中が柔らかく、手足も小さい。それでもこれは仮の姿。
説明したところで山本には理解できないだろう。すげぇのな、で終わりそうだ。



「迷子?怪我とかしてねぇ?あっ、ランボと喧嘩して家に帰りにくいとか?」
「・・・どれも違ぇぞ。俺は夜の散歩を楽しんでただけだ」



山本の口から飛び出す言葉は新鮮だ。
綱吉が聞いたら卒倒しかねない。こんな扱いを許しているのは山本だけである。


「んーそっか?でもよ、何か帰りにくそうな顔してるのな」


何故かこう云う時だけ聡い。
普段はあんなにド天然なくせに。
首を傾げて様子を窺う山本に対して心の中で苦笑する。



「ガキ扱いすんじゃねぇ。俺は最強の殺し屋だぞ」



山本には冗談としか受け入れられていないが。
この手がどれだけの命を奪い、恨みを募らせているか。山本は知らない。
闇から闇へと暗躍し、平気で人を殺せる。それがリボーンの生きる世界。
銃声と悲鳴が響き合う暗闇で生きている。




(ただ、だからこそ)



リボーンにとって沢田家は微温湯に浸っているような。
表現しがたい居心地の悪さを感じる時がある。
無条件に与えられる優しい感情。笑顔。
それらは時に焦燥となって呪われた己の身体を責め立てる。
9代目から与えられた任務は絶対だ。
だからこそ、リボーンは綱吉が一人前になるまであの家を出る気はない。
それでも無性に息苦しくなる。
アルコバレーノ最強と謳われる自分には不相応だと思う。
贅沢すぎる日常。望んだことなどない、家族という温もり。
普段はそんなこと思わないのに、急に居心地が悪くなる。
無性に人を殺したくなる、こんな夜は特に。



「今夜は、月が出ていないからだ」



新月。月の光がない夜は暗殺に最適である。
この身に潜む、冷酷な男の仮面が剥がれ出す。


「そっか。寂しかったんだな、小僧は」


ふわり。体が宙に浮いて、温かな両腕に抱きしめられた。
思わず、目を見開く。
なぜそんな結論を出したのか、優秀なリボーンの頭脳でも分からない。
ただ、山本の腕が労わるように、慈しむように。
優しく、小さなこの身体を抱きしめるから。
反論は口から飛び出すことなく、為されるがまま。リボーンは瞼を閉じた。



「今夜はウチに泊まりに来いよ。オレがずっと一緒に居るからさ」


普段から優しい声をした山本の言葉は、リボーンの身体に潜む闇を洗い流してしまう。



(全く、お前と云う男は)


心をかき乱す。
その優しさが、時に暴力的なまでの刃となってリボーンを衝く。
それが完全に無自覚だから恐ろしい。
だからこそ愛おしくて仕方無い、この純粋な少年のことが。




「責任とって、添い寝しろよ」

今はそれで勘弁してやる、と心の中だけで呟いて。
了解、と朗らかに笑う山本を顔をじっと見つめた。


休息だと思えばいい。
長い人生で訪れた、ほんの一瞬の・・・。
ただその時間がリボーンにとって何よりも愛しいものに変わるまで。
あと、もう少し。



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