リボーンが呪われた身体になる前、純粋に小さな子供でしかなかった頃の記憶。
それを思い出すには長い月日が経ち過ぎており、また、意識的に忘れた部分もあると自覚している。
リボーンにとっては無理に思いだす価値もない。あの頃は身体的にも社会的にも未熟で、稚拙だった。
誰かの庇護がないと生きていけない。欲しい物に手が届かない。己の力を認めさせるにも一苦労。
いつだって自分の力で、思うがままに生きたいと野心を燃やしていたリボーンは息を潜めて時間が過ぎるのを待っていた。
身体もある程度成長し、欲した力を上手く扱えるようになった時、それまで過ごした場所には何の未練もなく。
リボーンは育った施設も、周囲にいたお節介な大人や同じような境遇の子供も、あっさりと捨てて己の足で歩き始めた。

懐かしむような故郷も、人も、必要無い。帰りたいと思う場所も存在しない。
それでよかった。何物にも囚われず、遺すことなく、いつでも身軽に生きていたかった。
殺し屋として名を馳せる前から、リボーンはそんな生き方しか望んでいなかったから。





『えっ、こんな凄ぇ部屋がオレ達の家になるのか?すげぇ!ありがとな、小僧』




悪夢と呼ぶにはあまりにも長い時間を過ごしたリボーンが初めて欲した男・山本武。
呪いが解ける前、日本からイタリアへ渡り、ボンゴレ10代目雨の守護者となった青年と住む場所を購入したこと。
誰にも知られることはないが、それはリボーンにとって天変地異が起きたような驚くべき変化だった。








その居場所をいとしいと云う








ボンゴレ8代目に拾われ、その次の当主となった9代目に忠誠を誓って殺し屋としての地位を確立した。
裏切り、欺き、命を奪い合うという血生臭いマフィアの世界。
殺されないためには殺すしかない。信じた方が負けなのだ、と嗤われるのが大半だというのに。
まるで影のように寄り添い、共に育った9代目はリボーンのことを友と呼び、仲間と呼び、家族なのだと笑ってくれた。
その頃からリボーンにとって重要なのはボンゴレの伝統を守り、繁栄をもたらそうと心を砕く9代目の意志に従うこと。
リボーン自身、最強の殺し屋として実力を認められ、名を馳せることもその目的の一部でしかなく。
命を懸けてでも守りたいとリボーンが優先するのはいつだってボンゴレ9代目に直結するものだった。
ファミリーとして自分を迎え入れてくれる人の温かさを初めて知ったからこそ。
9代目の歩む王の道につき従う影として共に進み、老いていくのも悪くないと思っていた。

その誓いが少し変化したのはアルコバレーノに選ばれ、呪われた身体を手にしたあとだ。
当初アルコバレーノの使命など眼中にはなかったが、同じ運命の下に集まった者の中に不思議な瞳をした女がいた。
まるで星空のような輝きを放つ静かな眼差しを持ったルーチェの存在に全員が救われた。
だからこそあの運命の日、絶望するに相応しい己の身体に愕然としながら、最後は受け入れることができたのだ。


これまで以上に、リボーンは信念の下、仕事を糧に生きるようになった。
ボンゴレファミリーに対する恩、9代目の存在、家光を筆頭とした仲間たち。
どんどん周囲が変化して老いていく、そんな正しい時間の流れに取り残される事にもすっかり慣れた頃。
リボーンは家庭教師として日本の地に降り立った。

始まりというものがあるなら、それはきっとここから。









カーテンの隙間から淡い月の光が差し込んでいた。
自宅の寝室は今、リボーンと山本が生み出す淫猥な音と熱気で溢れ返っている。


「山本、気持ちいいか?」
「っ、やめ、・・・ダメだって・・!!」


組み敷いたまま耳元で囁けば、ビクっと身体を震わせて喘ぐ山本の顔に、こちらの方が煽れて。
舌打ちを隠さず、リボーンは山本の腰を掴んで足を大きく開かせ、更に奥へと自身を埋め込んだ。



「なぁ・・・傷、開いちまうって・・・っ」


久しぶりに同行する形で赴いた任務先で山本を庇って怪我をして以来、病室に閉じ込められてウンザリしていた。
いくら現・ボンゴレ幹部といえど数年鍛えただけの男共と違い、こちらは何十年も殺しの世界で戦ってきたのだ。
経験だけでなく体の鍛え方からまず違うというのに、ヒヨっこの教え子たちは安静にしていろとピーピーうるさい。
手術後、目覚めた時に見た山本の悔いるような表情が嫌で最初は大人しくしていたが、すでに5日も前の話。
そろそろ頃合いだろう、と判断し、お馴染みの愛銃を構えて医者を脅すという強硬策で退院した。
その足で直接山本が居る自宅に向かい、寝室で酒を飲んでいる所をあっさりと捕まえ、
突然の出来事に驚き固まっていた身体を押し倒し、文句は直接その口を塞ぐことで封じ込めて。
それだけで息を詰めて震える様子を見て、リボーンは我慢していた分、本能に従って目の前の身体に溺れていった。





「うぁ・・・ヤッ・・・めろ、よ」
「お前こそいい加減諦めろ。後ろは良い具合だぞ」


抵抗する山本をよそに、殊更ゆっくりと丁寧な愛撫を繰り返す。
顔に、胸部に、背中に、太腿に、口付けを落として、久しぶりに抱く身体を楽しんだ。
衣服は全てはぎ取られ、全裸となった山本はそれでも必死で制止しようとする。
シャツを脱ぎさって露わとなったリボーンの上半身に巻かれた包帯を意識してからは余計に。
広範囲で負傷した箇所はガーゼに覆われ、その上から真っ白な包帯を巻いている為、隠しきれない。
すでに痛みは我慢できる程度まで回復し、何の支障も無いと云うのに山本は心配げに瞳を揺らす。
はっきり言って欲情させられるだけで、手加減など出来そうもない位だ。



「お前のココは素直に銜えこんでるぞ?」
「っ、・・・は、ァ!!」


ココ、と繋がった場所を指でなぞると上擦った山本の声が空気を震わす。
それと同時に激しく締め付けられ、リボーンはそっと息を詰めると反撃とばかりに挿入を深くした。
まるでそれを嫌がるように頭を反らせた山本の露わになった首筋に舌を這わせる。
微かに浮かんでいる汗の塩辛い味に興奮し、思わず噛み付くと、うわぁっと悲鳴が上がった。
素で驚いたのか、全く色気のない声だと呆れつつ、それでも山本に銜えこまれるリボーン自身は素直に肥大する。
だから結局、山本ならどんな姿でも声でも欲情するのだ、と開き直るように、無言で抜き差しを繰り返した。


「ぁ、それ、ヤめっ・・・ダメ、だっ」


ゆるりと起ち上がったまま震えていた山本の性器を握り、上下に滑らせると奥が更に締まる。
山本に触れている場所すべてが熱かった。ふ、う、あ、と零す音にならない山本の吐息にさえ煽られて。
解放を求めて暴れまくる欲望が膨れ上がり、腰を叩きつけるように中へと突き上げる。


「んー!ぁ、もぅ・・・っ」
「・・・あぁ、イッていいぞ」


ぼろぼろと生理的な涙を流しながら限界を訴え、必死で頭を振り乱す山本を眺めながら。
奥を抉るように、時には宥めるように優しく、角度を変えて責め立てた。


「ぁあぁぁ・・・っ!!」
「・・・・・ッ、」


山本の弱い場所を掠め、かれこれ三回目の絶頂を迎えた山本の内部の心地よさに逆らわず、
リボーンは息を詰め、熱く絡みついてくる粘膜の最奥へと欲望を吐き出した。
雄の匂いが充満したベッドの上、目の前で必死に呼吸を繰り返す山本の額に唇を降らせる。
一瞬身がまえてから照れ臭そうな笑みを零した山本の顔を見て、身体中が震えるような悦びに満たされた。

あぁ、帰ってきたな、とリボーンが強く実感した後、室内は本来の静寂を取り戻したのだった。






先に山本がシャワーを浴びると言って部屋を出たのでその間にベッドメイキングを済ませておいた。
すぐ戻ってきた山本と交代する形で簡単にシャワーを使い、バスタオルを巻いたまま寝室に戻る。
心得たように救急箱を用意してくれていた山本の好意に甘え、ガーゼも新しく替えてもらった。
包帯も巻き終え、それぞれ部屋着に着替えると、今度は大人しくベッドの中に潜り込んだ。


「・・・・ハァ、今日はすげぇビックリしたぜ。勝手に退院すんなよな」
「大丈夫って言ってるのに閉じ込めたのはお前らだぞ。なら俺も好きにするまでだ」
「だってよ、まだ5日しか経ってないんだから安静にしなきゃダメなのな」
「何言ってやがる、お前とセックスできねぇ方が身体に悪ぃ。知ってるだろ?」



相変わらず温かい山本の身体を抱き締め、今度はゆっくりと唇を重ね合わせる。
同意を求めたのが間違いだったのか、耳まで真っ赤になった山本は大人しくされるがまま。
行為の余韻を残す濡れた唇に再び欲情しかけたが、今日はこれ以上許されないだろう。
何度でも山本に触れたいと思うリボーンだが、本気で山本を困らせたい訳ではないので諦めることも可能なのだ。
心外なことに周囲どころか山本にさえ、自分勝手で強引だという烙印を押されてしまっている。
しかし、リボーンの中では山本と出会い、気に入り、欲情し、恋になり、愛した時点で山本には勝てなくなった。
呪われたアルコバレーノ。世界最強のヒットマン。そんな称号は何一つ役に立たなかったからこそ。


その手を握って、握り返されて、身体を繋いで、心を差し出された時の衝撃はきっと死ぬまで言葉にできない。


日本で過ごした日々は、ボンゴレから派遣された家庭教師でしかなかったはずのリボーンの世界を変えた。
正確には、誰にも知られることなく、内密に山本との関係を特別なものへと築き上げた瞬間から。






「ったく、仕方ねぇなー」


唇を離した途端、恥ずかしそうに頭を掻きながら、きっとたくさんの言葉を飲み込んで。


「おかえり、リボーン」


遅くなっちまったけど、と気まずそうに、困ったように、それでもどこか嬉しそうに山本が微笑んだ。








(クソッ、ばか武め)



表情は冷静を装ってみたものの、心の中では舌打ちをひた隠すのに必死だった。
天然具合も山本の長所に違いないのに、こんな時ばかりは腹立たしい。
きっと山本には解らないことだとしても。


アルコバレーノになる前も、なった後も、それよりも遥か昔の幼少期でさえ。
リボーンは必要としなかった。帰りたいと思う場所も、居続けたいと欲する場所も。
9代目がいたボンゴレ本部も、賑やかだった沢田家も、リボーンにとっては最も重要な仕事場であり。
ましてや世界中に点在する隠れ家も、愛人宅も、リボーンには一時の休息を得る仮宿でしかない。
にも関わらず、綱吉達がボンゴレファミリーとして本格的に活動するため、イタリアに渡って来た時。
山本が帰る場所は自分の傍に決まっている、とリボーンは強引に山本との同居を取り決めた。
いつだって人に甘く、何でも受け入れようとする山本だから本気で嫌がらないことを理解した上での強行だ。
今日からここが俺たちの家だぞ、と告げた時に生まれた小さな違和感。
家なんて雨露が防げるただの箱くらいにしか思っていなかったというのに。
しかも、特定の人間を束縛するために用意してしまったなんて、とリボーンは一人自嘲した。




意識したことなど一度も無かった。ましてやその言葉を特別に捉えることも。


『おかえり』 
『ただいま』


けれど、山本はいつだって自然に、当たり前のように告げてくる。


オレの傍に帰ってこい、と。
お前の傍に帰ってくる、と。


それはまるで愛を告げる最もシンプルな言葉のように思えた。
好きだとか、愛してるとか、直接的な表現じゃなくとも。







「っ、あぁ、ただいま。やっぱりこの家が一番落ち着くぞ」



いつの間にか。
山本だけでなく、共に過ごす家さえも、リボーンは愛するようになっていた。





「ハハっ、そうか。オレもだぜ」



つい先程まで激しく睦み合っていたとは思えないほど明快に、健全に、無邪気に。
すべてを受け入れ、まるで慈しむように、好きだと語りかけるような顔を浮かべる山本。



(チッ、俺の完敗だな)



山本と暮らすこの家で、山本の為に選んだベッドの上で、そんな風に山本が笑ってくれるなら。
爆撃だろうが、銃弾だろうが、リボーンは恐れず、厭わず、何だって差し出せてしまうのだ。
どんなに不様でも、滑稽でも、山本と生きるためだというのなら。
生まれてから持ち続けていた矜持も、誇りも、意地も、その時だけは忘れてもいいなんて。



「山本、明日の朝は味噌汁が飲みてぇぞ」
「おっ、いいなー。夕方美味そうなアサリを買った所だから丁度良かったのな」


こんな日々が続くと云うのなら悪くない。
山本が傍にいる限り、昇る朝日を、必ずやってくる明日を、忌々しく思う日はもう来ないと知っている。


この家で迎える明日という未来を描き、リボーンはそっと瞼を閉じた。


Fin.

2011/03/08


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