|
また春がやって来る。
あと何度、愛しい少年と同じ季節を迎えられるのか。
春が来るたびそう思う。
リボーンは噛みしめるように、刻み込むように。
彼と過ごす日々を慈しんでいた。
「なぁ、山本」
「どーした小僧。何か悩み事か?」
部活終わりの山本を捕まえて一緒に帰宅する最中。
ずっと気になっていた事があり、それをふいに聞いてみたくなった。
「いや、悩み事ってわけじゃねぇんだがな」
山本の左肩に座って、投げ出した己の小さな足を見つめる。
違和感など疾うの昔に忘れてしまった赤ん坊の姿。
本来なら山本の傍に居続けることすら許されないはずなのに。
この存在を彼は当たり前のように受け入れてくれていた。
いつか。
こんな風に寄り添いながら歩む未来は、やって来るのだろうか。
最近、ふいにそんなことを考えるようになった。
「お前は俺の秘密を知っても小僧って呼ぶんだな」
「んー、だって小僧は小僧だぜ?」
「もしも、俺の呪いが解ける日が来たらどうする?」
「えっ、解く方法ってあんのか!?」
「いや、ねぇぞ。だから例えの話だ」
奇跡でも起きない限り、アルコバレーノの呪いが解けることなどない。
月に1度、満月の夜にしか本来の姿に戻れない化け物だ。
それよりも、なぜこんな例え話をする気になったのか。
リボーンは自分でも不思議だった。
再びやって来る春を前に、気付かぬ内に随分と感傷的になっていたのかもしれない。
そんな己を恥じるようにリボーンは帽子を深く被り直した。
「んー、そーだな。きっと、リボーンって呼ぶと思う」
聞こえてきた声はとても優しい音となってリボーンの耳を擽った。
「なんか意外だな。お前には一生小僧って呼ばれると思ってたぞ」
「はは、それも捨てがたいんだけどなー」
苦笑した気配を感じてリボーンは目深に被った帽子の縁を少し持ち上げる。
すると、山本はこちらの顔を見つめたままゆっくりと口を開いた。
「だってさ、呪いが解けるってことは小僧も年を取っていくってことだろ?」
「そりゃあ・・・そうだな」
「はは、さすがにオレも50歳、60歳って爺さんになってくお前に小僧って言えねぇのな」
浮かべられた無邪気な笑みを見る限り、彼はまるで何も考えず言ったように見える。
それでも、その笑みや言葉がリボーンの動きを止めるには十分な威力を持っていた。
(お前はそんな未来にまで・・・俺の傍にいるつもりか?)
一緒に年を重ねていくのだと。
そんな未来を、信じてくれるのか?
声に出したくてもリボーンはできなかった。
心を震わすこの感情は何なのだろう。
泣いてしまいそうなほど、この少年が恋しくて。
「・・・・・・・いつか、な。今はお前に小僧って呼ばれるのも悪くねぇ」
山本に存在を認められ、名を呼ばれるたびにどれだけ救われているか。
「はは、サンキューな。オレも小僧って呼ぶの好きだぜ」
呪われたこの身体が迎える先には絶望しかない。
そんな宿命をすでに受け止めたはずなのに。
一瞬でも、一秒でも、永く。
お前と共に在りたい。
「さぁ。家に帰るか、山本」
「そうだな、小僧。帰ろう」
いつか帰る場所が同じ処になる、その日まで。
今日も、明日も、明後日も。
名前を呼んで、変わらず愛を囁こう。
Fin.
2009/03/01
改 2009/09/12
|