01:呼ぶ



また春がやって来る。
あと何度、愛しい少年と同じ季節を迎えられるのか。
春が来るたびそう思う。
リボーンは噛みしめるように、刻み込むように。
彼と過ごす日々を慈しんでいた。


「なぁ、山本」

「どーした小僧。何か悩み事か?」


部活終わりの山本を捕まえて一緒に帰宅する最中。
ずっと気になっていた事があり、それをふいに聞いてみたくなった。



「いや、悩み事ってわけじゃねぇんだがな」


山本の左肩に座って、投げ出した己の小さな足を見つめる。
違和感など疾うの昔に忘れてしまった赤ん坊の姿。
本来なら山本の傍に居続けることすら許されないはずなのに。
この存在を彼は当たり前のように受け入れてくれていた。

いつか。

こんな風に寄り添いながら歩む未来は、やって来るのだろうか。
最近、ふいにそんなことを考えるようになった。


「お前は俺の秘密を知っても小僧って呼ぶんだな」

「んー、だって小僧は小僧だぜ?」

「もしも、俺の呪いが解ける日が来たらどうする?」

「えっ、解く方法ってあんのか!?」

「いや、ねぇぞ。だから例えの話だ」


奇跡でも起きない限り、アルコバレーノの呪いが解けることなどない。
月に1度、満月の夜にしか本来の姿に戻れない化け物だ。
それよりも、なぜこんな例え話をする気になったのか。
リボーンは自分でも不思議だった。
再びやって来る春を前に、気付かぬ内に随分と感傷的になっていたのかもしれない。
そんな己を恥じるようにリボーンは帽子を深く被り直した。



「んー、そーだな。きっと、リボーンって呼ぶと思う」

聞こえてきた声はとても優しい音となってリボーンの耳を擽った。


「なんか意外だな。お前には一生小僧って呼ばれると思ってたぞ」

「はは、それも捨てがたいんだけどなー」


苦笑した気配を感じてリボーンは目深に被った帽子の縁を少し持ち上げる。
すると、山本はこちらの顔を見つめたままゆっくりと口を開いた。


「だってさ、呪いが解けるってことは小僧も年を取っていくってことだろ?」

「そりゃあ・・・そうだな」

「はは、さすがにオレも50歳、60歳って爺さんになってくお前に小僧って言えねぇのな」


浮かべられた無邪気な笑みを見る限り、彼はまるで何も考えず言ったように見える。
それでも、その笑みや言葉がリボーンの動きを止めるには十分な威力を持っていた。



(お前はそんな未来にまで・・・俺の傍にいるつもりか?)



一緒に年を重ねていくのだと。

そんな未来を、信じてくれるのか?



声に出したくてもリボーンはできなかった。
心を震わすこの感情は何なのだろう。
泣いてしまいそうなほど、この少年が恋しくて。


「・・・・・・・いつか、な。今はお前に小僧って呼ばれるのも悪くねぇ」



山本に存在を認められ、名を呼ばれるたびにどれだけ救われているか。


「はは、サンキューな。オレも小僧って呼ぶの好きだぜ」


呪われたこの身体が迎える先には絶望しかない。
そんな宿命をすでに受け止めたはずなのに。
一瞬でも、一秒でも、永く。

お前と共に在りたい。


「さぁ。家に帰るか、山本」

「そうだな、小僧。帰ろう」


いつか帰る場所が同じ処になる、その日まで。

今日も、明日も、明後日も。

名前を呼んで、変わらず愛を囁こう。



Fin.
2009/03/01

改 2009/09/12

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